見出し画像

各地の国産果実を応援したい!クラフトチューハイから社会貢献を目指す[Vol.1]

1842年に京都・伏見で創業、現在は宝グループの国内事業を担い、焼酎や清酒等の製造・販売を行う宝酒造株式会社様。缶チューハイのパイオニアでもある同社は、「各地の国産果実をうまく活用して、日本の産地を盛り上げたい」との想いから、チューハイを通じた生産者と消費者をつなぐ取組を継続して実施されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの活動として、希少な国産果実の商品化から地域・産地の活性化につながる継続した取組について紹介します。


元祖缶チューハイが生まれるまで

創業以来、180年余りにわたって培った技術力と、新たな発想で唯一無二のお酒を追求してきた宝酒造様。市場のニーズに合わせ、様々な商品を開発されてきました。どのような経緯で誰もが知る缶チューハイの誕生に至ったのか、またそこから地域に根差したチューハイ造りに挑戦することになった経緯について、執行役員商品第二部長の吉田 隆裕氏にお聞きしました。

宝酒造株式会社
執行役員商品第二部長
吉田 隆裕氏

【インタビュー内容】
宝酒造株式会社は、宝ホールディングス株式会社の国内事業を担う酒類メーカーです。焼酎、清酒、チューハイなどの「和酒」や、本みりんをはじめとする酒類調味料を製造・販売しています。

1842年に京都の伏見で創業家が酒造業を興したことが、宝酒造の始まりでした。1912年には『寶』の商標で焼酎販売を開始しており、『宝焼酎』は100年以上の伝統に培われた信頼のブランドとなっています。1925年に寳酒造株式会社として創立したので、来年宝グループは創立100周年を迎えます。長い歴史の中で、実は、1954年には『タカラビール』というビールも造っていたんです。ただ、ビール事業は大手のメーカーさんが流通も含めて強いということもあり、結果としては失敗に終わってしまいました。しかし、その巻き返し策として「新しい焼酎を造ろうよ!」ということになりニュータイプ焼酎の開発を行い、1977年に宝焼酎『純』が誕生しました。宝焼酎『純』を発売した当時、アメリカではバーボンウイスキーよりウォッカが売れたり、無色透明のお酒に人気が集まる「ホワイトレボリューション」と呼ばれる世界的な流れがあったんです。それを受けて、「日本でも同じように革命を起こそう!」という想いで生まれた商品が宝焼酎『純』です。
その後、1980年代には焼酎を果汁や炭酸で割って飲むチューハイブームが起こり、宝焼酎『純』を使ったチューハイが居酒屋で流行しました。そして、もっと手軽にチューハイを楽しめるようにと、1984年に『タカラcanチューハイ』が誕生しました。宝酒造は酒類市場に缶チューハイという新しいジャンルを創造したんです。

1984年発売当時の『タカラcanチューハイ』

お酒の缶モノというと、当時はビールくらいしかありませんでした。缶モノを発売しようとすると設備投資も必要となりますから、なかなか難しい。ただ、この商品化に関しては居酒屋で宝焼酎『純』を使ったチューハイが人気となっている実績も後押しとなり、「やるなら、設備投資もしてやってみよう!」と勝負に出たわけです。缶のデザインも、世界的なグラフィックデザイナーの松永真先生にデザインしてもらい、それが時代を超えて今に受け継がれています。シンプルかつ普遍性を追求したデザインは2013年に「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」も受賞しました。発売当初のCMには、ジョン・トラボルタを起用するなど、「大々的に世の中に出すぞ!」という熱い想いが込められた商品でした。その想いが実って、おかげさまで『タカラcanチューハイ』は大人気商品となりました。

現在、チューハイ事業は各社で展開されていますが、私たち宝酒造は「宝焼酎の飲み方のひとつとして、チューハイ事業をやろう」と、方針を明確に持っている点が強みだと感じています。千葉県の松戸工場などで蒸留したアルコールからピュアな焼酎を造り、そこに樽貯蔵熟成焼酎を加え、各種原料をブレンド・微調整しながらチューハイを完成させます。お酒好きのことをよく知っている会社という自負がありますので、樽貯蔵熟成焼酎をブレンドすることで、お酒好きの方に満足してもらえるしっかりとした飲みごたえと飲み飽きしない絶妙な味わいを作り出しています。おかげさまで『タカラcanチューハイ』は今年で発売40周年になりますが、根強いファンが大勢いらっしゃるロングセラー商品となっています。

熟成酒の貯蔵樽

チューハイができる社会貢献とは?

