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牛乳乳製品と卵の自給率

1 はじめに

 お手元にあるお菓子のパッケージの原材料を確認してみてください。小麦や砂糖とともにバターと卵もよく使用されています。バターや卵は風味や主に食感を出すためのもので、スイーツ好きには欠かせない食材です。また、冷蔵庫の中には牛乳と卵を欠かさないという方は多いのではないでしょうか。今回は、そのまま食卓にも並び、また加工食品の原材料として意識せずとも口にしている牛乳乳製品と卵についてご紹介していきます。

2 牛乳乳製品のお話

(1)牛について

 牛と聞くと、白黒模様の「ホルスタイン」を真っ先にイメージする方が多いと思います。犬に柴犬やチワワといった種類があるように、牛にも多様な種類がいて、ホルスタインは乳が沢山搾れるように改良された乳用牛のうちの1品種です。日本で飼養されている乳用牛136万頭(令和3年2月1日時点)のうち99%がホルスタインなので、牛といえば白黒模様というイメージはあながち間違いではありません。乳用牛にはこの他にも乳脂肪分が高いジャージー種や、ブラウンスイス種が飼養されており、品種ごとに風味が異なっています。
 牛から搾ったままの乳を「生乳」といい、乳用牛はいつでも生乳が出ると誤解をされている方がいらっしゃるかもしれませんが、牛も人と同じ哺乳類なので、子牛を産まなければ乳は出ません。牛は誕生してから約15ヵ月後に種付けされ、その後約10ヶ月の妊娠期間を経て出産し、そこから生乳を出して活躍するようになります。私たちの食卓に届けられるまでには、産まれてから2年以上の長い歳月がかかっているのです。

(2)牛乳・乳製品について

 牧場で搾られた生乳は工場に運ばれ、受入検査、加熱殺菌処理、充填を経て「牛乳」として出荷されます。
 また、生乳を分離するとクリームと脱脂乳に分かれ、このクリームが「バター」となり、脱脂乳を濃縮・乾燥することによって「脱脂粉乳」となります。さらに、生乳に乳酸菌などを加えることにより、「チーズ」や「はっ酵乳」などが作られます。これらは乳製品と呼ばれ、このようにさまざまな形状に変化することが生乳の最大の特徴です。
 ちなみに牛乳の乳脂肪分は約4%ですが、バターの乳脂肪分は約80%であるため、100gのバターを作るには20倍の牛乳、つまり約2Lの牛乳が必要となります。

(図1) 牛乳乳製品の製造工程

(3)生産と消費の動向

 生乳の年間生産量は、令和3(2021)年度で765万トンあり、このうち半分以上の431万トンが北海道で生産されています。また、用途別にみると、牛乳等向けは400万トン、乳製品向けが360万トンとなっています。

(図2) 生乳の需給構造

 近年、牛乳乳製品の需要は拡大傾向にありましたが、緊急事態宣言下の一斉休校により給食での消費がなくなったことや、コロナによる外食需要の落ちこみ等により乳製品の需要が減少したことで、令和2年度の需要量は減少しました。
 最近、生乳廃棄の危機というニュースを目にする機会が増えたのではないでしょうか。冷涼なヨーロッパを原産地とするホルスタインの生乳生産量は季節によって変動し、暑い夏は低く、気温の低い冬から春は増加します。一方、牛乳の消費量は夏の暑い時期に需要が高まり、冬は低くなります。このため、夏と冬とで需給ギャップが生じる傾向があります。国産牛乳乳製品の需要の高まりや、インバウンド等によって高まる生乳需要に応えるため、これまで増頭増産を図り、その成果として2019年度には生乳生産量が増加に転じました。ところが、2020年に新型コロナが発生し、春には一斉休校による学校給食需要や緊急事態宣言による業務用需要の喪失により、処理できない生乳を廃棄せざるを得ない状況が懸念されることになりました。2021年の年末にも同様の問題が生じましたが、これらの危機は皆様の牛乳消費によって回避することができました。
 供給が需要を超過しているなら、供給量を減らせばよいと思われるかもしれませんが、先ほどご紹介したとおり、牛が誕生してから生乳を搾れるようになるまで2年もかかります。もし今、牛の頭数を減らしてしまうと、今度はコロナ後の需要回復で生乳が不足する恐れがあり、現時点の需要に合わせて生産量を減らすのは難しい状況です。(数年前はバターが足りないというニュースが多かったことも記憶に新しいのではないでしょうか。)
 一方、チーズについては、外食需要の落ち込み等により一時的に消費量が減少したものの、近年増加傾向で推移しています。そのような中で、チーズ総消費量に占める国産ナチュラルチーズの割合が増加しており、国内のチーズ工房の数はここ10年でおよそ2倍に増加、品質や国内外での評価も向上しています。全国各地で、日本人の好みに合わせた様々な種類のチーズが製造されていますので、お気に入りの国産チーズを探してみてください。

