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「お米の可能性は無限大」お米離れ解決に向けた老舗米菓メーカーの挑戦

1962年に創業し、当時から長く愛されている米菓を中心とした商品を多数展開されている三幸製菓株式会社様。

米菓メーカーとして、食を通じて「幸せのシーンを一人でも多くの人へ」届けながら日本の産業活性化への貢献を目指し、日本人のお米離れが年々進行している社会課題に着目。課題の解決に向けた取組として、若い世代を新規ターゲットとしたプロジェクトが始動しています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーのお米離れ解決に向けた取組について紹介します。


「米菓一筋」「良品廉価」を大切にしてきた米菓メーカーが踏み出した新たな一歩

米菓を中心に多くのお菓子を生み出してきた三幸製菓様。これまでとは違ったアプローチで、日本の社会課題の解決を目指すチャレンジについて、マーケティング部 ブランドマネジメント1課 北原 祐樹氏、経営企画統括部 BLITZ SCALING Lab.課 武井 脩治氏にお聞きしました。

三幸製菓株式会社
マーケティング部 ブランドマネジメント1課 北原 祐樹氏(左)
経営企画統括部 BLITZ SCALING Lab.課 武井 脩治氏(右)

【インタビュー内容】
(北原氏)
私たち三幸製菓は1962年に創業した、お煎餅、おかきなどの米菓を主体とした企業です。本社は新潟県にあり、現在は県内にある2つの工場で製造を行っています。1974年に、現在でも多くの方に親しまれている、『越後樽焼』と『ぱりんこ』を発売、1977年には現在弊社の商品の中でも一番の売り上げを誇る代表的なブランド『雪の宿』が誕生しました。その後、2011年にはスナック菓子やかりんとう、2014年には半生菓子(まんじゅう)を発売するなど、既存の米菓の枠にとらわれない新しいチャレンジを続けてきました。米菓メーカーとしては比較的若い企業ですが、そういった米菓以外の様々なジャンルにも挑戦を続けてきた結果、今日まで皆様に親しんでいただけるような商品をお届けできているのではないかと感じています。

こうした挑戦し続ける姿勢というのは、創業以来弊社の企業理念として掲げている、「お客様に幸せ」「お取引先様に幸せ」「会社と社員の幸せ」という三つの幸せを実現する会社でありたいという強い想いがあるからです。また、弊社はこれまで「良品廉価」をキーワードに、より良いものを、お客様がお買い求めやすい価格で、という経営ミッションを掲げてきました。現在は、この「良品廉価」をさらに次のステップ「優品適価」に進化させ、「Make Wow Moments. つくろう、ワォ!と楽しくなる瞬間。」を合言葉に全社一丸となって取組を進めているところです。美味しさはもちろんのこと、健康・環境・社会などに配慮した商品の創出をしっかり実践することで、食を通じて、多くの方の幸せに貢献していくことを目指しています。

発売当初の米菓商品や米菓以外の商品
(左から、『越後樽焼』、『雪の宿』、『ぱりんこ』、『チーズアーモンド』、『かりんと包み』)

(武井氏)
米菓は、比較的ご高齢の方に親しんでいただいているカテゴリーであり、主要購買層である50代以上の方々から支持をいただいています。一方で、お米離れが進んでいるといわれている現状において、特に若い世代の人たちに対してお米を原料とした米菓は訴求しづらい側面もあり、うまくアプローチができていないと感じていました。これは、弊社のみならず、あらゆる米菓メーカーさんが同様に感じている課題ではないかと思います。
若者のお米離れは、世の中的にもずっと言われてきましたが、お米を扱うメーカーとして、このままでは誰も米菓を食べなくなる未来が来る可能性もあるのではないか、という危機感もあいまって、お米の価値をもっと広げて魅力を伝えたいという想いが強くなっていきました。そこで、弊社の最大の強みのひとつであるお米に対するノウハウや技術を活かしながら、お煎餅、おかきの枠に捉われずに若い世代の人たちに対して違ったアプローチでお米の魅力を伝えていける方法がないか模索していました。
その中で、お米への想いに加え、お米の力を使って社会課題の解決に貢献したいという想いも込め、『RE:RICE』というスローガンのもと、商品開発に着手いたしました。「お米の価値再発見」をテーマにしながら、米菓で直接的にアプローチをするというよりは、新しいチャレンジをしながらお米の良さを若い世代にも伝えていきたい、と考えています。