希少な国産果実を使ったチューハイを商品化することが、結果として地域の活性化にもつながってきたと話す宝酒造様。これまでの国産果実にこだわった商品開発の取組についてお聞きしました。

1.希少な国産果実を缶チューハイに!地域に密着した商品開発の原点

【インタビュー内容】
『タカラcanチューハイ』の発売以降、チューハイ事業は軌道に乗っていましたが、他社の参入も増え、これまでとは違った新たなチューハイを打ち出したいと考えていました。そんなときに、国産果実に注目し始めました。
国産果実といっても、当時大量に流通しているものとしてはリンゴやミカンなどいくつかの果物のみ。当社もまずは安定的に入手可能な果物の果汁を使ってチューハイの生産をしていたのですが、しばらくすると「宝さん、この果物を使ってチューハイを造ってくれませんか?」という相談が持ちかけられたんです。その一つが、愛媛のブラッドオレンジでした。実際にブラッドオレンジの産地化事業に携わっている方から、「生産者さんと一緒にこの果実を盛り上げませんか?」ということで、お声をかけていただきました。
ブラッドオレンジは、温暖な地中海沿岸が原産のため、もともと日本では気温が低くて生産が難しい果物でしたが、近年の地球温暖化によって、愛媛県でもイタリア原産のブラッドオレンジの生産が進んできたそうです。しかも、愛媛県の特産品でもあるミカンの消費量が減少傾向にあり、何かしなくてはいけないと新たに栽培を始めた果物だと聞き、そのチューハイを作って知名度を上げるお手伝いなら私たちにもできるんじゃないかと思ったんです。このブラッドオレンジでの商品開発をきっかけに、希少な国産果実を無駄なく使う取組が始まりました。

商品化にあたって課題となったのが、「コスト」と、生のブラッドオレンジを食べたときの「味わい」をどうやって再現するかでした。最初はチューハイを造るために果汁の購入を検討していたのですが、これだけでは味の再現が難しく、採算も合わない。搾汁率が3割、4割くらいあったとしても、ブラッドオレンジ自体の価格も高いので、果汁も高価格になってしまい、どうしたものか、と。生産者さんも市場で青果として流通することを想定し、手間暇をかけて栽培しておられるので、値段は下げられません。そこで、希少な果物を無駄なく有効活用できないかと考え、果汁だけでなく搾汁した後の皮からオイルを抽出し、香料として使用しました。これによって、課題であった「コスト」だけでなく、「味わい」も本物の果物に近づけることができ、両方を解決することができました。
実は、他の香料も試したのですが、それでは愛媛産のブラッドオレンジを食べたときの美味しさは再現できませんでした。それが、搾汁後の皮から取出したオイルを使うことで再現することができたんです。当時は、美味しい商品を作るために、できることは何でもやろうと必死に取組んできたことなのですが、今振り返ると、これは未利用部位の有効活用というアップサイクルな取組であり、現在の活動の原点になったと思っています。

タカラcanチューハイ『「直搾り」日本の農園から』愛媛産ブラッドオレンジのパッケージ
(※現在は販売していません)

では、次はどこの何でチューハイを作ろう?となったときに、改めて日本国内の果実を調査しました。「こんなところでこの果物が作られていたのか!」ということが多々あり、実際にその情報をもとに生産者さんを訪ねました。「この果物を当社が缶チューハイにしてPRすることで、知名度を上げるお手伝いができるかもしれません」、と口説きに行くんです。最終的には25種類以上の商品を展開しましたが、いずれも産地からは大変喜ばれました。期間限定の商品でしたが、全国に産地の名前が出るということの魅力は、大きかったようです。狙いとしては、開発した商品は毎年継続して販売し、その間に産地と果物の知名度を上げ、チューハイ以外の加工品も出てきて、青果の需要を安定させることでした。

