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食料自給率って何?日本はどのくらい?

1 はじめに

 「食料自給率」と言えば、最近は「そういえば学校で習った」という人も少なくないのでは?でも、実際にどうやって計算しているのか、品目ごとにはどうなっているのか、といった詳しい内容はほとんど知られていないと思われます。
 そこで!農林水産省の担当者が、日本の食料自給率をできるだけ分かりやすく、様々な角度から、詳しく丁寧に解説していきたいと思います。
 食料自給率を知ることは、日本や世界の食料問題への理解を深めることであり、食と農の未来を考えることにも繋がります。

【当面の投稿予定】
その①:食料自給率って何?日本はどのくらい?
その②:お米の自給率
その③:お肉の自給率
その④:野菜の自給率
その⑤:都道府県別食料自給率と食料自給力指標
その⑥:果実の自給率

2 食料自給率とは

 「食料自給率」とは、その言葉の通り私たちが日頃食べる「食料」を「自給している率(割合)」です。「自給している割合」とは、「日本全体に供給された食料」に占める「日本で生産した食料」の割合ということになります。
 「食料」には、米や麦、肉、魚介類、野菜、果物など様々なものがあります。そこで、これらを品目毎に分類して、国内で生産している量や輸入している量を把握し、自給率を計算しています。
 なお、「食料」には、日本人が口にする「全ての食べ物」が含まれます。例えば、スーパーや商店等で売られている生鮮品や加工食品、レストラン等での外食に使用される食材、輸入される原料や加工食品、お菓子類やジュースなども含め、日本で流通している全ての食料を対象にしています。
 ただし、お酒だけは嗜好品なので対象外とし、食料自給率の計算にも含めていません。例えば日本酒をたくさん飲むと、米の消費が増えて国内の生産基盤の強化には繋がりますが、自給率には反映されません。

3 カロリーベースと生産額ベースの食料自給率

 食料自給率を計算する際、最も簡便なのは生産量や輸入量に使われる「重さ」を用いる方法です(重量ベース)。
 しかし、「食料全体の自給率」を求める場合、米や麦、肉や魚介類、野菜や果実など全ての食料を足し合わせる必要があり、その際、重量を用いると、例えば米であれば玄米なのか、精米なのか、炊飯したご飯なのか、小麦であれば、原料の小麦なのか、小麦粉なのか、焼きあがったパンの重さなのか、品目毎に考え方がいろいろ変わってきてややこしくなります。そのため全ての食料を「共通のものさし」に換算し、足し合わせて計算する方法を用います。

① カロリーベースの食料自給率
 一つの「ものさし」が「カロリー」です。食料は人間が生きていくために欠かすことのできないものです。この食料安全保障の観点から、最も基礎的な栄養価である熱量(カロリー)に着目したものが「カロリーベースの食料自給率」です。
 直近(令和2年度)の値は、国民1人1日当たりに供給している全品目の熱量の合計(供給熱量:2,269kcal)に占める国産の熱量(国産熱量:843kcal)の割合を計算し「37%」となっています。

② 生産額ベースの食料自給率
 もう一つの「ものさし」が「金額」です。食料の生産・輸入・加工・流通・販売は経済活動であり、全てお金に換算することができます。そのため、経済活動を評価する観点から、生産額や輸入額を基に計算した自給率が「生産額ベースの食料自給率」です。
 直近(令和2年度)の値は、国内に供給された食料の総額(15.4兆円)に対する国内生産額(10.4兆円)の割合を計算し「67%」となっています。

③ 2つの食料自給率の違い
 カロリーベースの食料自給率は、単位重量当たりのカロリーが高い、米、小麦や油脂類の影響が大きくなります。一方生産額ベースの自給率は、単価の高い畜産物や野菜、魚介類の影響が大きくなります。また、総じて輸入品より国産品の方が高いので、国内生産額は高くなり、結果として生産額ベースの自給率はカロリーベースより高くなります。これは、付加価値が高く高品質な農産物を生み出しているという日本の農林水産業の強みが反映されているともいえます。

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4 品目別の食料自給率

 次に、品目別に自給率を見てみましょう(表2のA欄)。(ここでは、重量ベースの自給率を用いて説明します。)

① 日本人が昔から食べてきた品目(米、野菜、魚介類)
 日本人が昔から食べてきた米や野菜、魚介類の自給率は、それぞれ米97%、野菜80%、魚介類55%と比較的高くなっています。これは昔から食べていた分、生産基盤や生産技術が受け継がれていることや、生鮮野菜は長期保存ができず輸入が難しい、魚介類は国内で新鮮なまま流通できるといった理由も考えられます。

