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本当に食品製造機械メーカー?あらゆる角度から農林漁業の課題解決に挑む![Vol.1]

1948年、漁業で栄えていた静岡県焼津市で創業し、食品・医薬品関連製造機械メーカーとして顧客の悩みや課題解決のために、オーダーメイドの機械を設計・製造されてきた株式会社イシダテック様。

食品製造機械に関する技術やノウハウを発信するなか、食や農林漁業とつながる活動との連携も実現。現在は地元食材を使った宇宙日本食の開発サポートや、わさび栽培管理システムの実現を目指す株式会社NEXTAGEへの出資など、さまざまな領域において積極的な活動をされています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの活動として、食品製造機械に留まらない革新的な技術とのコラボや、後進育成にも力を入れているその思いを紹介します。


いつの時代も「重労働を楽にしてあげたい」という思いに突き動かされて

「機械にできることは機械で、伝統の味を大切に」という創業者のモットーを体現し、様々な食品製造機械の開発をされてきた株式会社イシダテック様。今回は、これまで培ってきた技術力をもとに挑戦されている新しい会社の取組について代表取締役社長の石田 尚氏にお聞きしました。

株式会社イシダテック
代表取締役
石田 尚氏

【石田社長 インタビュー内容】
当社は戦後、私の祖父が作った会社です。当時は「鉄でできるものなら、何でもつくる」というスタンスでスタートしました。やはり、焼津という土地柄、近所に魚屋さんが多かったということに加え、缶詰の工場で活躍する女工さんがたくさんいたんですね。その仕事を少しでも楽にしてあげたい、という思いに突き動かされたというのが当社の方向性に大きく影響したと思います。当時、静岡には50軒近いみかんの缶詰工場があり、その工場向けに自動でシロップを注入したり、殺菌冷却したりする機械などをつくっていました。

こうした流れを受け継ぎ、私たちは食品加工における工程の省略化と、それを実現する機械の商品化に取組み続けています。特に近年、水産業における高齢化は深刻な課題であり、できるところはどんどん機械に任せていこう!、と力を入れています。

その他、医薬品向けの機械も製造しています。例えば、医薬品の製造工程で顆粒状のものを製造する際に、その粒度を調整して扱いやすくする、といったかなりニッチな技術ですが、どの医薬品にも使われているくらい欠かせないものを提供しています。当社の事業としては、食品向け7:医薬品向け3くらいの割合ですが、いずれにしてもお客様の困りごとを解決するために、自分たちの技術を使うという姿勢は同じです。

昭和30年代に開発された「みかん自動剥皮装置」

私自身、2020年に会社を引き継ぎましたが、以前は東京のコンサルティング会社にいたこともあり、その経験も活かしつつ「会社として足りてないピースは何だろう?」と考えてきました。その結果、たどり着いたのが研究開発です。お客様の「こんな装置が足りていないから、作りたい」というニーズは多岐にわたりますが、それに対して「当社にはこの技術があります!」とわかりやすく言えるものがあまりなかったんです。そこで、研究開発を強化し、不足している部分はその技術を補える企業と提携したりすることで「この技術はうちでしか扱えません!」という唯一無二の技術を生み出せるようになったと自負しています。

技術的面白さでの課題解決や、次世代育成にも貢献したい

現在、イシダテック様の取組のなかでも目を引くAIを活用した新規の技術開発と、宇宙食プロジェクトについて、お聞きしました。

1.AIを活用した魚類選別システム

【石田社長 インタビュー内容】
社会課題に対してAIを活用した技術開発を始めたきっかけは「カツオ」でした。静岡県焼津市はカツオの水揚げ量が日本で一番です。でも、漁業協同組合は昔ながらの職人気質な組織。15年くらい前にも、水揚げ作業の省略化を相談されたのですが、当時はカツオの個体判別ができる技術がなく進まず。以来仕事がきつく、若い人が入ってこないことに加え、社会的にも高齢化は深刻なのに、それをどうにかしようにもなかなか動き出せずにいた状況でした。