ただ、当社も他ブランドの限定商品もあるので、このブランドでは1~2か月に1種類程度しか発売できないのが実態でした。となると、年間6~10種類しか新商品を発売できません。さらに、2、3年すると新鮮味を求めて、別の商品を発売してほしいというリクエストも来るようになりました。そのため、一度取組を開始した産地でもお別れの時がやってくる。これが開発の担当者としては辛かったですね。でも、自分たちが手掛けた果物が、後にチョコレートやチューイングキャンディーなどの別の商品になったという話を聞くと、ちょっとは産地の役に立てたのではないかな、と嬉しくなりますね。社内でも、全国にある支社の中から自分たちが管轄する地域の商品が出るとなると、みんなとても喜んでいました。「次はうちでもやってよ!」という声もありました。

タカラcanチューハイ『「直搾り」日本の農園から』シリーズ
(※現在は販売していません)

2.地域限定でサステナブルな取組へ

【インタビュー内容】
タカラcanチューハイ『「直搾り」日本の農園から』シリーズを通して、全国の希少な果物を使ったチューハイを展開してきました。ただ、全国発売の期間限定で展開していたため、”どこでも買える”けど”一時的にしか販売しない”ので、知名度は上がれども、産地のおみやげ物としては取扱いづらく、産地全体が盛り上がっているとは言いづらい状況でした。そこで、産地を継続的に支援していくためには、何ができるだろうと考えたんです。ただ、原材料となる果物の生産量を考えると、全国で継続した展開をすることは難しいのでは、と感じていました。そこで、販売地域を限定し、地元の人に地域の果物を知ってもらって、その価値を上げていってはどうか?と。地元の食、グルメと相性のよいお酒として販売することができたら、地元の飲食店やスーパーにも置いてもらいやすいのではないか、と考えました。期間限定の全国発売から、通年発売の地域限定の商品として、継続的に産地を支援できる商品を作ろうと決めた瞬間でした。

そもそも、当社は全国展開の商品を主軸としていましたから、販売地域を限定した商品というのは初めてのことで、社内でも試行錯誤の連続でした。しかし、それ以上に各地にある支社では、「自分たちの地域を代表する商品」が出せるということが、この商品を販売するときのモチベーションになっていたように感じます。

次なる課題は、生産者さんとの信頼関係の構築です。生産者さんは、高齢化によって後継者がいないことや、地域の人にもその果物の存在が知られていないことについて、問題意識を持たれていました。そこで、自分たちが手伝うことでそれらの問題をクリアにできないか、と思案しました。例えば、イチゴとゆずが特産品の地域でも、一般的に需要の多いイチゴが優先されてしまって、ゆずがほったらかしにされてしまっているような現状もありました。このような状況を解決するきっかけになればと思い、「この地域を代表する商品にしていきましょう」と生産者さんに話をしていきました。あわせて、この商品に関わる人みんなが喜べる商品に育てて、地域経済を活性化するための助けとなりたい、加工用として一定量の販売ができるので、収入が安定する取組である、ということを伝えていくと、生産者さんもとても協力的にこの取組に向き合ってくれました。

こうして誕生したのが、2017年9月に発売されたクラフトチューハイ『寶CRAFT』です。<栃木ゆず>から始まり、今では『寶CRAFT』は、41種類を展開しています(2024年5月現在)。展開地域として、全国制覇!という話も出てきますが、同じ県で複数商品を展開していたり、果物が採れない地域もあったりするので、そこは敢えて狙っていません。地域経済の活性化というのも視野に入れつつ、自分たちにできることをしようと考えています。

