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各地の国産果実を応援したい!クラフトチューハイから社会貢献を目指す[Vol.2]

1842年に京都・伏見で創業、現在は宝グループの国内事業を担い、焼酎や清酒などの製造・販売を行う宝酒造株式会社様。缶チューハイのパイオニアでもある同社は、「各地の国産果実をうまく活用して、日本の産地を盛り上げたい」との想いから、チューハイを通じた生産者と消費者をつなぐ取組を継続して実施されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの活動として、耕作放棄地を活用して誕生した「京檸檬」と「京檸檬」を活用した『寶CRAFT<京檸檬>』チューハイの取組について紹介します。


国産果実を使ったチューハイを通年商品化して地域に貢献したい

期間限定商品として全国で販売された希少な国産果実を使用したタカラcanチューハイ『「直搾り」日本の農園から』を皮切りに、現在では地域に密着した通年商品として地域限定のクラフトチューハイ『寶CRAFT』を通して地域貢献に取組まれている宝酒造様。そんな地域密着型への挑戦について、商品第二部技術課課長の大崎 学氏にお聞きしました。

宝酒造株式会社
商品第二部技術課課長
大崎 学氏

【インタビュー内容】
2011年初頭から、各地の希少な国産果実を使ったチューハイとしてタカラcanチューハイ『「直搾り」日本の農園から』というブランドを発売しました。原材料である果実の生産量が限られていることもあり、期間限定という形で販売をしてきました。全国に産地の名前が出ることで、生産者の方々には喜んでいただいた一方で、“どこでも買える”けど“一時的にしか販売しない”ので、知名度は上がれども、産地への貢献はどうしても限定的になり、産地全体が盛り上がっているとは言いづらいという課題があったのも事実です。通年商品として継続的に展開していくのは、収穫量の問題などもあり現実的ではありません。そうした中で、この問題をクリアにするために着目したのが、“地域限定”という展開方法です。果実の収穫量を担保しながら、地元の人に地域の果物を知ってもらい、価値を上げることで、継続的に産地を支援できるのではないかと考え、現在のような地域限定の商品に辿り着きました。

その結果、誕生したのが前回の記事でご紹介した地域限定クラフトチューハイ『寶CRAFT』シリーズです。2017年の9月に『寶CRAFT<栃木ゆず>』という商品が発売されてから、日本各地で丁寧に育てられたご当地素材を発掘し続け、現在(2024年10月現在)までに合計42商品を展開するまでに取組が拡大してきました。

その中のひとつに京都府で栽培されているレモンを使用した『寶CRAFT<京檸檬>』という商品があります。これまでは、既に生産されている果実から商品を開発してきましたが、「京檸檬」に関しては産地をつくるところから宝酒造として関わってきた、新たな取組の末に誕生した商品です。

『寶CRAFT』シリーズ

京都をレモンの新たな産地に!「京檸檬」で地元の新しい魅力を発信したい

古くから京野菜など唯一無二の農作物を生産してきた京都で、他産地には負けない京都発の唯一無二の「京檸檬」をつくり上げようと発足した「一般社団法人京檸檬プロジェクト協議会」。その中で発足当初から参加されている宝酒造様にプロジェクト発足の経緯や活動内容についてお聞きしました。

1.京都で初めてのレモン栽培

【インタビュー内容】
一般社団法人京檸檬プロジェクト協議会は、京都ブランドのレモンを創出することを目指し、生産者から我々のような加工業者やメーカーなど様々な業界を巻き込んで2018年に発足し、2024年で7年目になるプロジェクトです。
国産果実の加工会社である株式会社日本果汁の代表取締役である河野さんの呼びかけをきっかけに、本社を京都に構える宝酒造としてもこれまでの国産果実における知見を活かして、京都という地で何か恩返しができないかとの想いのもと参加を決意しました。
そもそもなぜ京都でレモンなのか?と疑問に思う方も多くいるのではないでしょうか。それは当時、日本でレモンサワーブームが到来していた中で、「国産レモンが不足していたこともあり、京都の地でレモンづくりができないか」と考えたのがきっかけでした。
さらに、今回の取組では、社会課題となっている新規就農の支援や耕作放棄地を活用するという取組を実践することにも、大きな価値がありました。何かきっかけがあったというよりも、プロジェクトメンバー全員が問題だと認識していて、「耕作放棄地をなんとかしたい、新規就農の支援も行っていきたい」と考えていたんです。
しかし、「温暖な気候で育つはずのレモンが、寒暖差の激しい京都で育てられるのか?」、「そのうえ、耕作放棄地でちゃんと育つのか?」と心配する声もありました。確かに京都の冬は寒く、マイナス4度を下回ってしまうと冷凍耐性のないレモンはつくることが難しいと考えられていました。ですが、宝酒造としても、やってみよう!という想いもあり、「京檸檬」の産地をつくる取組が始まりました。

