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和食に欠かせない干し椎茸が海外で話題!日本の伝統食材を後世に残していくために今できることとは
株式会社杉本商店様は、原木栽培干し椎茸を専門に扱う卸問屋です。1954年に宮崎県で創業以来、生産者が持ち込む干し椎茸を全量現金で買い取り続けています。
国内需要が減少するなか、海外の販路開拓や、地域の新たな雇用を生み出す農福連携など、卸問屋の域を超えた活動が光ります。
今回はニッポンフードシフト推進パートナーの杉本商店様による、原木栽培干し椎茸の販路拡大や、生産者を守るための取組を紹介します。
日本神話の発祥地として知られる高千穂の森林で栽培される高品質な椎茸
古くから高千穂の森林で栽培されてきた高品質な干し椎茸を、生産者から仕入れて販売する杉本商店様。これまで、どのような形で日本の伝統食材を国内外に広めてきたのか、株式会社杉本商店 代表取締役 杉本 和英氏にお聞きしました。
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代表取締役
杉本 和英氏
当社は、1954年4月に宮崎の地において、創業者 杉本 正美が椎茸集荷業を開業し、椎茸市場への集荷を主な業務として営業していました。1959年11月から日本生活協同連合会へ椎茸の納入を開始したのに伴い、1970年7月10日に株式会社へ改組しました。その後、年々業績を拡大し、1992年9月には新工場を建設・移転し今日に至りました。
近年実施している、生産者と共に目指す輸出事業の取組については、2018年12月に経済産業省より「地域牽引未来企業」へ認定をいただき、その後2019年には原木栽培の乾しいたけとして世界初のKOSHER認証を取得しました。また、同年に生産者団体「杉本商店有機出荷者協議会」を設立し、有機JAS認証も取得しました。2021年には、国際規格認証ISO22000も取得しております。
高千穂郷の原木栽培しいたけは、自生するクヌギを伐採し、菌を植え、2年後から収穫します。クヌギの栄養成分と山あいの寒暖差でじっくり育つ椎茸は、「山のアワビ」とも評される味わいと歯ごたえが特徴です。
しかし、そんな自慢の干し椎茸も国内人口の減少による消費量の減少や高齢化による担い手不足などの要因によって、生産量は減少していく一方です。さらに、こんなに美味しいものを栽培していても、多種多様な食文化の影響を受け、国内の干し椎茸の需要も減少傾向にあるのが現状です。過去には高千穂郷で、約1700軒の生産者が椎茸栽培をしていましたが、現在では約600軒まで減少しています。今後もおいしい干し椎茸を安定的にお客様の元へお届けするためには、今行動する必要があると感じています。
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興梠 重義氏
実は「干し椎茸」市場の未来は明るい!?その光のひとつとなっている取組とは
多様なライフスタイルの変化によって、日本の食文化もどんどん変わっていく中、椎茸市場もこれまでとは違った方向に向いていると語る杉本商店様。一体どういった変化や課題を感じているのか、そしてその課題を解決するために行っている取組についてお聞きしました。
1.海外での販路開拓!Z世代が注目する高千穂郷の「干し椎茸」
そもそも海外での販売に目を向けたきっかけは、国内での干し椎茸の需要を喚起することが難しいと感じていたからです。国内での消費量がどんどん減っている中、特に若い世代に至っては干し椎茸という食材自体、馴染みがなくなってきているのではないでしょうか。そういった食文化の変化に加え、現在の消費者の傾向として、「なるべく価格は安い方が良い」という考え方にシフトしていることも感じていました。私たちが扱っている高千穂郷の干し椎茸は、山林の農地で自然の力を借りて育てる原木栽培であるため、室内で育てる菌床栽培と比べると大変に手間がかかります。ですがその分、高品質のものが育ちます。そういった背景を知っているからこそ、販売価格を周りにあわせて闇雲に下げるのではなく、あくまでも生産者さんの暮らしが成立するフェアプライスで販売することにこだわった結果、海外に展開することを決めました。
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それから、より多くの海外の方に日本が誇る高品質の干し椎茸を知ってもらいたいとの想いで、まずは国内外の展示会や商談会へ積極的に出展しました。
そんな中、多くの方に認知されるきっかけとなったのが、農林水産省が主導している日本の農林水産物の輸出を支援するプロジェクト「GFP※」の一環として、2022年にアメリカのロサンゼルスで開催されたイベントへの出展でした。そこでは現地の有名シェフに、干し椎茸を使った料理を作ってもらい、現地バイヤーやインフルエンサーに試食をしてもらいました。来場していた現地のZ世代インフルエンサーの動画で、我々の干し椎茸も取り上げていただいたんですが、その動画がなんと約430万回再生でバズったんですよね。
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SNSへ投稿されたポスト(右)
そこから、アメリカを中心とした海外からの、私たちのウェブサイトやSNSへのアクセスが増えました。でも、新規訪問者のほとんどがZ世代で、私たちが発信しているコンテンツとのミスマッチもあり、離脱も早い傾向にありました。
