~ 食料自給率のお話 ~ その⑤:果実の自給率
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~ 食料自給率のお話 ~ その⑤:果実の自給率

ニッポンフードシフト公式note

1 はじめに

 果物はビタミンCやカリウムの供給源として、1人1日りんご1個程度を食べることが望ましいとされていますが(*1)、毎日果物を食べている人は24%ほどしかいません(*2)。
 ここでは、果実の生産・消費の動向と自給率について、歴史にも触れながらご紹介していきます。

2 日本人にとっての果実

 国連食糧農業機関(FAO)の統計によれば、日本人の果実の消費量は欧州と比較して半分程度、172の国・地域の中でも148位と、穀物(88位)、野菜(64位)、肉類(79位)に比べて消費量の少なさが際立っています(*3)。
 日本では江戸時代以前からなし(日本なし)、かき、ももなど様々な果実が国内で生産されていましたが、献上品がほとんどで、庶民が日常的に食べられるものではありませんでした(*4)。
 明治時代以降も、果実は嗜好品として扱われ、今でも多くの日本人にとって嗜好品という感覚があるのではないでしょうか。

3 日本で栽培されている果実

 現在、日本では様々な果実が栽培されており、農林水産省の統計で生産量が把握されているものだけで約130品目に上ります。ちなみに、農林水産省では概ね2年以上栽培し、実の部分を食用とするものを果樹・果実としています。そのため、一般的には果物と呼ばれるいちご、メロン、すいか(いずれも1年で収穫)は野菜として、アボカド、くり、ぎんなんは果実として扱っています。
 私たちになじみのある果実も、その多くはかつて海外から渡ってきたものと言われています。くりやなしは日本列島に原生していたようですが、例えばみかん、りんご、ぶどう、かき、もも、すももなどは平安時代までに中国大陸を通じて渡来し、パインアップルは江戸時代に、西洋なし、さくらんぼ(おうとう)は明治時代以降に欧米から日本に伝わったと言われています(*4)。また、明治時代以降にりんごやぶどうの欧米の品種が導入されると、日本の気候風土に合わせた品種改良が各地で進められました。
 果実の栽培地域は、りんごは主に中部以北、みかんは主に関東以南で作られ、それ以外の地域だとあまり作られないといった地域性があります。野菜は苗を植えてから数か月で収穫できるため、栽培時期をずらしたりハウス栽培したりすることで、北でも南でも作れるものが多いのですが、果実は数年間にわたって木を育てないといけないため、冬を越せない、夏の暑さに耐えられないといった理由で、果実の種類によって栽培できる地域が限られているのです。一方、近年は地球温暖化による栽培地域の北上が予測されています。高温地域に適応した品種の開発や、マンゴーやパッションフルーツなどの東南アジアや南米原産の熱帯・亜熱帯果樹を関東地方で栽培する取組等が進められています。

4 生産・消費の動向

 嗜好品であった果実は、高度経済成長により生活が豊かになる中で、1960(昭和35)年から1975(昭和50)年までの15年間で約2倍に消費量が増加しました。1975年のみかんの消費量は一人当たり年間27kg(皮も含む重量)でした。みかんが出回る冬の時期に一人で10kgのみかん箱2~3箱(Mサイズなら200~300個のみかん)を食べていた計算になります。家族でこたつを囲んでみかんを食べる、昭和の原風景の一つではないでしょうか。また、同じ頃のお話として、1963(昭和38)年にバナナの輸入が自由化され、それまでめったに口にすることのできなかった高級品のバナナが、昭和50年代には給食で提供されるほど身近な果物の一つになりました。
 1970(昭和45)年頃からは、消費の更なる増加を見越して生産拡大していたみかんやりんごが過剰となり、ネーブルオレンジやキウイフルーツ、ブルーベリーなど需要が見込まれる果実への生産転換が始まりました。また、みかんやりんごについても、消費者が好む糖度の高い高品質な果実生産に取り組むようになりました。量より質に転換し、新しい品種・ブランドが次々に生み出され、バラエティ豊かな果実が消費者に届けられるようになっていきました。
 1970年台以降のもう一つの変化として、生鮮の果実から果汁等の加工品に消費が変化していくようになりました。1975年から1995(平成7)年までの20年間で、生鮮の果実の消費が4割減ったのに対して果汁の消費は3倍に増えました(*5)。
 果汁等加工品の約9割は輸入品で、果汁の消費増加に合わせて輸入が増加しました。しかし、最近は、健康志向でゼロカロリー・低カロリーの茶飲料や炭酸飲料の消費が伸びており、果実飲料の消費が減少して果汁の輸入は減少傾向にあります。

図1 果実の生産量、輸入量及び品目別自給率(果実)の推移

2020(令和2)年の生鮮果実の消費量は、1位バナナ、2位りんご、3位みかんとなっています(*6)。バナナは1999(平成11)年にりんごを抜いて2位に、2004(平成16)年にみかんを抜いて1位になりました。

