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『ご当地!絶品うまいもん甲子園』で高校生の創作メニューから地元食材の魅力を発信

「若者たちに農業に興味を持ってほしい」との想いから設立された、一般社団法人全国食の甲子園協会様。その取組の一つとして、食や農に対して熱い想いを持つ高校生の料理コンテスト『ご当地!絶品うまいもん甲子園』を主宰されています。

『ご当地!絶品うまいもん甲子園』は、今年(2023年)で12回目の開催となりますが、元々ある企画で高校生たちとともに地元食材を使った商品開発をした経験から「高校生の地元への愛情を、なんとか形にしてあげたい」と活動を続け、その輪が大きく広がり続けています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの食と農業の活性化を目指す活動について紹介します。


若者が「食」と「農業」について考えるきっかけを作りたい

食と農業は、私たちの生活と切り離せないテーマです。とはいえ、食料自給率が40%を切ったと言われても、自分ごととして捉え、危機意識を抱くのは難しいことではないでしょうか。これを大きな課題と考えて発足されたのが、全国食の甲子園協会様です。今回は、代表の藤田 志穂様に、その解決策の1つとしての取組である『ご当地!絶品うまいもん甲子園』についてお聞きしました。

一般社団法人全国食の甲子園協会
代表
藤田 志穂氏

【藤田氏 インタビュー内容】
19歳でマーケティング会社を設立した私は、若者に食や農業に興味を持ってもらいたいと『ノギャルプロジェクト』という活動を行っていました。ギャルを連れて農業体験や収穫体験に行ったり、農作業着をプロデュースしたりと、今までとは違った切り口から農業に触れてもらうことで、興味を持ってもらおうとスタートした取組です。結果として、若者に新しい形でアプローチすることで、興味を持たれてこなかった農業や食に対して、話題作りにはなったかなと思っています。しかし、その反面、1次産業に携わる方々の応援や農業支援に直結しているかと考えると「なかなか実現できていない」というのが実感でした。

そんなときに、農業高校の生徒さんたちと地元の野菜を使った商品開発をする機会がありました。私は高校生たちに「こういう方法もあるのでは」と、地元の人たちでは気づけないような提案をする、アドバイザー的なポジションで関わらせていただきました。そのときは地元のトマトを使ったハヤシライスを作ったのですが、最終的にはドライカレーならぬドライハヤシにしてみたり、ハンバーグソースにも使えるようにレトルトパックにしたりと、当初の企画以上の商品を作ることができました。

商品開発を進めるなかで、最初は挨拶も小さく会釈するのが精いっぱいだったくらいのシャイな高校生が、何度か会って意見交換をするようになり、地元への愛情や、地元食材をもっと知ってほしい、実家の農業を助けたい、といった熱い気持ちに溢れていることに気づいたんです。この思いをもっと発信していくことができたら、商品だけでなく、その商品にまつわるストーリーにも注目が集まって、地域振興につながるのではないか、と感じました。

ノギャルプロジェクトでの活動の様子(左)と農業高校生と開発した「ドライハヤシ」(右)

私自身、父方の実家は新潟の米農家でした。毎年、秋になると新米が送られてきて、それを当たり前のように食べていましたが、祖父が亡くなってから送られてこなくなったんです。そういえば、祖父の家の前にあった田んぼはどうなっているのか親戚に聞いてみたら「後継者がいないから、人に貸している」との回答が。衝撃でした。母方の祖父も北海道の焼尻島の漁師でしたが、そちらも後継者がおらず、今はもう島に親戚もいません。

私がマーケティング会社を立ち上げた当時、エコや環境問題を取り扱うことが今ほど一般的ではなかったのですが、いろいろな企業の人に「これからは若者にエコや環境の大切さを伝えるべきだ」と言われたんです。でも、自分ごととして捉えきれていないというのが正直な気持ちでした。それでも、経験豊かな先輩方に言われ続けているうちに「自分のような若者が発信することが大切なのかもしれない」とビーチクリーンやエコイベントを企画していました。その際に、エコや環境と同じくらい、食に関する問題も存在していることに気づきました。そこからは、自分のごく身近なところで既に起きている食の問題を、なんとかしなくては!と必然的に食の問題と向き合うようになっていきました。身近な問題として食や農業の課題を肌で感じるきっかけがあれば、若者も当事者意識を持つようになるかもしれない。であれば、きっかけ作りをしよう!と思ったんです。