そもそもそ干し椎茸って、料理をする人しか買わないニッチな食材なので、当時私たちがSNSで力を入れて発信していた内容も、干し椎茸の活用レシピなど、実用的な投稿が多かったんです。でもそれって、Z世代には響かないじゃないですか。そこで、どういった投稿が好まれているのかが気になって、ロサンゼルスのイベントをきっかけに新しくフォローしてくれた方がどんな投稿にいいね、を押しているのか見てみたら、高千穂の風景や生産者さんが作業されている様子などが多かったんです。そこから、発信の内容も徐々に椎茸の栽培風景といった生産の裏側にシフトしたことで、フォロワーも定着するようになりました。
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そういった試行錯誤をしながら、徐々に海外でも認知されていき、今の弊社のSNSアカウントのフォロワーは、約55%が外国の方で特にアメリカのZ世代が多いんです。さらにSNSで自然風景の写真を投稿していると、リアルにその景色や椎茸が栽培されている所を見たいという人が出てくるのが面白いですね。今ではイベント出展の告知をするとわざわざ日本まで来てくれるコアなファンもいて、そこからさらにもっとたくさんの方とつながれるという、一昔前では考えられなかったことが起きています。中には、いきなりSNS経由でメキシコのレストランのシェフから高千穂に行きたいと連絡がきたり、一番驚いたのはニューヨークでマッシュルームを販売している人から、「日本のきのこに興味があって映画を作りたいから出てくれないか」とオファーが来たりもしました。SNSは、私たちのような地方の会社にはまさに、無料の広告宣伝ツールといったところですね。
これまでは商品を売ることへフォーカスしていましたが、SNSを通じて様々な方と交流して気がついたのは、「商品だけでなく、環境の話や生産現場の裏側に興味を持っている方が多い」ということです。特に私たちが取組んでいる、障害者支援施設との取組に関してはポジティブな評価をいただいており、知らぬうちに商品への付加価値にもなっていました。
の略称であり、農林水産省が推進する日本の農林水産物・食品輸出プロジェクト。
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2.生産者の減少を農福連携ならぬ「林福連携」でくい止める
海外への販路拡大は、「生産者さんからフェアプライスで買い続ける」ために取組んでいましたが、現在は少し違った方向性に向いています。というのも、生産者さんの高齢化に伴う生産量の減少と、さらに2024年の干し椎茸は長引いた残暑などの異常気象が影響して不作だったこともあり、出荷するものが無いという状態になっているんです。現在までにその状況は、メディアにはあまり取り上げられていませんが、実は当社でも出荷制限をかけているような状態なんです。
消費と生産を進めることは表裏一体化している。どちらかが解決すれば上手く進んで行くという簡単な話ではないですね。
そこで、「このままではいけない!」と取組み始めたのが障害者支援施設と連携した「林福連携」です。
2016年頃から、今後も生産者さんと共に歩んでいくためにはどうしたらいいのか、ずっと考えていたのですが、そこでまず最初にチャレンジしてみたのは、原木の供給でした。そもそも椎茸の原木栽培は、木を切るところから始まるので、そういった高齢者にとって負担の大きい作業をサポートすればいいのではと思ったんです。原木さえ用意できれば生産者さんも栽培を続けることができ、課題の解決にもつながると信じ、3,000本の原木を用意し1本単位で売ってみました。しかし、私たちの周知不足もあり、実際に売れたのは500本だけ。残りの2,500本は会社に山積みになってしまいました。残った木をどうしていこうか…、と頭を悩ませていたタイミングで、「何かできる作業はないですか」、と障害者支援施設の職員さんが訪ねて来られたんです。それが彼らとの連携のきっかけでした。
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のぞみ工房(左上)、めだかファミリーグループ(右上)、高千穂焼作業所(下段)
初めにお手伝いいただいたのは、ちょうど社内で手が回っていなかった椎茸の「軸切り」という作業でした。私たちは、生産者さんから全量買い取ることにこだわっているのですが、その中で使いきれない干し椎茸に関しては加工品にするので、その下処理として軸切りという作業が必要なんです。
そして、実際に作業をお願いすることになった時、作業場の衛生管理がされているか確認するために施設を訪問させていただいたのですが、なんと敷地内で椎茸を栽培しているのを発見したんです。施設で栽培したものを、これまた施設にある乾燥機で乾燥椎茸にして、道の駅やバザーで売っているという話を聞き、会社に山積みになっていた原木を思い出しました。そして、「原木を提供して、生産されたものも全量買い取るので、ぜひ栽培してみないか」とオファーをしてみたんです。
この林福連携による活動は、県内6事業所・7施設との取組に拡大し、栽培は原木12,000 本規模にまで増えました。