5 食料自給率における果実

 近年、生鮮ではみかん、りんごなどの国産果実の消費が減る中、バナナやキウイフルーツ、パインアップルなど輸入果実の消費が増えていますが、オレンジ果汁やりんご果汁の輸入が減少しているため、果実の自給率(重量ベース)は40%前後の横ばいで推移しています。
 また、食料自給率全体において果実は、重量当たりのカロリーが穀類等に比べて小さいことからカロリーベースへの寄与度が小さく、単価が高いことから生産額ベースへの寄与度が大きい品目です。
(1) 国内生産量が多い果実
 国内生産量が多い果実としては、みかん、りんご、なし、かき、ぶどうが上位に並びます。果実は、カロリーベースでは国産熱量の2.4%、生産額ベースでは国内生産額の8.7%を占め、そのうち約40%がりんごとみかんによるものです。ぶどうは、カロリーは小さいですが、単価が高いので果実の国内生産額の17%を占めています。
(2) 輸入量が多い果実
 輸入量が多い果実は、生鮮品ではバナナ、パインアップル、キウイフルーツ、オレンジが上位に並び、加工品ではオレンジ果汁、りんご果汁が約5割を占めます。果実は、カロリーベースでは輸入熱量の3.1%、生産額ベースでは輸入額の9.4%を占め、そのうち25~30%がバナナによるものです。キウイフルーツも単価が高いので果実の輸入額の約10%を占めています。

図2 果実の需給構造(平成30年(推計))

6 自給率向上に向けた取組

 果実は、「桃栗三年柿八年」と言われるように、実がなるまでに数年かかることから、需要が変化してもすぐに増産したり品種を変えたりすることができません。現在人気沸騰中のシャインマスカット(農研機構が育種)も、品種登録されたのは2006年のことです。世の中でヒットするまで年数がかかるので、消費者のニーズを予測しながら栽培に取り組まなければならないのが果実生産の難しいところです。
 日本の果実は、その高い品質がアジアをはじめとする海外でも高く評価され、輸出が伸びています。台湾や香港で日本のりんご、ぶどう、もも等が贈答用に人気となっていますが、その他の品目を含め、まだまだ輸出拡大するポテンシャルを持っています。
 国内でも、シャインマスカット、はるみ(みかん)、シナノゴールド(りんご)など新しい品種が売上を伸ばしていますが、果実全体では年々生産量が減少している状況にあります。果実の生産は、授粉・摘果、収穫、剪定など一つ一つの実や枝に手間暇をかける工程が多く、機械化や規模拡大が難しいため、農家の高齢化とともに栽培面積が減少してきました。このため、省力化・機械化を進めるための栽培技術の開発や樹園地の整備を進めており、生産性が向上することによって国内外のニーズに対応した果実生産が進むことが期待されます。
 輸出の拡大、そして減少傾向にある国内での消費の拡大を図る上では、「おいしい」「食べやすい」「健康によい」等の消費者のニーズに応えていく必要があります。特に、「食べやすい」ことは食の簡便化が進む中で重要度が増しています。消費が伸びている国産の新しい品種や、輸入のバナナ、キウイフルーツなどは、味や栄養価もさることながら手軽に食べられることが評価されていると思われます。また、パインアップルなどをカットフルーツで販売する小売店も増えました。欧米でもスナック感覚で食べられるカットフルーツの需要が伸びています。
 品種改良や加工品の開発を通じて、果実を「嗜好品」ではなく「日常の食品」にしていくことによって、日本の果実が国内外の消費者の食生活に取り入れられるようになれば、果実の自給率が向上していくと考えられます。

(出典)
1 厚生労働省、農林水産省「食事バランスガイド」
2 中央果実協会「果物の消費に関する調査」(令和3年2月)
3 FAO 「Food Balance Sheets」
4 うるおいのある食生活推進協議会「毎日くだもの200グラム!」HP
梶浦一郎「日本果物史年表」2008年
5 厚生省「国民栄養の現状」、厚生労働省「国民健康・栄養調査」
6 総務省「家計調査」


<コラム>~かきはスペイン語でも“かき”?~

 多くの果実が世界各地から日本に渡ってきた一方で、日本から世界に渡っていった果実もあります。かきは16世紀頃に南蛮貿易をしていたポルトガル人によってヨーロッパやアメリカ大陸にもたらされ、現在では、スペイン、イタリア、ブラジル等でも栽培されていますが、スペイン語やポルトガル語でcaqui、イタリア語でcachiと呼ばれています。うんしゅうみかんは江戸時代末期から明治時代に英国や米国に渡りましたが、今も英語ではsatsuma(薩摩)と呼ばれており、日本から伝わった名残が見られます。ちなみに、うんしゅうみかんは、明治時代後期にカナダ向けの輸出が始まり、最近まで輸出先のトップでした。カナダに移住した日系人が正月用に日本から取り寄せたみかんを隣人に配った習慣が、クリスマスにみかんを贈り合う「クリスマスオレンジ」という文化として定着しました。

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