② 畜産物(牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、牛乳・乳製品)
 畜産物の自給率は、牛肉36%、豚肉50%、鶏肉66%、鶏卵97%、牛乳・乳製品61%となっており、これは国内で生産している割合を示しています。
ただし、家畜はとうもろこしや牧草などの飼料を毎日必要とします。飼料の多くは外国から輸入されているため、飼料の自給率は畜産物全体で25%となっています。この自給率を考慮した数値が右側の括弧付きの数字です。
 例えば、牛肉の自給率は「36%(9%)」と記載されていますが、これは、牛肉の「36%」は国内で生産されていますが、国産の飼料を食べて純粋に国内で生産された牛肉は「9%」ということです。畜産物の自給率は、飼料自給率を考慮に入れるとずいぶん低い数字になることが分かります。

③ 外国で大規模に生産されている品目(小麦、大豆、油脂類・飼料の原料)
 小麦や、油脂類・飼料の原料となる大豆、菜種、とうもろこしなどは、日本の限られた農地では大量に生産するのが難しく、生産に適した気候で広大な農地を有する国(アメリカ、オーストラリア、カナダ、中国など)で大規模に生産されたものが輸入されており、自給率はそれぞれ小麦15%、大豆6%、油脂類13%と低い状況です。

④ 産地が限られる品目(砂糖類)
 砂糖の原料となる作物は、てん菜とさとうきびになります。てん菜は寒冷地での作付けが適しており、日本では北海道で生産されています。さとうきびは逆に亜熱帯地での作付けが適しており、日本では主に沖縄県・鹿児島県南西諸島で生産されています。このように国内では産地が限られる中、外国からも砂糖原料(粗糖)を輸入しており、砂糖類の自給率は36%となっています。

5 食料自給率と食生活の変化

 令和2年度の食料自給率(カロリーベース)は37%ですが、昭和40年度(1965年度)には73%あり、長期的に低下してきました。この主な要因には「日本人の食生活が変わってきた」ことがあげられます。

① 「食べるもの(品目)」の変化
 一人一年あたりの品目毎の消費量を昭和40年度と令和2年度で比較したデータをご覧ください(表1のB欄)。
主食である米の消費量は半分以下になっています。米は基本的に国内で自給できますので、自給率が高い米の消費が減ることは自給率全体が低下することにつながります。また、自給率の低下はごはんではなくパンや麺を食べるようになったからだとよく言われていますが、小麦の消費量はそれほど変わっていません。
 一方で、牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳・乳製品、油脂類は大幅に増加しています。畜産物は、飼料自給率を加味すると自給率は低くなりますし、油脂類は、原料の大豆や菜種などを多く輸入しており、これも自給率が低い品目です。自給率が低い畜産物や油脂類の消費が増えるということは、これもまた食料自給率全体が低下することにつながります。
 このように、日本人の食生活が徐々に変化して国内で自給できるお米の消費量が減少し、自給率が低い肉類や油脂類の消費量が増えたことが、食料全体の自給率が低下してきた大きな要因になっています。
 消費量が増えれば、生産量も増えるのでは?と思われるかもしれません。しかしながら、小麦、大豆、菜種、とうもろこし等は、外国では地平線まで見渡すような広大な農地で大規模に生産されていますが、急峻な国土をもつ日本では農地が限られています。更に、日本の雨が多い気候では品質や生産量が安定しないこともあり、外国と同様の価格水準で大量生産するのは難しい面もあります。

② 「食べ方」の変化
 戦後の日本では急激な経済成長とともに生活様式も変化しました。そして、ファミリーレストランやファストフードなど様々な外食形態の増加、スーパーやコンビニでの弁当やお総菜などの中食の普及、冷凍技術の進歩による加工食品の多様化など、生活様式の変化に合わせて「食べ方」も大きく変わってきたと言えます。皆さんの日頃の食事を思い起こしてみると、これらの食品を食べる機会が多くあるのではないでしょうか。

③ 現在の豊かな食生活
 このように戦後日本人の食生活は大きく変わりました。現代では、美味しい食べ物が様々な形態・業態で提供され、好きなものがいつでも食べられるという、日本の歴史上かつてないほど、また世界的にも最も豊かな食生活が実現されています。そして、この豊かな食生活を支えているのは、国内で生産された食料だけでなく、輸入された食料や飼料であることも事実です。

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(表1)総合食料自給率

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(表2)A「品目別自給率」とB「国民1人1年あたり消費量の変化」

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