『寶CRAFT〈栃木ゆず〉』

また、多くの場合、1つのブランドにつき1種類の果実だと思うんです。でも、『寶CRAFT』に関しては、地域が違えば、同じ種類の果物でもOKにしています。これは、もっと地域に密着して、地域の経済を活性化していきたいという想いがあるので、特産品として知名度の高い果物だけでなく、実はこの果物の産地でもあるんです、というような希少な果物をちゃんと取り上げていきたいと思い、本当に知ってもらいたい果物を選んでいます。
先ほどの『寶CRAFT 〈栃木ゆず〉』に関しても、栃木の茂木ブルーベリーを他の商品で取り扱っていたときに「実は、ここでもゆずを栽培しているんですよ」って町長に教えてもらったことが始まりでした。ゆずは高知にも、京都にもあるし、通常の商品であれば商品化は難しいと言っていたところですが、『寶CRAFT』では「茂木にもゆずがある」ということを伝えていくことができるのです。発想の逆転ですね。また、同じ果物でも産地が違うと、収穫時期や気候によって味が全然違うんです。さらに、当社にある約2万樽85種類の樽貯蔵熟成酒の中からそれぞれの果実の特長に合わせて種類・量の組み合わせを変えれば無限のバリエーションを実現できます。それぞれご当地の食べ物に合った味わいに仕上げています。だからこそ、同じゆずであっても、産地が違うものを飲み比べてみて、味わいの違いを発見したり、楽しんでいただけるようになってきていると感じています。

『寶CRAFT』シリーズで同じ果物を使用した商品のパッケージ

今はとにかく、生産者さん、それに携わってくれた方々、宝酒造それぞれが自立した形でみんなが幸せになる解を見つけていきたいというのが一番の想いです。ボランティアとしての支援ではなく、自助努力も必要ということに共感し、一緒に頑張ってくれるなら、当社としても腹をくくっていきましょう、というところですね。

実際に、『寶CRAFT<栃木ゆず>』発売以降、栃木ゆずの産地では年間約20tもの新規需要を創出することができました。目に見える成果が出ることは、嬉しいですね。それでも希少な果実なので、果皮などもアップサイクルして、できるだけ有効に使うようにしています。生産者さんの中には、会社を退職した後に果物農家になった方もおられます。また、高齢の生産者さんの孫世代、Z世代の方が、果物農家にビジネスとしての価値を見出して地元に戻ってくるというケースもあるので、持続可能な取組として好循環が生まれていると感じています。生産者さんも、『寶CRAFT』を都市部に就職した子どもたちに配ったり、地元の手土産として持っていったりと、地域を代表する商品があることに、誇りを持っていただいていると感じています。本当に嬉しいです。

これからのサステナブルな活動に向けて

『寶CRAFT』を通じて、各地の果物産地を盛り上げてきた宝酒造様。今後の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
年に一回、宝グループ全体のサステナブルな取組をまとめている統合報告書にも、エシカル消費に対応した商品開発として『寶CRAFT』が取り上げられました。会社としても、事業の延長線上に社会貢献がある、時代にフィットした取組として紹介してもらえる事例となったことを嬉しく思っています。

当社でも、産地応援として収穫時期のお手伝いなどを積極的に行っています。社員が家族連れで行ったり、開発者や支社の社員が行ったり、収穫時期に人手がとにかく必要な生産者さんを上手に助けられるような仕組みを作りたいですね。それに収穫という名のもと、1年に1度でも商品に関わる人たちが一堂に会することは異業種交流会的な、ポジティブな効果も期待できると思います。

今後は、まだあまり開拓できていないエリアを中心に、新たな商品を展開していきたいです。できれば生産者さんはもちろん、町おこし的に「この果物を盛り上げたい!」と考えているような地域と一緒にできれば、いろいろな意味で課題解決につながるのではと考えています。
あわせて、各商品のストーリーをきちんと紡いでいきたいです。消費者の方もストーリーに共感して購入していただけると思うので、これからも積極的に発信していきたいですね。

『寶CRAFT』シリーズを代表する商品