一般社団法人京檸檬プロジェクト協議会の参加メンバー

この取組の中で宝酒造は、生産された「京檸檬」をチューハイに商品化して販売をする、言わばレモンの栽培が入口とすると私たちはプロジェクトの出口の役割を担っています。我々の他にも麺つゆやお菓子など、出口となるメーカー企業は複数参加しており、協議会の発足当時から「商品化するために、収穫されたレモンは全て買い取ります」と生産者さんには宣言をしていました。
というのも、レモンは最適な栽培環境である温暖な気候のエリアでも、収穫できるようになるまでには約3年の期間が必要となる、時間がかかる果実です。そして、京都の土地にあった栽培方法やレモンを安定的に収穫できるようになるまでにはさらに時間がかかる可能性も考えられました。そのため、プロジェクトとして加工業者やメーカーを巻き込んで、全量を買い取る仕組みをつくることで、生産者さんは安心してレモン栽培が続けられますし、我々の立場としても、国産のレモンが少しでも多く供給されることは大変助かります。
商品開発も並行しながら、積極的に生産現場の現状を知り何か出来ることがあれば実践するというのが、宝酒造としての本プロジェクトにおける存在意義なのではないかと思います。

実際にプロジェクトを始めた当時、印象深かったのは農業のプロ揃いであるプロジェクトメンバーの皆さん、特に生産者さんのレモンに対する真剣な姿勢です。レモンの栽培を目的に集まったメンバーでしたが、実は、その生産者さんたちがこれまでに栽培されてきたのは九条ネギやお茶、柚子などで、レモン栽培は初めての挑戦でした。そのため、レモン栽培に関するノウハウや知識などは、レモンの産地として有名な広島県から指導員を招いて講義を行い、生産者さん以外のメーカーである私たちも参加しながら、栽培をスタートするうえでの悩みなどを全員で真剣に意見交換したりしました。その頃は、「いよいよ京檸檬の栽培が本格的に動き始めたんだ!」とワクワクした記憶があります。
実際に栽培が始まると生産者さんのところに行って苗を植えたり、収穫をしたりする活動にも参加させていただきました。寒暖差の激しい京都で栽培を始めてみると、やはり場所によってはダメになってしまう木もありましたが、予想していたよりも順調に育つ木もあることがわかってきたんです。そうして試行錯誤をしながら、ようやく安定的に「京檸檬」の栽培ができるようになっていきました。

レモン栽培における生産者との連携の様子

2.生産者・加工者・販売者が一体となった「京檸檬」のブランディング

【インタビュー内容】
日本での一般的なレモンの収穫時期は、レモンが黄色くなった2~3月ぐらいに行われるので、レモン=黄色というイメージの方が多いのではないでしょうか。一方、「京檸檬」は一般のレモンより3か月以上早い10月から収穫するので、皮の色は緑色なんです。レモンの皮が緑色なんて、収穫するのが早すぎないか?と思うかもしれませんが、その頃にはちゃんと丸々としたレモンになっていて、収穫が早い分、酸味が控えめで瑞々しい甘い香りと、上品な苦みがあるところが、他のどこのレモンとも似ていない「京檸檬」の特徴だと思います。その「京檸檬」を余すことなく、果汁から果皮、種に至るまでの全てをペーストやエキスとして活用して完成したのが『寶CRAFT<京檸檬>』です。実は、通常のレモンサワーだとレモンの香料を使うことが多いのですが、今回は香料を一切使わずに、「京檸檬」の味わいを再現しました。これは加工も京都で行うため、収穫後すぐに鮮度の高い果実を使用できる「京檸檬」だからこそできる魅力です。
また、『寶CRAFT』シリーズのひとつのテーマでもある「ご当地グルメとの相性」については、京都のグルメ「お好み焼き」や「ベタ焼き」に合わせた、飲みやすい美味しさという点にこだわりました。
「果実をまるごと全部使う」というと難しく聞こえるかもしれませんが、実はできるだけ余すことなく使う方がコスト面をはじめ、味づくりには間違いがないんです。より本物に近い味わいとなるので、メリットが大きいんですね。フードロス削減という意味でも、まるごと使うことの意義をできるだけ伝えたいという想いもあります。最終的には丸ごと使用しているからこそ味わえる「京檸檬」の持つ本来の味わいを、満足のいく仕上がりにできたと思っています。ここにたどり着くまでが一番苦労しましたが、一番面白いプロセスでもありました。
こうして何度もトライアンドエラーを繰り返しながらテスト販売も行い、プロジェクトの立ち上げから5年の歳月を経て、2023年11月に、『寶CRAFT<京檸檬>』を発売することが出来ました。どんな状況でも「絶対できる!」という生産者の皆さんのお言葉と、そういった方々が引っ張ってくださったご尽力あってこその結果だと思っています。

