見出し画像

農林漁業の発展を支えるモーターサイクル企業の取組[Vol.1]

創業以来60年以上にわたり、ものづくりやサービスを通じて多様な価値を創造する「感動創造企業」として、日本だけでなく世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供されてきたヤマハ発動機株式会社様。

オートバイ等の輸送用機器にとどまらず、漁船や和船、産業用無人ヘリコプター等、農林漁業が抱える課題解決を目指し、製品の開発・製造を行い、日本の食の未来を支える取組を展開されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの技術力を生かした、日本のみならず世界を股にかけた農業・漁業を支える取組について紹介します。


「感動創造企業」として社会課題の解決を目指す

オートバイの技術を基に、様々な事業を展開されているヤマハ発動機様。今回は、ブランドマーケティング部 和田 一美氏、井筒 剛司氏に、会社の成り立ち、事業の目的、食に関わる農業・漁業の取組についてお聞きしました。

ヤマハ発動機株式会社 ブランドマーケティング部
井筒 剛司氏(左)和田 一美氏(右)

【インタビュー内容】
1897年に日本楽器製造株式会社(現在のヤマハ株式会社)が誕生し、1955年に二輪車部門が分離・独立したのが当社、ヤマハ発動機株式会社になります。第二次世界大戦後、GHQより差し押さえられていた日本楽器製造の工作機械が返還され、設備の新たな利用方法として、楽器事業に続く「新しい仕事」「将来の備え」の検討を重ね、複数の候補から選択したのがオートバイでした。
その後製品群を拡げて、日本初の電動アシスト自転車や自動車エンジン、電動車いす等の製品を世に送り出してきました。また、創業者のマリンレジャーへの強い思いから、船外機(船体の外側に取り付ける取り外し可能な推進用エンジン、主に小型用ボートに用いられる)、モーターボートなど海の乗り物も製造しています。小型エンジン開発を起点とする「パワートレイン技術」、人の感覚を大切にした「電子制御技術」、走行や航走を支える「車体・艇体技術」、そして確かなものづくりの基盤となる「生産技術」をコア技術に、事業や製品の多軸化とグローバル化を進めてきました。現在、当社の売上の約9割は海外での売上であり、世界中に開発拠点、生産拠点を展開しています。

ヤマハ発動機のコア技術と製品

農林漁業に関連する製品としては、マリン事業での漁船・和船、船外機、ロボティクス事業での産業用無人ヘリコプター・ドローン等があります。漁船については、メーカーとして日本初のFRP(繊維強化プラスチック)漁船を製造、販売してきました。高い技術力を生かし、スピードや安全性等、高品質の製品を提供しています。また、産業用無人ヘリコプター・ドローンは農業分野で活躍しており、農業従事者の負担軽減など、次世代の農業に向けた課題解決に貢献しています。

農林漁業関連の製品
(左:FRPを使用した漁船、右:産業用無人ヘリコプター)

当社は「感動創造企業」を企業目的としており、長期ビジョンとして『ART for Human Possibilities 人はもっと幸せになれる』を掲げています。具体的には、ロボティクスを活用し、社会課題にヤマハらしく取組み、モビリティに変革をもたらすことで人々の可能性を拡げ、より良い生活と社会の実現を目指しています。そのため、事業を通じた社会課題への取組も当社の重要なテーマです。例えば、グリーンスローモビリティ(時速20km未満で公道を走ることができる電動カートをベースとした移動サービス)による地域の交通課題の解決や、インドネシアやアフリカでの小型浄水装置供給による水問題の解決等に取組んでいます。
農林漁業の領域においても、担い手不足が進行する中、作業の効率化や後継者問題等への対応が求められています。これらに対しても、当社の持つモビリティやロボティクスの技術を生かし積極的に生産現場とコミュニケーションを取りながら日々取組んでいます。

事業を通じた社会課題への取組
(左:グリーンスローモビリティによるサービス、右:海外での小型浄水装置の供給)