若者って、頭ごなしに「農業やりなさい」「食べ物の大切さを考えなさい」と言われると、反発してしまうんです。だからこそ、元ギャルだった私が、あくまで今の若者に対して食や農業に興味を持つ入り口を作ることが、大切だと思っています。

ノギャルプロジェクトを始めた頃(左)とエコイベントの様子(右)

食への関心は高い!盛り上がる『ご当地!絶品うまいもん甲子園』

高校生の夢を応援する食企画『ご当地!絶品うまいもん甲子園』について、全国の食と農業そのコンセプトお聞きしました。

1.全国から夢を持つ高校生が集結!『ご当地!絶品うまいもん甲子園』

【藤田氏 インタビュー内容】
こうした経緯で私たちが企画したのが『ご当地!絶品全国うまいもん甲子園』でした。全国の高校生を対象とした、食の甲子園です。高校生ならではのアイデアメニューを競うコンテストで、選考プロセスは一次審査の書類選考を経て、二次審査に進んだ場合は実際に調理し、プレゼンテーションを行います。二次選考を通過したチームは決勝大会に出場し、日本一を決めるという大会です。

2023年度は、書類選考に79校304チームの応募がありました。私たちが対象を高校生としたのは、「若者にもっと身近に農業や水産業を感じて欲しい」という思いを実現したかったからです。第1回は農業高校のみが参加できる大会でしたが、第2回は水産、第3回は商業高校と少しずつ応募資格を拡大。現在は、すべての高校が対象となっています。

今でこそ規模も拡大し、たくさんの企業に協賛していただいていますが、立ち上げた当初は知名度もなく、実績もないゼロからのスタートのため、本当に大変でした。農林水産省の助成金に応募したり、なんとか資金を集め、軌道に乗っていったという感じです。

大会内容は、当時注目されていたB級グルメと同じようなものを考えていました。高校生がメニューを考案して、合格したチームがキッチンカーで実際に調理して販売する、といったものです。でも、企画を進める段階で農林水産省の方に「プレゼンテーションも審査に入れたほうがいい」とアドバイスをいただき、そこからうまいもん甲子園ならではのオリジナリティが生まれたと感じています。実際に開催してみると、高校生がプレゼンテーションに取組むという経験は、これから社会で活躍する高校生にとって貴重な学びの場にもなりました。

「ご当地!絶品全国うまいもん甲子園」第1回大会

今年で12回目を迎えるうまいもん甲子園ですが、やはり経験を積んだ高校2年生、3年生チームが優勝する傾向にあります。でも、そんななか1年生だけのチームが過去に1回だけ、決勝大会に進出したことがありました。狭き門となっている本大会で、1年生だけのチームで決勝まで残るというのは、すごいことです。今もそのチームのメンバーとはSNSでつながっているのですが、海外支援やサミットに参加したりと、世界を舞台に活躍しています。そんな姿を見ることができるのは、とても嬉しいですね。

うまいもん甲子園を通して、高校生はたくさんの企業と交流を持つ機会を得ます。こうした経験を通して、世の中にはどんな企業があって、どんな仕事があり、どういった働き方があるかを知ってほしいです。学校以外の世界と交流を持つことで「世の中の仕組みって、こうなってるんだ」と知る機会があれば、高校を卒業するときに選択肢がきっと増えるはず。そんな思いも、うまいもん甲子園には込められています。

うまいもん甲子園卒業生は、高校卒業後も連絡をくれる子もいたり、決勝大会を見に来てくれたり、進路に迷ったときに連絡をくれたりする子もいます。「地元のためになにか役に立ちたい。でも、自分に何ができるかわからないから、アドバイスをください」と相談されると、私たちの取組が、高校生たちの人生、将来に少しでも影響を与えられているのかもしれない、と感じます。これからも高校生の人生において、きっかけになるようなイベントであり続けたいですね。


