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小麦の自給率

1 はじめに

 小麦を使った食べ物というとみなさんは何を思い浮かべますか?食パン、うどん、ケーキ、ラーメン、お好み焼き、色々あると思いますが、他にも、味噌・醤油のような調味料、カレールゥ、唐揚げの衣など普段何気なく食べている様々な食品に小麦が使われており、私たちの生活に欠かせない存在です。今回は、小麦の生産や消費の動向、そして最近の国産小麦の利用の広がりについてご紹介していきます。

2 小麦の消費

 お米は一般的に粒のまま炊飯して食べますが、精米だけでなく玄米も流通しており、コイン精米機や家庭用精米機もあります。でも、小麦の玄麦はあまり見かけないと思います。小麦は、表皮の一部が内側に入り組んだ形状をしており、製粉工場で表皮や胚芽を取り除いて白い胚乳の部分だけを粉にする必要があるので、ほとんどの小麦が製粉工場を通じて流通します。(ちなみに、表皮や胚芽の部分はふすま(ブラン)と言って飼料などに使用されてきましたが、最近は豊富な食物繊維やミネラルが注目されています。このふすまも一緒に挽いた小麦粉が全粒粉です。)
 小麦を用途別にみると、パン用27%、めん用32%、菓子用5%、その他(みそ・焼酎・その他主食用など)36%といった割合になります。小麦粉は、たんぱく質の含有量で種類・用途が異なっており、強力粉(パン用)、準強力粉(中華めん用)、中力粉(うどん用)、薄力粉(菓子用)に分類されます。
 製粉工程では、ロール機という機械ですり潰すように細かく砕いた小麦をシフターと呼ばれる大きなふるいに何層も何層もかける工程を繰り返すことで、粒の細かさや色合いが異なる数十種類の粉に分けて取り出します。それを様々な品種・品質のものをブレンドして仕上げ、何百種類もの小麦粉を創り出すのが日本の製粉企業の特有の技術です。例えば同じラーメン用でもラーメン屋ごとのオーダーメイドの小麦粉を作ることができるのです。
 小麦粉の用途の最近の傾向としては、乾めんの生産量が減少している一方で、菓子パンや即席めん、生めん(冷凍めんを含む)、マカロニ類(パスタ・スパゲティ等)の生産量が増加しています(図1)。食の簡便化志向や冷凍加工技術の発達による変化と考えられますが、小麦粉の使用量全体としては10年前からほぼ横ばいで変わっていません。

(図1)小麦粉製品の生産量の変化(昭和45年=1)

 実は、長期的に見ても小麦の一人当たり消費量は年間29.0kg(昭和40(1965)年度)から31.6kg(令和3(2021)年度)へと3kg程度しか増えていません。この間にお米の消費量は117.4kgから51.5kgに60kg以上減少しました(図2)。「お米の消費が減った原因は、パンやめんのような小麦製品をたくさん食べるようになったから」とよく言われますが、お米の消費減少が始まった昭和40年度以降に小麦の消費量はそれほど増えていません。その間に消費が大きく増加したのは肉類(9.2kg→34.0kg)や油脂類であり、おかず(主菜・副菜)が充実し主食の割合が減少してきたのがこの半世紀の食生活の変化と言えると思います。

(図2)一人当たり年間消費量

3 小麦の国内生産と自給率

 小麦は、江戸時代よりも前からお米の裏作として国内各地で生産されてきましたが、明治以降、欧米の様々な小麦料理が伝わり消費が増えたことで、飛躍的に生産が拡大しました(明治11(1878)年24万トン→昭和元(1926)年81万トン)。昭和初期は、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどからの輸入も多く、昭和5(1930)年の小麦の自給率は67%でしたが、増産を推し進めた結果、国内需要を満たすだけでなく、海外にも輸出し、自給率が100%を超えていた時期もありました。昭和15(1940)年の生産量は過去最高の179万トンを記録しています(図3)。
 昭和20(1945)年に終戦を迎えた後は、深刻な食糧不足に陥ったため、輸入により不足を補いつつ、お米と小麦の増産を進め、昭和36(1961)年には178万トンまで小麦の生産量が回復しました。しかし、お米と比較して収益性が低かったことや生産が不安定だったこと等により、その後、生産が減少に転じて一時は20万トン、自給率4%(昭和48(1973)年度)にまで落ち込みました。