(図3) 牛乳乳製品の国内生産量、輸入量及び消費量の推移

(4)牛乳乳製品の自給率

 牛乳乳製品の自給率は近年横ばいで推移しており、令和3(2021)年度は63%(重量ベース)です。この数値を聞くと、いつも飲んでる牛乳は国産なのに意外と低いと思われるかもしれません。実際に生鮮品である飲用乳に限るとほとんど国産で賄われていますが、乳製品の輸入量の増加を背景に、過去と比較すると減少傾向にあります。
 また、家畜が食べる餌の多くを輸入しており、飼料自給率を考慮すると牛乳乳製品の自給率は27%となります。
 ちなみに、お肉の回で紹介したとおり、牛肉の自給率38%(重量ベース)が飼料自給率を加味すると10%になってしまうのに比べて、牛乳乳製品は少し高くなっています。その理由として、家畜の餌はとうもろこし等の濃厚飼料と、乾草等の粗飼料とに大別されますが、濃厚飼料の自給率が13%であるのに対し、粗飼料の自給率は76%となっています。同じ国産の牛でも、肉用牛は濃厚飼料が6~9割程度であるのに対し、乳用牛は4~5割程度で、自給率の高い粗飼料の割合が高くなっているためです。

3 卵のお話

(1)ニワトリの種類について

 店頭で販売されている卵の種類はたくさんありますが、国内で流通しているものは、殆どがニワトリの卵です。ニワトリと聞くと、朝から元気よく鳴いている姿を想像しますが、鳴くのはオスのみです。採卵の目的で飼養する品種のことを卵用種といい、特徴として比較的小型の体格をもち、産卵能力に優れています。この他にも短期間で急速に成長する肉用種(ブロイラー)や卵肉兼用種が存在し、品種ごとに目的に合わせた育種改良が行われています。

(2)卵にまつわる噂と正しい知識

〇赤い色が良い?
 卵売り場を見てみると、赤い殻や白い殻のものを目にすると思いますが、卵の殻の色は、鶏の品種によって決まっています。赤色の卵を産む品種はずっと赤色の卵を産み、白色の卵を産む品種はずっと白色の卵を産みます。赤玉は栄養価が高いという噂を耳にすることがありますが、卵殻の色による栄養価の違いはありません。
〇黄身は濃い方が良い?
 黄身の色が濃いと栄養価が高いという噂もありますが、黄身の色は飼料に含まれている色素によるもので、色の濃淡と栄養価はあまり関係ありません。例えば米や麦をエサにすると、黄色にする色素が含まれていないので白っぽくなります。
〇大きいのが良い?
 卵の大きさも栄養価にはあまり関係しておらず、一般的には、産み始めて間もない頃の卵は小さく、親鶏の年齢が上がるにつれて大きくなります。用途に応じた使用をお勧めします。
〇1日1個?
 何となく「卵は1日1個まで」という認識をされている方も少なくないかと思いますが、これはコレステロール値にまつわる誤解です。実は卵には悪玉コレストロールを抑え、善玉コレストロールを増やす働きがあり、たくさんの栄養素が含まれています。業界では「たまごニコニコ大作戦!」と銘打って、1日に卵を2個食べてもらう活動をしています。健康な方であれば、1日1~2個たまごを食べてもコレストロール値への影響はほとんどありませんので、これまで何となく制限されていた方は安心してお召し上がりください。