収穫時期を迎えた「京檸檬」

商品を発売して約1年経ちましたが、徐々に「京檸檬」という果物の認知度が上がってきているのを実感しています。
例えば、自分もお酒が好きでよく居酒屋に行くのですが、これまでは見かけなかった寶CRAFT<京檸檬>が普通にメニューにあるんです。これは、嬉しいですよね。「京檸檬が広がってきたな」と、肌で感じる瞬間でした。
また、日常生活の中でも、「京檸檬」のシーズンになると京都の色々な畑でレモンがなっているのを目にする機会が増えたと思います。実際に現在でも、新聞やマスコミに掲載された記事を見た生産者さんから、プロジェクトに参加したいというお問合せなどもあり、自発的に「京檸檬」に興味を持ち、栽培してくれる生産者さんも増えてきています。当社の商品も順調に出荷できています。やはり、レモン自体イメージも良く、人気がある果実でもあり、さらに京檸檬プロジェクトという取組を新しくて面白そう!と興味を持ってくださる方が多いので、「京檸檬」の機運は非常に上がってきている印象ですね。その気持ちに応えるためにも、「京檸檬」のブランド価値をしっかり確立していきたいです。ブランディングという意味では今は途上にありますし、プロジェクトメンバーみんなで今後のさらなる展開について議論している最中です。
このプロジェクトでは、総会など年に数回集まる機会があるのですが、そこでは商品開発や発売状況などの報告を密にしたり、メンバーとのコミュニケーションをとったりすることに力を入れてきました。商品の発売が実現するまでは生産者さんも「本当に商品なんて出せるの?」と半信半疑だったと思うんです。それを実際に商品化したことで、生産者さんとのつながりもより深くなったと感じています。最近は、「京檸檬」以外の農作物もこの生産者さんから買ってみようとか、逆に生産者さんからはうちは田んぼもあるから来てみる?といった会話がでたりして、双方向で今後も色々な可能性が広がっていきそうな気がしています。

消費者の方からも、『寶CRAFT<京檸檬>』は食事と合わせやすいといった声をいただいています。これからもお客様に選んで、飲んでいただくことが商品の継続、そして「京檸檬」のブランディングにつながると思うので、京都のお土産や飲食店で楽しんでいただける商品にしていきたいと考えています。

一般社団法人京檸檬プロジェクト協議会での総会の様子

『寶CRAFT<京檸檬>』が第7回エコプロアワードで財務大臣賞受賞!地域に根差した商品としていつまでも愛される存在に

クラフトチューハイを通じて、耕地放棄地の利活用やフードロス削減など、サステナブルな取組を実施してきた宝酒造様に、今後の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
京都にレモンの産地をつくるという宝酒造としても初の試みとして、商品開発だけでなく、プロジェクト開始当初はレモンの木を植え、その木が5年、6年と経ってすごく大きく成長している姿を見たときは、とても感動したのを覚えています。個人としても京都がレモンの産地になっていくプロセスに携われるなんて「なんか凄いな」と、感慨深いものがあります。社内でも、産地を一からつくるという取組に興味のある社員は多いと思いますね。最近では、宝グループホームページにおいてサステナビリティに対する取組を紹介するページにも掲載されました。
また、先日『寶CRAFT<京檸檬>』の取組が、一般社団法人サステナブル経営推進機構様が主催する第7回エコプロアワードにて、財務大臣賞を受賞することができました。社内外問わず様々な形で自分たちの取組が取り上げられることは、多くの方々に知ってもらえる取組になってきたんだなと実感でき、嬉しいです。

『寶CRAFT』シリーズは地域限定発売なので、全国どこでも購入できるものではありませんが、だからこそ、面白みがあります。例えば、今回の「京檸檬」と、これまでに商品化してきた千葉の「南房総レモン」、東京の「小笠原島レモン」では、同じレモンでも品種や育つ土壌も違いますし、収穫時期も異なるので、同じ果実でも味がまったく違うんです。様々な要素が絡み合って、各エリアの違いが出てくるんです。
美味しいからどこでも買えるようにしてほしいとのお声もいただきますが、そこは『寶CRAFT』の理念である、地域経済への貢献のために今後も限定商品として楽しんでいただき、愛され続けるような商品になると嬉しいです。地方に行った際には、ぜひ飲み比べをしてみてほしいですね。

『寶CRAFT<京檸檬>』という商品を世に送り出すことができたので、次の目標は、消費者の皆様に購入していただいて、それが生産者さんや地域経済の振興につながって、盛り上がってほしいということです。
また、私自身も個人として将来農業をやってみたいと思っていて、機会があれば新たな産地づくりにも関わっていきたいと考えています。『寶CRAFT』シリーズでも多くの種類を商品化していて、レモンと同様に産地ごとに味の違いを楽しめる、柚子の栽培や産地づくりをやってみたいですね。自分の生まれた町が柚子の産地ということもあり、親近感があります。それに、柚子は世界的に注目されている果物でもあり、輸出も増えていますから、日本の主要な輸出農産物になり得るのではないかと可能性を感じています。少子高齢化で柚子生産者は減少傾向にあるそうですが、こうした課題を解決し、活性化することは大きな価値あることではないかと考えています。
今後もチューハイを通じた社会貢献として、これまでに培った経験や知見を活かし、引き続き全国の耕作放棄地やフードロス削減などに宝グループ全体として取組んでいけたらいいなと思っています。

寶CRAFT<京檸檬>