そんな漁業協同組合が動き出したのは、焼津漁協で起きたカツオの盗難事件がきっかけでした。とにかく漁協の信頼を回復したいという想いから、カツオの全数検査をAIで自動化できないか?と相談があり取組を始めました。この技術は、人手不足の解消にも役立ちます。2023年7月まで実証実験をし、その結果をもとに次のフェーズに進んでいるところです。現状は、水揚げされた魚からどのクラスのカツオが何匹いて、それらは何キロで、その他の魚種が何キロで、ということを自動的に判別できるソフトの開発を進めています。

実はこのカツオに使われている技術、もともと焼酎メーカーさんから依頼された「焼酎に使うさつまいもの選別を自動化できないか」という相談がきっかけとなり開発した技術がベースとなっています。さつまいもの傷んだ部分を取り除いて焼酎を造るために、さつまいもの選別をするのですが、ここでも高齢化と人手不足は深刻な様子でした。将来を見越して、解決したいと相談に来られたんです。この技術開発に携わっていた古参のエンジニアが「さつまいもって、カツオに似ているから、同じ技術で課題解決できるんじゃない?」と。そして、実際にその技術をカツオの選別にも活用し、今に至っています。
このAIを活用した技術開発は社内でも最初驚かれましたが、最近は新聞やメディアにも取り上げられる機会が増え、社員たちも喜んでいます。地域に密着した会社ですから、家族に自慢できる仕事という意識が高まり、モチベ―ションにもつながっているようですね。非常にいい空気感になっていると感じています。

さつまいもを選別するために不良個所(緑/青で示されている部分)が検出できるAI技術

2. わさびの栽培にもAIを活用

【石田社長 インタビュー内容】
AIを活用した新技術の開発にも、取組んでいます。その一つが、株式会社NEXTAGEさんが開発するモバイル農業です。

モバイル農業って何?と思われるかと思いますが、NEXTAGEさんが開発する、40フィートコンテナのなかでわさびを栽培する技術です。モバイルって、画期的ですよね。さらに手間のかかるわさびの栽培ですから、尚更です。露地ものの場合、生育には1~2年はかかります。しかも自家中毒を起こしやすいから清流が必要。それを40フィートコンテナの中で、たった10か月程度で栽培、収穫できるというもので、すごいなと思いました。

元々NEXTAGEさんとの出会いは、NEXTAGEさんがアグリテックグランプリで賞を獲得された際に、静岡方面に来られることがあり、そのタイミングで当社のnoteを見ていただいていたということで、ご連絡をいただいたことがきっかけでした。実際に話を聞いてみると、わさびを40フィートコンテナで栽培する際に、私たちの持つ空間や表面を能動的に殺菌する技術が活用できることがわかったんです。この技術はもともと保有していたのですが、なかなか実用化する場面がなく、日の目を見ずにいた技術でした。非常に画期的な技術であり、私たちとしては高付加価値食品にこそ使いたい!と、思っていたので、わさびならぴったりだ!となりました。その後、すぐに「一緒にやってみよう」と話が進み、焼津市の助成制度も活用しながらいよいよ実証実験がスタートし、2023年9月には25本ほどの焼津産のわさびが収穫され、市のイベントで振る舞われました。

コンテナ内におけるわさびの人工栽培の様子

焼津って、水産物は多いけれど、わさびは取れない場所なんです。だからこそ、焼津で獲れた魚に焼津産のわさびって面白いんじゃないかな、と。しかもわさびを作るのって大変だから、担い手不足も深刻なんです。そして、日本には今、わさびの供給に対して、その需要が2倍くらいあって慢性的に不足している「わさびギャップ」がある。今後、モバイルワサビが普及し、わさびギャップを埋めつつ、課題となっている後継者不足解消に役立てば、それは何よりだと思っています。

そして、最終的にはLEDの光量や空気などをAIで管理し、シンガポールやエジプトといった全く気候が異なる土地でも同じようにわさびが生育できるようにしたいと思っています。現時点で、和歌山県や沖縄県での栽培が成功しているので、着実に前進していると感じています。

農業WEEKでの展示の様子(左)とコンテナで栽培した「ヤイヅのわさび」(右)

