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都道府県別食料自給率と食料自給力指標

1 はじめに

 令和3年度の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで63%ですが、これは日本全体としての一つの数字です。しかし、実際には北から南まで47の都道府県では大分事情が異なります。
 そこで、日本の農業の実態や実力をもう少し詳しく分析するために、「都道府県別食料自給率」と「食料自給力指標」をご紹介しながら、日本の国土と食料供給について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

2 食料自給率の二つの「ものさし」(おさらい)

 食料自給率を説明するには、生きていく上で最も基礎的な栄養価である「カロリー」と食料生産に関わる経済活動を評価する「生産額」の2つの「ものさし」を用います。カロリーベースの食料自給率は、単位重量当たりのカロリーが高い米や小麦、砂糖などの影響が大きく、生産額ベースの食料自給率は、単価の高い畜産物や野菜、魚介類などの影響を大きく受けるというそれぞれの特徴があります。この2つのものさしを使って都道府県別の食料自給率を見ることによって、日本の農業生産の実態に迫ってみたいと思います。

3 都道府県別食料自給率

 今回は地域の農業の姿をイメージしやすいように、特徴的な食料自給率の4つの国・地域に例えながら見ていくこととします。

(1)カナダ型(穀物等の生産がカロリーベースに寄与)
 
カナダは世界第2位の国土面積を有し、米国との国境付近には広大な平野が広がり、小麦や大麦、大豆などの穀倉地帯が分布しています。こういった特徴は食料自給率にも表れていて、カロリーベースで233%、生産額ベースで118%となっています(2019年の試算値)。特に200%を超える高いカロリーベースの自給率は、小麦や菜種、大豆などのカロリーが高い品目の生産が盛んであることを示しています。
 日本では、北海道が国土条件も気候条件も似ていると言えますが、その他にも、青森県、岩手県、秋田県、山形県、新潟県などの北日本地域ではカロリーベースの食料自給率が100~200%台と高くなっています。皆さんもお気付きのようにこれらの県はお米の主産地で、都道府県別の収穫量でも常に上位となっている地域です。

(2)デンマーク型(畜産が生産額ベースに寄与)
 
デンマークの国土面積(本土)は九州と同程度の大きさですが、食料自給率はカロリーベースで177%(飼料を全て自給していると仮定した試算値)、生産額ベースで211%といずれも高い水準で、養豚や酪農に代表される畜産が盛んに行われています。
 日本では特に畜産の盛んな宮崎県や鹿児島県などでは、生産額ベースの食料自給率は280~300%台を示しています。これらの県の農業生産額は、海外と比較しても極めて高い水準にあると言えます。

(3)オランダ型(施設園芸が生産額ベースに寄与)
 
オランダの食料自給率はカロリーベースで61%、生産額ベースで196%です。デンマークと同じ様に生産額ベースの食料自給率が高い国ですが、オランダの場合は高度な施設園芸によって人口が集中する大都市向けに花きや野菜などの比較的単価の高い作物を産出する都市近郊農業に特徴があります。
日本では、茨城県、栃木県、群馬県、長野県などがこれに該当し、人口が多い大消費地に向けた花きや野菜の生産が盛んに行われています。

(4)シンガポール・香港型(人口が集中し自給率が低い)
 
シンガポールや香港といった国・地域は、狭いエリアに人口が密集しており農地面積が比較的少ないのが特徴です。ほとんどの食料を域外からの移入によって賄っており、食料自給率はカロリーベース、生産額ベースともに一桁台と推察されます。
 日本で言えば、東京都や神奈川県、大阪府など人口が多い都市部がこれに当たります。しかし日本では、こういった都府県でも大消費地への近さを強みとした都市農業が展開されており、小松菜や春菊といった葉物野菜では全国有数の産地となっています。

 以上のように特徴的な4つのケースを海外の例に合わせてご紹介しましたが、南北に長い日本では、その土地の風土にあった多種多様な農業が展開されており、同じ国内にも様々なかたちの農業があることがお分かりいただけましたでしょうか。都道府県別食料自給率の一覧(表1)を見ていただくとカロリーベースも生産額ベースも一桁から200%超まで、また、その組合せもまちまちです。ご自身の出身地や縁のある都道府県の数値から、その地域の実情を思い起こしていただければと思います。

(表1)都道府県別食料自給率の一覧(令和2年度 概算値)

