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一粒のコーヒーからはじまる持続可能な世界の輪[Vol.1]

1957年の創業以来、「コーヒーを、どこまでも。」を企業理念に、コーヒー豆の選定から商品の販売までコーヒー一筋で展開してきた三本珈琲株式会社様。

おいしさと安全品質を追求したコーヒーから、関わるすべてのひとにちょっとした幸せを届けるために、食品ロスの削減やコーヒー豆の副産物を有効活用した製品の開発等、持続的な世界を一粒のコーヒーから創出する取組に尽力されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの、創業時から脈々と流れる社会の役に立つ企業でありたいという想いから始まった、「コーヒー」を起点とした幸せの連鎖を未来につなげる挑戦ついて紹介します。


コーヒーから始まる持続可能な世界への挑戦

日本のコーヒー文化とともに成長を遂げてこられた三本珈琲株式会社様。今回は、製造部門統括本部 サステナビリティ推進室 室長 正木 陽子氏、食品安全・開発研究本部 主任 植木 理香氏に会社の成り立ち、コーヒーへの想い、サステナビリティ活動についてお伺いしました。

三本珈琲株式会社
製造部門統括本部 サステナビリティ推進室 室長 正木 陽子氏(左)  
食品安全・開発研究本部 主任 植木 理香氏(右)

【インタビュー内容】
1957年、横浜の小さな喫茶店にコーヒーを卸すところからスタートした当社は、「コーヒーを、どこまでも。」を企業理念に、地場に根付く企業を目指し、コーヒー豆の選定から販売までコーヒー一筋で事業を行っています。1989年の横浜博覧会に「MMCコーヒー地球体験館」を出展した頃から、社会との繋がりを大切にし、社会に貢献できる取組が重要である、という視点が経営の土台に根付いていきました。会社としてしっかりと経営しながら、社会にどのような貢献ができるのかを常に考え、社会や文化と共に成長してきた結果、幅広く皆様に知られる企業になったと考えています。

当社の特徴は、確かな品質の原料から、お客様の多様なニーズに対応した、カスタムブレンドづくりです。原料については、自社で使用するコーヒー生豆の大部分を生産国やコーヒーサプライヤーから直接輸入し、品質を担保しながら、産地に負担をかけない責任ある仕入れ体制を構築しています。そのうえで、ロースターとしての専門性を活かし、お客様の要望に応える味や香りを探求しています。毎回新しいブレンドをつくることは必ずしも効率的ではないかもしれませんが、「お客様の期待を超え喜んでいただきたい」という一心で、実現してきました。

コーヒー豆を焙煎する様子

コーヒーの産地は、栽培に適した気候の「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道付近の北緯・南緯25°の一帯です。ここは、気候変動による地球規模の影響を大きく受けることに加え、途上国も多い地域です。そのため、コーヒーの未来を考えた時、産地国の経済、発展を支援することが必要不可欠であると考えています。一方で、コーヒーを扱う当社として、これらの課題に向き合うことは当然の責務ですが、当社が単独で取組んでいてもその影響は小さく、ただの自己満足で終わってしまいます。そこで、当社と同じように考え、行動するひとや企業を増やすために 、まずは社内の推進力を高める目的で「サステナビリティ推進室」を設置しました。持続可能な世界の実現にチャレンジし続けることの責任部署として、対外的な発信や活動を主導しています。また、当社のサステナビリティ方針として「持続可能な世界を、一粒のコーヒーから。」を掲げ、与えられた課題やチャンス一つひとつに真摯に向き合い、取組を推進しています。

特に注力しているのが、食品ロスの削減です。コーヒーの製造は他の加工食品に比べてシンプルであり、各工程の詳細把握や管理は比較的容易に行えます。その強みを生かして、持続可能な社会のために当社としてできることを模索し、社内の資源に改めて向き合うことから始めました。そして、コーヒーがもつ可能性をより大きく広げるために、コーヒーをつくる過程で出てくる副産物の有効活用にも力を入れています。サステナビリティ推進室として動き始めた当初は、目の前のことに対応するだけで精一杯でしたが、取組に関する情報発信が連鎖を生み、発信を受け取った方からも声を掛けていただくことで、活動の輪が広がってきたことを実感しています。今後もパートナーシップを最大限に活かし、フードチェーンに広く影響力を持つ当社だからこそ可能な貢献にチャレンジし続けていきます。

サステナビリティ推進室の活動
(左:子ども向けSDGsセミナー、右:地域のマルシェへの出店)