既存の米菓だけにとらわれない、新たなジャンルへの挑戦から社会課題の解決を目指して

『RE:RICE』というスローガンのもと取組んでいる具体的な活動内容についてお話をお聞きしました。

1.正統派米菓メーカーが社内外に新しい風を起こした「コラボ企画」

【インタビュー内容】
(北原氏)
先ほど、米菓のメイン購買層はご高齢の方であるというお話をしましたが、そもそも若い世代はスーパーマーケットなどにある米菓売場には、あまり足を運ばないという課題がありました。そこで、三幸製菓が展開する既存ブランドの価値を再活用することで、売り場に足を運ばない層にも商品の存在を知ってもらうことからはじめよう、と考えライセンス事業を中心とした「リブランディング」という取組をスタートさせました。商品自体もリブランディングという形で若年層にも手に取ってもらえるような工夫を進めつつ、商品以外からのアプローチもしっかり取組むために、他社とのコラボ企画を積極的に実施しています。まずは米菓カテゴリー以外のところでブランドを露出し、若い人の目に留まるようになりたい。そして、若い人との接点が増えることで、最終的には米菓コーナーにも足を運ぶようになってほしい、という狙いがありました。

具体的な取組としては、例えば若い世代に人気のあるマリオンクレープさんとのコラボです。弊社の主力商品である『雪の宿』をモチーフにしたクレープを開発し、発売しました。「とろける雪の宿をまるまる1枚使用!」というインパクトのある見た目と、『雪の宿』の特徴でもある甘じょっぱさを再現するために、全体的に塩をまぶすなど、味にもこだわりました。また、マリオンクレープさんに用意していただいた『雪の宿』のロゴをプリントしたミニ最中もトッピングされていて、よりコラボ感が演出できたと思います。
このクレープはマリオンクレープさんの直営店のみで限定で販売していただき、「こんなコラボをしているんですね!応援しています」とお客様からお葉書をいただいたり、他の企業さんからも「三幸製菓さんってこんなこともやってるんですね」と驚かれたりするなど、多くの嬉しい反響がありました。実は、これまで米菓以外の商品でアプローチをすることに抵抗感があり、とにかく米菓をしっかり展開して、認められていこうというのが基本姿勢として考えていたので、他社さんからコラボのお声がけをいただいてもお断りしてきたんです。それが、マリオンクレープさんとのコラボのおかげで良品廉価、米菓一筋で展開してきた三幸製菓が、今はこんなコラボ企画をやるような企業なんだ!と周囲からの認識が変わったのを感じました。
さらに、社内でも最初はこういった取組に賛否両論があったのですが、社員から「買いに行ったけど、ここの店舗にはおいてなかったよ」という連絡があるなど、社内からもこんなに注目してもらえる取組なんだ!という驚きがありました。週末にわざわざ買いに行ってくれたんだというのは、とても嬉しかったですね。

マリオンクレープとのコラボ商品『雪の宿キャラメルクレープ』
(現在は販売しておりません)

他にも、若年層をはじめとした新規顧客への接点作りとしてカプセルトイ市場に「雪の宿」のミニチュアチャームを展開しています。米菓売り場以外に商品を知ってもらえる場所はどこだろう?と考え、一緒に取組みながら商品を作らせていただいたんです。当初、どれだけ需要があるかわからずあまり数を作らなかったのですが、社員から「カプセルトイを回しに行ったら、もう売り切れだった」との問い合わせや、自分たちも欲しいから工場に置いてほしいというリクエストがあり、こちらも社内では非常に盛り上がりました。SNSでも取り上げられ、反響は想像以上でした。これまで、積極的にグッズ制作は行っていなかったのですが、こういった反応をきっかけに今後もグッズ展開など検討したいと考えています。

もともとは、若い世代への新しいアプローチ方法として始めた企画でしたが、それ以外にも社内外含め三幸製菓という会社について、新しい印象を持っていただけるなど、色々な可能性が広がったきっかけになったと感じています。

『雪の宿』カプセルトイ

2.若者の米離れを何とかしたい!米の価値再発見で日本の産業を活性化

【インタビュー内容】
(武井氏)
新しい視点からお米の価値を再発見してほしいという想いから、「リディスカバー」という、お米を原料としながらも、従来の米菓ではないお菓子の商品開発にも取組んでいます。新しいジャンルのお菓子を作ろうと検討を始めたきっかけは、やはり売り場の問題でした。米菓の若返りをはかろうと新商品を考えても、若い世代が好む味付けやパッケージを展開したとしても、結局並ぶ場所がスーパーの米菓コーナーなんです。となると、そもそも若い世代はスーパーの米菓コーナーにはあまり行かないという現状があり、もしかしたら売れるかもしれないポテンシャルのある新商品ができたとしても、結局若者に見つけてもらえずに、その実力を発揮できないまま終売に追い込まれてしまう、なんてこともありました。
この課題に関しては、お煎餅やおかきなどの米菓から若い世代に訴求していくこと自体が難しいと考えるようになりました。そこで、まずは若い世代の目に触れる機会を増やしていかなければならないと思い、若い世代が積極的に購買するようなカテゴリーでの商品開発に挑戦してみることにしたのです。そして、若い人たちに人気があるスナック菓子などをただ作るのではなく、弊社がこれまでに培ったお米に関するノウハウとその技術を活かした全く新しいお米由来のお菓子を創出できれば、これまでの米菓とは違った価値を訴求できるのではないか、と考えたのです。
そこから、米菓コーナー以外のジャンルで、お米の技術と素材を生かせるお菓子の開発にとりかかり、食感にこだわったお米のスナックは若年層にウケるのではないか、というアイデアからクラフトチップスの『ザクザ』が誕生しました。

