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魚介類の自給率

1 はじめに

 魚介類は、周囲を海に囲まれた我が国にとって食生活とのかかわりが深い存在です。近年「魚離れ」が進み、平成23(2011)年度には、肉類の消費量に逆転されていますが、食文化を語る上でも魚介類は欠かせない食材であり、また、近年は健康面からも注目を集めています。
 魚介類の生産・消費の動向と自給率について、私たちの食生活の変容も交えてご紹介していきます。

2 寿司にみる魚介類消費

 我が国で魚介類の代表的な食べ方としてまず思い浮かぶものは、寿司ではないでしょうか。寿司は老若男女、外国人にも人気で、外食でも家庭でも口にする機会が多いと言われています。回転寿司のネタの人気ランキングなども様々な形で取り上げられていますが、サーモン、ぶり、まぐろ、えび等が上位に入る傾向があるようです。
 一方で、これらの人気上位の魚種は、輸入が多いという特徴があります。例えばサーモンは、輸入魚介類の中で最大であり、主にノルウェーやチリで養殖されたものが輸入されています。まぐろは台湾や韓国、えびはインドやベトナムなどから輸入されています。
 そして、これらの魚介類は、昔から消費が多かったというわけではありません。物流網や冷凍技術が発展したことにより、鮮度が重要な魚介類を遠方まで輸送できるようになったことも大きく影響しているのです。時代とともに姿を変えてきた魚介類の消費の姿を紐解いていきましょう。

3 魚介類の消費の姿の変化

 まず、一番古いデータから見てみましょう。昭和40(1965)年度の国民1人1年当たりの魚介類の消費量(※ここでは骨や皮、内蔵等を除いた食べられる部分を示す「純食料」を用います)は、28.1kgでした。この時代は、まだ物流網が発展途上で、国内で供給される魚介類のほとんどは国内で水揚げされたものであり、食用魚介類の自給率は110%(※ちなみに100%を超える部分は、主に缶詰に加工して輸出向けに)でした。当時の食卓では、あじ、いか、さば、かれい、まぐろが購入量の上位となっていました。
 昭和55(1980)年度になると、高度経済成長による所得水準の向上等から1人1年当たりの魚介類の消費量は34.8kgに増加しました。この頃の食用魚介類の自給率は97%で、国内に供給される魚のほとんどが国内で水揚げされている構図は変化していません。家庭で消費される魚は、いか、まぐろ、さば、かれい、えびの順となり、あじが順位を落とす一方で、まぐろ、ぶり、さんま等の消費が増加しました。
 平成12(2000)年度になると、1人1年当たりの魚介類の消費量は37.2kgまで増加しましたが、食用魚介類の自給率は53%となり、国産品と輸入品とで消費を支える構図となりました。家庭における消費量をみると、いか、まぐろ、さけ、えび、あじの順となっており、上位にさけが加わっています。魚介類の消費は翌年(平成13(2001)年度)に40.2kgとなり、ピークを迎えました。
 令和3(2021)年度には、1人1年当たりの魚介類の消費量は23.2kgまで大きく減少しました。食用魚介類の自給率は59%であり、国産品(305万トン)と輸入品(293万トン)のそれぞれが消費を支える構造は、20年前とあまり変化していません。家庭における消費量では、さけ、まぐろ、ぶり、えび、いかの順となっています。比較的調理のしやすい、さけ、まぐろ、ぶりといった特定の魚介類に人気が集中し、それ以外のものが大きく消費を減らすこととなりました。国産魚介類では、まいわし、さば、かつお等が多く、輸入魚介類ではさけ・ます、かつお・まぐろ、えび等が多くなっています。

(図1)食用魚介類の国内生産量、輸入量及び1人1年当たり消費量の推移

 このように、時代の移り変わりに伴って消費する魚種が変化してきていますが、全体として魚介類消費は近年減少しています。次の節では、なぜ魚介類消費が減少しているのか、その要因を説明していきます。

(図2)主要魚種別の購入数量の推移(1965年=100)

4 魚介類消費はなぜ減少に転じたのか

 平成13(2001)年度をピークに魚介類の消費は減少に転じました。この理由については諸説ありますが、近年の食の外部化・簡便化、価格の上昇などが複合的に絡んだ結果であると考えられています。
 魚介類の減少と対照的に肉類が増加したことで、平成23(2011)年度には消費量が逆転することとなりました。
 