(3)生産と消費の動向

 国内の鶏卵生産量は258万トン(令和3(2021)年度)で、このうち約5割は量販店等の家計消費用(パック卵)、3割は外食などの業務用、2割は加工用(液卵や凍結液卵)として消費されています。
 TKG(卵かけご飯)ブームにみられるように、日本では一般的な卵の生食ですが、世界的にみると卵の生食文化はほとんどありません。これは生で食べる習慣がなかったことやサルモネラ菌による食中毒の可能性があり、卵料理は十分に加熱することが推奨されているためです。生産農場で産まれた卵はGP(グレーティングアンドパッキング)センターに運ばれ、洗卵された後、ひびや鮮度など徹底した品質検査を経て、選別・包装され店頭に出荷されます。日本の生食できる品質はこのような品質管理や衛星管理を経て維持されています。
 国内での鶏卵の消費量は経済成長とともに伸び、現在、1人当たり年間で17.2kgを消費しており、これは世界的にも上位に位置し、日本は世界有数の鶏卵の消費国と言えます。
 なお、最近でこそコロナによる外食需要の減少や鳥インフルエンザの発生による殺処分数が増加したこと等により卸売り価格に多少の変動はみられるものの、卵は「物価の優等生」と呼ばれているように、他の食品と比較すると長期的な価格の推移に変動があまりありません。昨今、輸入飼料価格が高騰しているにも関わらず価格が抑えられてきたのは、大規模化や機械化による生産性の向上等、生産者のコストを抑える努力の結果です。

(図4)鶏卵の国内生産量、輸入量及び消費量の推移

(4)輸出・輸入の動向

 鶏卵の輸入は、それほど多くはなく、主にオランダ、イタリア及びアメリカから粉卵の形で輸入されています。卵は乾燥すると物性が変わるため、粉卵の粘着性を生かし、主にハムやソーセージのつなぎなどに使われているほか、安価なお菓子やケーキミックスにも活用されています。なお、乾燥するエネルギーコストが高いため、国内では粉卵はほとんど作られていません。
 一方、輸出については、日本では生食されているくらいの安心・安全の品質が評価され、近年好調に推移しています。令和2(2020)年の実績をみると、輸出量の9割以上を占める香港では、新型コロナウイルスの影響で内食化が進んだことや、他の輸入先国からの輸入が減少したこと等から、前年比2倍を超える2万トンとなり、令和3年も引き続き堅調に推移しています。

(図5)鶏卵の輸出実績

(5)鶏卵の自給率

 卵は生鮮品であることや、殻が割れやすく、長時間の輸送に適さないことから、輸入の割合は少なく、令和3(2021)年度の自給率は97%(重量ベース)と、ほとんど国内で生産されています。
 なお、ニワトリにはトウモロコシのような穀類などの濃厚飼料を給餌するため、飼料自給率を考慮した自給率は13%と低くなります。ニワトリの餌は一定の割合をトウモロコシから米に替えることも可能とされており、飼料用米の活用を含め、国産飼料への切り替えで自給率を高めていくことが期待されています。

5 おわりに

 牛乳乳製品や卵は皆さんの食卓に並ぶほかにも様々な料理や食品に使われており、知らないうちに口にされていることも多い裾野の広い食品の一つかと思います。生鮮品のほとんどは国内で生産されていますが、その他の場面で食されるものが国産か輸入かに目を向けていただくと意外と輸入品が多いことに驚かれるかと思います。
 また、農林水産省では、牛乳の消費拡大に向け、一般社団法人Jミルクとともに、「牛乳でスマイルプロジェクト」を立ち上げました。みなさまの健康的な食生活に貢献し、我が国における牛乳乳製品の安定供給など、社会をより良くするための取組につながるよう、参加企業等とともに取り組んでいきます。是非、牛乳消費にご理解とご協力をよろしくお願いします。
詳しくはこちら
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/gyunyu_smile.html

(出典)
農林水産省「畜産統計」、「牛乳乳製品統計」、「チーズの需給表」、「鶏卵流通統計調査」、「食料需給表」、財務省「貿易統計」

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