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「林福連携での栽培をもっと増やそう」となった時に、1つ課題が出てきました。それは、従来の栽培が、傾斜のある山で行われていること。都市部に住んでいる方はあまりイメージがないかもしれませんが、地方では障害者支援施設を利用している利用者の方も高齢化しています。なので、作業するには車いすで移動できるフラットな場所というのが絶対条件なんですね。
そこで目を付けたのが、障害者支援施設から車で40~50分のところにある廃校でした。そこの校庭で栽培することができれば十分な広さが確保できるし、何よりフラットなので車いすでの作業も問題なくこなすことができるユニバーサルな圃場になると考えました。そこから廃校の校庭を椎茸の原木栽培に適した「人工ホダ場」にするために動き出したんです。そこで森林を再現するために活用したのは、グラスファイバーのポールでした。実はこのポール、有明海で海苔の養殖に使われていたものなんです。なんでも海苔の養殖では、8年に1回は新しいポールに入れ替える必要があるそうで、その時入れ替えたポールは産業廃棄物となるため、これまで漁港に積んであったそうです。たまたまこのポールを活用できないかという話があり、これをアップサイクルという形で使えないか試してみたら、素材的にもポールは軽いし原木と組んでいくには最適だったんです。そして地元の生産者さんにも協力してもらい、設備を整えていきました。びっくりすることに、もしビニールハウスを建てて栽培することになっていたら1棟約1000万円はかかるのですが、ポールを資材として使ったおかけでビニールハウスと比較して約1/3程度の費用で作ることができました。
そしてもう一つ椎茸栽培に欠かせないのは水。高千穂での原木栽培では雨によって生産量が左右されてしまうのですが、ここの廃校ではちょうど隣に川が流れていて、水はくみ放題。スプリンクラーで水を散布しているおかげで安定して椎茸が育つんです。このように多くの方の助けを借りながら、2024年12月より実際に廃校を活用した圃場での栽培を開始しました。
椎茸の収穫期は、10月~11月。でも今年(2024年)は寒いので、高千穂の椎茸はあまり大きく育っていないんですが、校庭の施設では沢山生えて育っていますので、今後が楽しみです。
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私たちとしても、生産量を確保できるのはとてもありがたいことです。ですが何より、新しい雇用を生み出しながら、他の生産者さんと同じ価格の商品を作って、フェアプライスで販売できるんだ、ということを施設の利用者の方にも実感いただけることが、私たちがこの取組をする意義だと思っています。ちょうどボストンにあるスパイスメーカーさんと商談していたのですが、その際に農福連携の取組について質問をされたんです。そこで生産現場の話をしたところ非常に評価をいただき、そのまま商品も注文いただけました。それまではあまり意識してなかったのですが、このように知らぬ間にやっていたことが付加価値となって評価されているのは、嬉しいことですね。
「干し椎茸」や生産者を守っていくための今後に向けた展開
様々な課題がある干し椎茸市場のこれからや、杉本商店様としての今後の展望についてお聞きしました。
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杉本商店としてまずは、廃校の事例のように、公共施設を有効活用してもっと圃場の横展開をしていきたいなと考えています。さらにその先として、若い世代が椎茸の原木栽培に興味も持って新規就農につながるような展開を作ることができればいいなと思っています。既に廃校でも導入しているのですが、具体的には少しでも栽培している方の負担が軽減できるように、スマホで圃場の様子を見られるようにして、毎日現場に行かなくてもよいシステムにしています。また、地方には畑が付いている物件も多いので、例えばそこで地方ライフを楽しみながら栽培もして、リモートでも仕事をすればそれなりの暮らしができると思います。そんなライフスタイルを新しい働き方として魅力的だと感じてもらえる若い世代が出てきてくれると嬉しいですね。
また、2024年10月、私たちはニッポンフードシフトが主催する「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2024」にも出展させていただきました。やはり丸の内という場所柄もあると思いますが、外国の方が多かったですよね。実はその時、生産者さんも一緒に連れていけば良かったと後悔していたんです。自分が栽培している椎茸が日本や外国の方からどのような評価がされているのかを実際に感じてもらえる機会なんてそうないですし、なによりそういった生産の裏側に興味を持っている若い世代はたくさんいるんですよね。
イベントを通してそんな食や農に興味のある若い世代を取り込んでいくことが大事だと思いました。やはり、私たちでは距離があって上手く発信できないことも、彼らのような新鮮な目線で上手く同世代の人たちに発信してもらえれば、その輪が広がって日本の農業を守ることにつながると考えています。
今後も、椎茸の原木栽培における新規参入の壁を取っ払っていきたいと思っているので、若い世代に知ってもらい、継続的にSNSを活用しながら発信していけたらと思っています。そして、国内もそうですが外国の方へも日本の干し椎茸の魅力を伝えて、後世につなげていけるよう活動していきたいです。
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