(図3)小麦の国内生産量、輸入量、自給率

 小麦は、乾燥を好み湿気に弱い作物です。日本では、秋に種をまいて翌年の6~8月に収穫する「秋まき小麦」が一般的ですが、収穫前に長雨に当たると穂発芽(ほはつが)というものを起こし、品質が著しく低下して商品価値がなくなってしまいます。従って、収穫期が梅雨と重なる日本では不向きな作物であり、実際に梅雨の長雨によって昭和38(1963)年には平年の半分、昭和45(1970)年にも平年の4分の3の収量となり、農家の生産意欲の減退につながりました。
 一方、小麦の生産量が過去最低を記録した昭和48(1973)年は、オイルショックやアメリカによる大豆禁輸などが起こり、食料自給率を高める必要性が認識された年でもありました。小麦増産のための農地整備、機械化、品種・栽培技術の改良などが進められ、九州・関東・東海などでは水田の転作・裏作作物として、北海道では梅雨のない気候を活用して畑作を中心に小麦の増産が図られ、今では110万トン、自給率17%(令和3(2021)年度)まで生産量が回復しています。

4 小麦の輸入

 日本は、梅雨によって小麦の安定生産が難しいことに加え、水田の裏作(二毛作)として小麦を作るには関東以西でないと気温が足りず生産地域に限りがあり、国産のみで需要を満たすのは困難です。そのため、国産では満たせない需要分について、政府が外国産小麦を輸入する国家貿易によって安定供給を図っています。
 また、国産小麦は、従来、大部分がうどん用の中力粉の品種で、強力粉・準強力粉の品種があまりなかったため、パン用・中華めん用の小麦はほとんどを外国産でまかなう必要がありました。
国が輸入しているのは、主にアメリカ、カナダ、オーストラリア産の5種類の銘柄です(図4)。またパスタ用としてカナダ等からデュラム小麦も輸入されています。

(図4)小麦の種類と用途

5 国産小麦の盛り上がり

(1)うどん用小麦
 国産小麦の大半を占めているうどん用の小麦であっても、オーストラリア産小麦銘柄「ASW」に比べて食味、加工適性、色合いなどで劣っていると評価され、製粉・製麺企業から積極的には採用されてきませんでした。さぬきうどんで有名な香川県でも、うどんの原料小麦はASWが主流になっていました。しかし、香川県産の小麦で作ったさぬきうどんを食べたいという消費者の要望もあって、さぬきうどん用の品種開発が進められ、平成12(2000)年に「さぬきの夢2000」が誕生し、国産小麦の復活に向けた狼煙となりました。
 また北海道でも、新しい品種が更新される度に品質が向上し、平成19(2007)年に誕生した「きたほなみ」は、ついにASW並み、或いはそれを凌ぐと言われる加工適性と色合いが高く評価され、国産うどん用小麦の主力として全国の小麦の42%を占めるまでになっています。

(2)パン・中華めん用小麦
 
パン・中華めん用の国産の強力粉・準強力粉は、従来、北海道の「春まき小麦」によって生産されてきました。春まき小麦は、4~5月に種をまいて8月に収穫しますが、生育期間が短いため収量が少なく品質も不安定になりがちなため、栽培がなかなか広がりませんでした。
 平成20(2008)年に秋まき小麦の超強力小麦「ゆめちから」が誕生し、「きたほなみ」などの中力粉とブレンドすることで、パンや中華めんに適した小麦粉が作れるようになりました。安定して生産できるので、栽培が一気に広がり、大手製パン企業の食パンなどにも採用されるようになりました。
 また、九州でも、平成16(2004)年にパン用の「ミナミノカオリ」、平成20(2008)年にラーメン用の「ちくしW2号(ラー麦)」などの品種が開発され、利用が広がっています。「ラー麦」は、福岡県の製粉業者、ラーメン店、生産者等が連携して品種を作り上げ、県がロゴマークを商標登録するなど地域一体となってブランド化に取り組んでいます。

(3)パスタ用小麦
 平成28(2016)年には、日本初のデュラム小麦「セトデュール」が開発されました。スパゲッティなどのパスタの原料となるデュラム小麦は、普通の小麦以上に湿気や雨に弱いのですが、比較的降雨の少ない瀬戸内地域ならば生産できるのではないかということで品種開発が行われたそうです。まだ生産が少ないですが、今後の広がりが期待されます。

5 おわりに

 皆さんもスーパーやレストランで、国産小麦を使用した商品やメニューを目にする機会が増えたのではないでしょうか。全国各地で新しい品種が次々と登場しており、国産小麦の特徴であるもちもちした食感が広く好まれているようです。一大産地である北海道では、行政が中心となって外国産から国産に切り替える「麦チェン」という運動に取り組み、道内では道産小麦の利用が大きく広がりました。我が国全体としても、国産でできるものはできるだけ国産に戻していくことが重要です。皆さんも国産小麦の製品を見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。一つひとつの小さな行動が積み重なって、食料安全保障に繋がっていくのではないでしょうか。

(出典)
※1 農林水産省「麦の需給に関する見通し」、「麦をめぐる事情について」
※2 図1~3は、農林水産省「食料需要に関する基礎統計」、「食料需給表」、「作物統計」を基に作成。
※3 大豆生田稔「日本の戦時食糧問題と東アジア穀物貿易」, 2002年
※4 吉田行郷「国産小麦の現状と今後の課題」, 2021年1月

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