みんなの参加で広がる幸せ!コーヒーだからできること

コーヒーの製造・販売を通した環境やSDGsに関わる具体的な取組についてお伺いしました。

1.「もったいないコーヒー」から始まる食品ロス削減への取組

【インタビュー内容】
コーヒーの製造は、大きく分けて「生豆精選」、「焙煎」、「包装」が主要工程となり、その間に品質や安全のための細かいチェックなどがありますが、他の食品に比べるととてもシンプルな製造工程になっています。そのシンプルな工程の中でも無くすことが困難な、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロス、「もったいないコーヒー」に着目し、「三本珈琲オリジナルブレンド」を商品として開発しました。さらにこのオリジナルブレンドを起点に、販売店、消費者等、関わる全員が参加できる食品ロス削減、社会貢献活動を推進できる仕組みを構築しました。

仕組みの起点は食品ロス削減商品「三本珈琲オリジナルブレンド」ですが、この商品はお手頃価格で販売し、その売上の一部は社会貢献活動に使用することとしています。売上の一部が社会貢献に使われることで、消費者はこの商品を買うことで気軽に社会貢献に参加することができます。
製造時のロスの発生は一定ではないため、この商品は必ずしも安定供給できるものではありません。その点やこの取組の意義を理解したうえで、この商品を扱ってもらえる販売店に協力いただき商品を販売します。さらに、販売店で発生するお弁当や季節商品などの食品ロスを売上の一部で買い取り、フードバンクに寄付することで製造時・販売時の2か所で発生する食品ロスを削減できるとともに、必要な先に食料を届けることができる、全員参加でどんどん食品ロス削減を推進する「全員参加型食品ロス削減推進モデル」が出来上がりました。

作り手、売り手、買い手、及び関連団体の全てが参加する社会モデルの構築と実績により、令和3年度「食品ロス削減推進大賞」審査委員会委員長賞及び第10回「食品産業もったいない大賞」審査委員会審査委員長賞を受賞し、農林水産省のウェブサイトにもSDGsに取組む企業としてインタビュー記事を掲載していただきました。このように対外的に評価いただくことで取引先の反応も良く、当社やその活動の価値が高められており、取引の拡大や更なる活動に繋がっています。

オリジナルブレンドの仕組み(左)と全員参加型食品ロス削減推進モデル(右)

このモデルを構築するまでには、様々な苦労がありました。まずはこれまで廃棄していたコーヒー豆を活用して商品化する点です。製造作業に新しい手順を加えるには、様々な手間がかかります。単純に捨てることはとても簡単ですし、それとは逆にこれまで捨てていたものを管理するにはこれまでのやり方を変えなくてはいけません。この「ひと手間」を加える変化を、負担ととらえる考えも当初は社内にありましたが、組織のトップマネジメントの強い意向と、出来上がった商品が周囲へ及ぼす影響を実感することで、次第に製造部門の中にも「もったいない」を活用する意識が根付いてきたように感じています。個人の力だけではどうにもなりませんでしたが、製造部門の組織的な協力も得て、商品化に結びつけることができました。
また、商品化ができても、販売店に置いてもらうためには、様々なハードルがありました。食品ロスを活用しているという製品の特性上、安定供給が困難です。そのため、販売店側は提供量が確約されない製品を扱うことが難しく、理解の上協力いただける販売パートナーと出会うまで大変苦労しました。今でこそ、外部から評価をいただいていますが、初めは全く理解されず、白いパッケージでコーヒーっぽくない見た目だったこともあり、なかなか受け入れられませんでした。徐々に販売実績を重ね、今では社会貢献費用で多くの寄付や活動を実施できるようになり、この取組を通じて多くの人が参加することの意義の大きさを改めて感じています。

店頭で販売されている「三本珈琲オリジナルブレンド」

2. 特性を活かしたコーヒー副産物の有効活用

【インタビュー内容】
コーヒー製造の副産物として、コーヒーの抽出粕(コーヒーにお湯をかけて抽出した後に残る粉)はイメージが湧きやすいと思います。それよりも前の段階、焙煎時に発生する副産物がコーヒー生豆の表面の薄皮であるシルバースキンです。生豆を焙煎する際、加熱されて膨らむコーヒー豆から剥がれ落ちる、薄くて軽く、香ばしい香りがするふわふわのシルバースキンは、三本珈琲の製造活動の中で大量に発生し、廃棄されます。

現在、このシルバースキンは動物園などで動物の蹄を守るためのクッション材などとして活用されています。また、シルバースキンの燃えやすい性質を生かし、エネルギー資源としての可能性も探っています。
さらに、シルバースキンはもともとコーヒー生豆の一部であることから、今後の食糧不足が懸念される未来に向けて、「食べ物はできるだけ人間の糧として活用したい」という想いから、今年からは食用利用にも取組んでいます。シルバースキンを練り込んだパンの製造は実現しており、シルバースキンの独特の香ばしさが後味に加わった美味しいパンに仕上がっています。今後はパン以外にも焼き菓子や麺など、シルバースキンに合うレシピを増やし、多くの方々にシルバースキンの存在と有用性を知っていただき、将来的にはシルバースキンが食材の一つとして認知される未来を目指して取組んでいます。