4 一人分の食料を賄うために必要な農地面積

 都道府県別食料自給率を通して、日本各地の農業の実態を見てきました。次は、日本の農業全体ではどれほどの実力を持っているのか、という点から見ていきたいと思います。
 鎖国をしていた江戸時代、日本の食料自給率は100%だったと仮定します。統計上一番古いデータとしては昭和35年の79%があり、その後、現在の水準まで食料自給率は徐々に低下してきました。その大きな要因は、米や魚、野菜中心の日本型の食生活から、肉や油を多用する欧米型の食生活への変化にあることはすでにお話してきました。実は、もう一つの大きな要因として考えられるのが「人口の増加」です。明治の初めは約3500万人であった日本の人口は、2008年の1億2800万人まで急激に増え続けました。
 先ほどの都道府県別食料自給率を思い出してみてください。面積と人口のバランスは自給率に大きく影響しています。何故なら、農業者数の減少は機械化等の労働生産性の向上である程度カバーすることもできますが、土地生産性の向上、特に穀物や飼料、油糧原料などの土地利用型作物の生産はどうしても面積を必要とするからです。
 現在の普段の食生活を続けると仮定して、一人が一年に食べる食料を作るために必要な農地面積を試算すると約11a、テニスコート4面分くらいの面積となります。一方で、国内の総農地面積は435万haですから、これを人口で割った一人当たりの国内農地面積は3.5aほどとなり、必要な11aの3分の1程度しかありません。残りは外国の農地に依存する形となっており、国民全体で海外に依存している農地面積は913万ha、国内の農地の2.1倍に相当します。
 このように、現在の食生活を維持する場合、国内農地だけで食料を賄うことは不可能です。では逆に、国内の農地面積を前提とした場合、国民に必要な食料供給をどこまで賄うことができるのか。それを試算したのが「食料自給力指標」です。

5 日本国内でどれだけ食料を供給することができるのか ー食料自給力指標ー

 今ある国内の農業生産力をフルに活用し、できるだけ効率よく食料を生産した場合、どこまで食料供給が可能なのかを試算したのが食料自給力指標です。食料自給率は現状を表す指標ですが、食料自給力は潜在的な食料供給能力を計るための指標と言えます。
 例えば、特にカロリーの高いさつまいもを国内の全ての農地に植えることができれば、国民全員が必要とするエネルギー量を満たすことができます。しかし、実際には、さつまいもの栽培はとても労力がかかるので、全国の農業者を総動員しても、このような量のさつまいもを作ることはできません。
このため食料自給力指標では、こういった農業労働力や生産性も考えた上で、さらにある程度の栄養バランスにも配慮して2つのケースで試算を行っています。
 まず、普段の食生活に近い形でお米や小麦、野菜・果物なども組み合わせて農地をフル活用した場合の試算では、必要な量(カロリー)の8割程度しか届きません(図1)。ちなみに、普段の食生活に近いといっても、肉や卵、牛乳は1ヶ月に数回しか食べられません。
 次に、生命の維持に必要なエネルギー量の確保を最優先し、いも類中心の作付けで農地をフル活用した場合の試算では、労働充足率(現在の労働力)を加味した場合であっても、なんとか国民全員に必要なカロリーを供給することが可能です(図1)。しかしこの場合、まさに「生き抜くための食事」となります。(図2)。
 さらに「食料自給力指標」の長期的な推移(図3)を見ると、農地や農業者の減少に伴い低下しています。いざという時に備えるためには、この食料自給力を維持・向上させることが重要で、そのためには、食料供給に不可欠な農地や労働力などの国内の農業生産基盤を確保し、更なる技術開発を進めていく必要があります。

(図1)令和3年度の食料自給力指標

(図2)食料自給力指標(いも類中心の作付け)の食事メニュー例

(図3)食料自給力指標の推移

6 おわりに

 今回は都道府県別食料自給率や食料自給力指標を中心として日本の農業生産の実情に迫ることを試みました。日本全体としての数字は一つでも、都道府県別にみれば、その土地の風土にあった多種多様な農業が展開されており、諸外国と比較しても決して引けを取らない農業国としての姿があります。国土面積や労働力の制約がある中で、農業者や食品事業者の様々な創意工夫の積み重ねによって私たちの食生活が支えられていることにもう一度目を向け、日本の食料供給を考えるきっかけとなれば幸いです。

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