 消費者が魚介類よりも肉類を選ぶ理由は、調理が比較的簡便であること、食べやすいことなどがあげられます。核家族化や共働き世帯の増加等により、家庭で調理を行える時間が減少、簡単に調理できるものや、すぐに食べられるものへのニーズが高まりました。惣菜などの調理済み食品に対する支出が増加していることからも、このことがうかがえます。後片付けが面倒である、においが部屋に残るといった印象を持たれていることも、魚介類の購入額や数量を減らす理由になっているようです。

(図3) 家計の食料支出に占める魚介類の割合

 また、魚介類の消費は世代により大きく差があることも特徴の一つで、若年層になるほど消費が少ない傾向があります。これは、食に対する簡便化・外部化志向が強まったことで、家庭において魚食に関する知識の習得や体験等の機会を十分に確保することが難しくなっていることも一因と考えられ、食育の重要性が指摘されています。
 また、比較的消費が多い高年層においても、食生活の変化に伴う消費量の減少傾向がみられます。全体的にみると魚介類消費は減少し、肉類消費が増加したことは事実ですが、動物性たんぱく質そのものの摂取量が減少しており、食生活の変化による消費量の減少は、我が国の食料消費全体に影響する共通の課題と考えられます。

(図4) 年齢階層別の魚介類摂取量

5 我が国の食文化と魚介類

 ここで少し視点を変えてみましょう。島国である我が国の国土面積は狭いですが、海岸線の長さは約3万キロメートルと長く、領海と排他的経済水域の合計は世界有数の広さとなっています。また、日本列島は暖流と寒流がぶつかりあう位置にあり、世界三大漁場に数えられる好漁場に恵まれています。このような立地条件から、近海で様々な種類の魚介類の漁獲が可能であり、地域ごとに多様な魚種を獲ることができます。このため、和食と魚介類の関係は深く、主菜として、あるいはだし等の調味料として、広く活用されてきた歴史があります。
 食の外部化・簡便化の進展により消費が減少した結果、かつては世界一であった我が国の魚介類の消費量は、世界のトップ10から外れました。一方で、世界全体の魚介類の消費量は増加を続けており、その理由として輸送技術が発達したこと、都市人口が増加していること、経済発展の進む新興国で肉や魚を中心とした食生活への移行が進んでいることなどが指摘されています。また、魚介類が含む機能性成分(DHA、EPA等)への、栄養面・健康面からの評価が高まったことも一つの要因と考えられています。
 
 こうした中で、これまでに農林水産省では「魚の国のしあわせ」プロジェクト(平成24年8月~令和3年9月)として、消費者に広く魚食の魅力を伝え、消費拡大を図る取組を行ってきました。その一つが「ファストフィッシュ」です。これは、調理が面倒だと敬遠されがちな水産物を、手軽・気軽においしく食べられるようにするため、そのまま食べられるフィッシュナゲットや袋から取り出すだけで食べられる丼の具、手軽に料理に使える国産シーフードミックス等の取組が行われました。
 今後はさらに、多様化する市場のニーズに対応し、手軽・気軽に食べられる商品だけでなく、ネットスーパーやコンビニでの魚メニューの充実化や体験要素を加えた魚食普及活動等を提案することによって、魚介類消費の裾野を広げていくことを目指しています。

6 おわりに

 今回は魚介類について紹介しました。昨今は、持続的な開発目標(SDGs)が企業や消費者に対して浸透してきています。魚介類は天然資源ですので、資源の持続的な利用や環境に配慮して生産された水産エコラベルの認証を取っている商品の需要も高まっているなど、魚介類を取り巻く環境は日々変化しています。
 このような中で、魚介類の自給率が向上し、我が国の水産業が将来にわたって発展していくためには、水産資源の適切な管理に取り組むことに加えて、消費者のニーズに応える魚介類の生産や販売に取り組むことが重要であると考えています。
 魚介類が食生活から遠ざかっていると言われる昨今ではありますが、この機会に魚介類を取り入れていただければ幸いです。

(出典)
1 (一社)大日本水産会「男女1000人に聞いた食事・調理・魚食動向」
2 厚生省「国民栄養の現状」、厚生労働省「国民健康・栄養調査」
3 FAO 「Food Balance Sheets」
4 総務省「家計調査」

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