グローバルな課題意識と技術力による農林漁業領域での取組

農林漁業領域におけるヤマハ発動機様の具体的な取組についてお聞きしました。

1.無人航空機を活用した農作業の効率化

【インタビュー内容】
農業分野において、水稲への農薬散布を行う産業用無人ヘリコプター(エンジンのヘリコプター)・産業用ドローン(電動のマルチローター)を提供しています。農薬散布は、従来人の手で行っており、時間も手間も掛かる大変な作業でした。しかし、無人ヘリを活用することにより、生産者の負担が軽減され、作業効率の改善につながっています。

特に、当社の産業用無人ヘリコプターの特徴として、一回に散布できる農薬量が多く、より効率的に散布できるという点があります。さらに、無人ヘリによる事故が起こらないよう、ただ製品を販売するだけでなく、導入時における講習、機体操作のトレーニング、メンテナンスサービス、運転者へのサポート等、安全に使用していただくための活動にも力を入れています。このような取組もあり、日本における水稲の農薬散布で用いられるエンジンタイプの無人ヘリのうち、当社製品は3分の2のシェアを占めています。

産業用無人ヘリコプター・産業用ドローンを活用した農薬散布

他にも、効率化によって農業のイメージを変革させたいという想いで、直接水田に種もみを撒く「水田直播」を当社のドローンを使ってトライされている生産者の方もいらっしゃいます。
このように、次の世代に農業を引き継いでいくためには、最新技術の応用に努力を重ねていくことが重要だと感じています。

2. 魅力的な漁船開発による後継者問題へのアプローチ

【インタビュー内容】
漁業においても、担い手不足は深刻です。漁船を製造するメーカーとして、若い世代の人が漁師になりたいと思う一助になるよう、魅力的な漁船の開発・製造に取組んでいます。
地域や魚種によって漁船に求める要望は様々です。これらの要望を満たし、安全かつ効率的な作業ができる漁船を提供するためには、単に機能的な漁船を造り上げる技術力の向上を目指すだけなく、地域に密着し、漁師の方々と信頼関係を築くことにより実現されます。当社の強みである製・販・技が一体となり、人間性と技術力を兼ね備えた製品を提供することで、今後の日本の漁業の魅力を広く伝えていきたいと考えています。

時代の変化に合わせて製造している漁船

3. 長年続けてきた食に関するSDGsへの取組

【インタビュー内容】
食に関するSDGsの取組も当社が力を入れている領域です。きれいな水を手に入れることに課題を抱えるインドネシアやアフリカの人々に供給している
小型浄水装置はその一環と考えており、食のみでなく生活全般に好影響を与えられていると感じています。また、チリやメキシコでは、地域の漁業組合と協力して、海産物を捕るだけでなく養殖も含めたサポートを実施しており、乱獲を抑えつつ地域の継続性に貢献する取組も行っております。さらに、漁船の提供や漁業に関わる教育を施すことで、途上国の生活水準の向上に寄与しています。

途上国での漁業支援

「感動創造企業」としての更なる展開を目指して

ヤマハ発動機様の高い技術力を背景とし、グローバルな課題意識に根差した今後の取組について、その展望をお聞きしました。

産業用無人ヘリコプターによる森林計測

【インタビュー内容】
少子高齢化が進む人材不足の中、当社モビリティの技術を活用することで、より広い農業分野での労働負荷の軽減や生産性向上に寄与していきたいと考えています。
また、日本は森林の多い国であり、林業における森林計測は大変な作業の一つです。当社の無人ヘリにカメラを搭載した計測を行うことで、計測作業をより正確にかつ省力化することが可能になります。このように、新たな挑戦として林業における取組も行っています。

当社の企業目的は「感動創造企業」であり、当社の製品やサービスを通じて、お客様に新たな感動と豊かな生活を提供するのが当社のミッションです。皆さまが抱えている社会課題を当社の持つコア技術やサービスを通じて解決することで、皆さまの期待を超える価値の提供をし続けたいと考えています。農業や漁業の領域についても、これまで以上に今まで培ってきたアウトドアのモビリティやロボティクス技術を組み合わせ、新たな取組を考えていければと思っています。