クラフトチップス『ザクザ』

シンプルに素材を切って揚げるスナックとは違い、お米の場合は生地の水分が1パーセント違うだけで、仕上がりがまるっきり変わってしまうんです。何回も何回もテストを繰り返して、“スナックらしさ”を追求するのに苦労しました。ほんのちょっとの水分量の違いで急に米菓っぽくなってしまうので、スナックらしい食感のバランスを見つけるまでには、かなり時間を費やしました。これまで米菓を作ってきたメンバーが開発をするので、米菓の知見を存分に活かしながら、米菓のいいところとスナックのいいところをうまく両取りできるように、揚げるときの温度、生地の練りこみ方や、生地の水分の残し方などを緻密に調整してもらった結果、誕生できた商品だと思っています。現在『ザクザ』は、若い世代の購入率が高いポテトチップスなどのスナックコーナーで陳列されています。商品パッケージにも工夫しており、表にはニッポンフードシフトのロゴマークを使用しています。若い世代では、環境意識や社会貢献に対する意識が高くなっていることもあり、目につきやすいところにニッポンフードシフトのロゴマークがあることで「何かの役に立っている」とわかることは、プラスに作用していると感じています。

米粉を使用したグミ『mochicure(もちきゅあ)』

その他にも、スナック菓子以外にも若い世代が来る売り場としてグミは外せないだろう、と開発を始めたのが米粉を使った新食感グミ『mochicure(もちきゅあ)』という商品です。
そもそもグミに着目したきっかけは、意外に思われるかもしれませんが、米菓との親和性があったからなんです。米菓を作る際には、お米を蒸かす「蒸米」という工程があるのですが、その技術をうまく応用することでグミと似ている食感を出すことができるということに気づき、生餅メーカーさんと共同開発で作り上げました。また、一部の女性からは「グミは食べても食べてもお腹が空く、お腹にたまらない」という話を聞き、米菓の強みというか、お米の強みであるお腹に溜まる商品になるのではないか、というところに可能性を感じ、商品化に踏み切りました。

こういったお米を原料とした新ジャンルの商品開発については、やはりチャレンジングな面もありましたから、社内からは賛否両論ありました。何より、営業担当においては、これまでは米菓コーナーしか経験がないこともあり、スナックやグミの売り場に対する知見がない中でのチャレンジは不安な気持ちがあったと思います。実際に、商談前にはプロジェクトの担当者が営業担当に勉強会を行ったり、一緒に商談に同伴したりしました。これからも「こんな商品がお米でできたら面白いんじゃない?」というアイデアをベースに、様々なカテゴリーのお菓子にアプローチをしていきたいと思っています。

「三幸製菓ってお煎餅屋さんだったの?」といわれる総合菓子メーカーを目指して

『RE:RICE』をスローガンとした取組における今後の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
(武井氏)
現在、たくさんの方々から三幸製菓がスナック菓子やグミを売り出していることに驚きの声をいただいています。そういった流れをさらに加速させるために、まずは、『ザクザ』と『mochicure(もちきゅあ)』をもっと若い世代に定着させていきたいと考えています。お菓子というものは、新商品を発売しても半年、一年で消えていくのを繰り返す厳しいマーケットなので、お客様にしっかり認めてもらえる存在になりたいですね。
さらに、その先としては、現在発売しているお菓子以外にもあらゆる可能性を視野に入れてプロジェクトを広げていきたいと考えています。特に、昨今は働くお母さんが増えたことで、朝食を食べる時間がとれずにお菓子で済ませるシーンも増えているという話も聞くので、米菓メーカーの武器としてお米の腹持ちのよさを活かした、食事代替のアプローチもできるのではないか、と今後の可能性を感じています。
そして、いつかは米菓メーカーではなく、総合菓子メーカーになりたいという野望があり、10年、20年後に「三幸製菓ってお煎餅屋さんだったんだ!」と言ってもらえるような、総合菓子メーカーとして多種多様なジャンルを展開していけたらと思っています。

この取組を通して、会社全体が新しいことに前向きにチャレンジしていくことは、とても良い流れだと思っています。こんな商品があったら面白いのではないか?などのユニークなアイデアを実際に商品展開まで実現できる環境があるということは、とても幸せですね。2024年から本格的に始動した、まだまだ始まったばかりの取組ですが、これからもたくさんの可能性に目を向けながら、社会課題の解決に寄与できるようなものに成長させていきたいです。そして、こうした取組が、会社にとっての希望になれたらいいなと思っています。

三幸製菓 本社新社屋「パレット」