その他、コーヒー生豆が詰められている麻袋の活用も行っています。麻袋は丈夫な天然素材で、コーヒー生豆を取り出した後でもまだまだ十分に使える状態であるにもかかわらず、他に使い道がなく捨てられていましたが、これも動物園などで活用されています。
今後も食に関連することだけに留まらず、様々な視点で資源の有効活用を図れるように工夫を続けています。

シルバースキン(左)とシルバースキンを練り込んだ「チャフドックパン」(右)

3. 若い世代に伝えたい!自分事ととらえて「今すぐに始める」ことの大切さ

【インタビュー内容】
地球規模の大きな課題に向き合う時、「地球が大変なのは理解できるけど、自分にはできることが無い」と思いがちです。大切なのは、小さなことでもできることから一人ひとりが具体的に何かを始めることだと考えており、次世代に対してそれを伝える活動を行っています。例えば、子ども向けに食品ロスのためにできることを伝えるSDGsセミナーや、食品ロスの可能性を体感してもらえるワークショップなど、新しいプログラムもどんどん取り入れ工夫して伝えています。
Z世代との取組で主なものとしては日本工学院専門学校(蒲田キャンパス)へのイベント実施協力があります。年に一度の学校祭「かまた祭」では学生と一緒に、コーヒーや、シルバースキンを練り込んだパン等を販売するSDGsカフェの運営やトークイベントを支援しました。かまた祭の準備段階では学生の皆さんに当社の工場見学に来ていただき実際の製造ラインを見てもらった上で食品ロスに関する講義を聞いていただきました。そのように丁寧にステップを踏んでいくことで、学生の皆さんにも深い気付きを得ていただくことができ、共通認識を持ってイベントを共に作り上げていくことができていると感じます。コーヒーや食品ロスを起点に、地球の未来のために自分が今できることは何か、より実感を持って考えてもらうきっかけになっているのではないかと思っています。

「かまた祭」での学生との取組

他にも、食品ロスについてこれからの未来を担う子供に向けて発信する、SDGsセミナー等の啓発運動も積極的に行っています。 最近は食品ロスのコーヒー豆を活用したオリジナルブレンド体験が人気です。このように、多くの人が食品ロスについて考えるきっかけをつくる活動も、食品を扱う当社の責務として継続していきたいです。

食品ロスのコーヒー豆を活用したオリジナルブレンド体験会

一粒の、一杯の、コーヒーで描く「彩りあふれる未来」

三本珈琲様の未来に向けた取組について、今後の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
今後も、自社の生産活動と環境の持続可能性の両立を大前提として活動していきます。2030年という一つの節目に向けて世界が取組む目標のほとんどは、それ以降も継続していかねばならないものばかりです。当社は「MITSUMOTO COFFEE SUSTAINABLE PROJECT」による取組を推進し、累計300トンの食品ロス削減、製造時のCO2排出量削減及び生産活動で発生する廃棄物ゼロを目標に持続可能な生産活動を行っていきます。これらの目標とともに、未来をつくる子供たちや若い世代に対して私たちの取組や成果を伝える啓発活動は、重要な活動として大切にしていきたいです。
また、今後注力していきたいのは、廃棄物や副産物等未利用資源の新規用途開拓です。これには地域の研究機関や自治体とのパートナーシップを活用して、廃棄物ゼロの完全循環型生産活動の実現に向けて準備を進めています。
最後に、コーヒーに関わる事業者として信念を持って展開している取組をご紹介します。コーヒーは、様々な国や人々の想いが繋がって出来上がります。コーヒー製造が持続可能であるためには、産地国とのつながりや支援は欠かせません。コーヒー産地国の多くが途上国である現状をうけ、三本珈琲はコーヒー産地の子どもたちの未来に光を照らしたい想いから、レギュラーコーヒーで初めて国連WFPの学校給食支援事業「レッドカップキャンペーン」に賛同し、商品の売上の一部を寄付する取組を始めました。今では多くのお客様に対象商品を購入いただき寄付額も順調に伸びており、買うことでみんなが参加できるこのしくみの認知を高めること貢献しています。
 私たちは、誰一人取り残されることなくみんなが明るく幸せな食卓を囲める世界を願って、コーヒーを通じてできることにこれからもどんどんチャレンジしていきます。

レッドカップキャンペーン製品


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