3.小学生の自由研究から始まった、静岡食材満載の宇宙日本食開発

【石田社長 インタビュー内容】
実は最近、宇宙食の開発にも取組んでいます。といっても、私たちが行っていることは、宇宙食の開発を目指す増田結桜(ゆら)さんの後方支援のみ。事業化に向けたアドバイスや人脈作りのお手伝いをしています。ちなみに、資金援助は持続的な支援にはならないと考えて、敢えて行っていません。

なぜ、宇宙食なのかというと、静岡県焼津市で教育委員会が夏休みの自由研究コンクールを行っているんです。そこで未来の科学者の卵を応援する企画として、小学生の自由研究を応援する賞「石田賞」というものを、50年ほど前に祖父が創設しました。

株式会社イシダテック
創業者
石田 稔氏

しかし、結桜さんは焼津市ではなく静岡市の小学校に通う方。そこからどう私につながったかと言うと、2022年にSBSラジオの方からの「本気で宇宙食を作りたい小学生がいるんだけど、事業化に向けて協力できる人を紹介してほしい」という1本の電話がきっかけでした。石田賞のおかげでこういったお問合せにもつながっています。しかし、当社は機械なら貸すことはできるけれど、レシピ開発の支援はできない。そこで、石田缶詰株式会社さんを紹介しました。石田缶詰さんは社名に「缶詰」がつきますが、現在は主にレトルトパウチを手掛けており、実際に宇宙食の製造も行っている会社です。結桜さんの提案書には「宇宙飛行士を幸せにする宇宙食を作りたい」とあり、石田缶詰さんも「この子は本気だね!」と、すぐに支援を決めてくれました。

現在、静岡県内の大学生6人と社会人4人で結成した「チームゆら」として活動しています。静岡食材であるみかんを使った宇宙食を開発していて、これから資金調達やJAXAによる認証審査など、たくさんの課題を乗り越えていく必要があります。私は、資金調達や事業に関わるアドバイスを適宜する感じで、基本的には見守るスタンスです。
2026年の実現に向けて動いているプロジェクトなので、今後が楽しみです。


チームゆらの活動

食品製造機械メーカーに留まらない活動を続ける「食」に関する問題解決への想い

食品製造機械メーカーであるイシダテック様ですが、その活動は多岐に渡ります。でも、その根底に流れているのは「食に関わる業界全体の課題解決」と「次世代の育成」です。今後の展望についてお聞きしました。

【石田社長 インタビュー内容】
プロジェクトは複数動いていますが、ひとつを取り上げて現状に点数をつけるとするなら、カツオの全数検査をAIで実施するプロジェクトは80点くらいかなと思っています。漁港という歴史があるからこそ独自の世界の中で、課題を明確化して改革をする取組として評価しています。
AIの導入をはじめとする新規事業には当初社内からも反対がありましたが、軌道に乗り始めたら「うち、AIやってるんです!」と社員が誇らしげに話すんですよね。新しい技術を導入するときには、どうしても反発はある。でも全員の賛成を得る必要はないから、あとは着実に物事を進めていけば、評価はついてくるということを実感しました。

今後の目標としては、私たちの事業と新しいアイデアや技術を掛け合わせながらイノベーションを起こしたいという思いがあります。『静岡イノベーションベース(SIB)』という起業家や事業家の集まりがあるのですが、そことコラボレーションして新しいことに取り組んでいきたいです。

あと、実は会社で山を持っていて。そこに高専生と協力してカメラを設置して『山カメラ』のライブ配信をしてみたいと思っています。目的はなんであれ、なんとなく面白そう!みたいな、ワクワク感がありませんか?しかも高専生の技術だけで山カメラが実現できたら、彼らにとってもいい経験になるし、実現したいと思っています。
石田賞を続けているのも、私自身が受賞した経験があり、その時にものすごく嬉しかった記憶があるから。そんなきっかけが、子どもたちの未来を拓くこともあると思うからこそです。こうした次世代育成のためのプロジェクトにも、積極的に取り組んでいきたいと思っています。モチベーションがある未来の科学者や工学者は、応援していきたいですね。