これまでの大会に参加した歴代高校生の皆さん

2. たくさんの企業から協賛を得て実現する『特別企画』

【藤田氏 インタビュー内容】
うまいもん甲子園には、特別企画というものがあります。これは、官民連携で全国の高校生を応援する企画です。うまいもん甲子園は料理のコンテストがスタートですが、そこから「学ぶ」「形にする」「発信する」「支援する」といった経験を高校生に提供する活動に取組んでいます。

例えば、決勝大会まで勝ち進んだチームには、キリンビバレッジ株式会社様の協賛で学校にプロの料理人を派遣する企画があります。この企画ではプロの料理人と一緒に、決勝に向けて料理をブラッシュアップしていきます。他にも、全国でスーパーを展開している株式会社シジシージャパン様のスーパーで、高校生のアイデアを実際に商品化し、店頭に置いていただく企画も人気です。自分たちの商品がスーパーに並ぶというのは、お客様の反応をダイレクトに感じることもできますし、大きなモチベーションになっています。

プロの料理人を派遣する「キリンチャレンジキッチン」企画(左)と
高校生のアイデア「博多うろん グラタン」の商品化(右)

優勝、準優勝したチームには、海外研修や国内研修企画も実施しています。以前はハワイに研修旅行に行って、自分たちのメニューをハワイの人に試食してもらったり、ハワイのラジオに出演してメニューをPRしたりする取組も行っていました。日本を離れて、海外の人たちに自分たちの商品がどう評価されるかというのは、高校生にとっても新鮮で、興味深い経験となったようです。ここ数年は見合わせていましたが、今年はグアム研修を企画中です。準優勝のチームは国内の研修旅行でJA様の工場に行ったり、農家に民泊して交流を深めながら、農業体験をして自分たちが食べているものがどのように作られているかを学んだりしています。研修後はお礼の手紙を渡すのですが、とても温かな経験として高校生たちの心に残っているようです。「勉強になった」「また遊びに行きたい!」という声も多いですね。

国内研修旅行の様子

このように、今でこそ多くの企業にご協力いただけるようになりましたが、先ほどもお話した通り最初から協賛いただける企業がたくさんあったわけではありません。でも、一度参加してくださった企業が「面白い企画だよ」と周囲の方に話をしてくれて、それがきっかけでご協力いただくケースもたくさんあります。驚くことに、食品メーカー以外の企業にも多く協賛いただいているのですが、どの企業にも共通するのは「高校生が輝ける場所を作ってあげたい」という思いです。だからこそ、このような活動に賛同してくださっているのだと感じています。

副賞の提供や大会での審査員等における協賛企業との連携

『ご当地!絶品うまいもん甲子園』のこれから

『ご当地!絶品うまいもん甲子園』の今後の展望について、お聞きしました。

【藤田氏 インタビュー内容】
今の高校生は、私たちが思っている以上にやる気や根性がある子が多いです。そういった高校生たちに、うまいもん甲子園をきっかけに世界を広げてほしいというのが一番の願いです。振り返ってみると、自分も高校生のときは本当に小さな世界にいたと思うんです。当時から世の中の仕組みや、社会が抱えている問題などを知っていれば、高校を卒業後の選択肢も増えたはず。なので、うまいもん甲子園が社会との接点になり、高校生たちの未来を広げてくれたら、と思っています。

大会自体としては、今後は47都道府県全てで予選会を行い、最終的に日本一を決める決勝大会を開催するような、野球の甲子園に負けないくらいの規模にしていきたいですね。夏は野球、秋は食の大会として、100年続くような大会にしたいと思っています。

都道府県で予選会を開催したい理由として、現状うまいもん甲子園の倍率が高くて狭き門になりすぎているという課題を解決したい思いもあります。頑張ってきた高校生たちに、披露できる場を提供してあげたい。間口が広がれば「高校時代の思い出作りに、ちょっと出てみようか?」という高校生も増えて、うまいもん甲子園ももっと広く知られるようになると思っています。結果として、それが食や農業の問題を知るきっかけになりますよね。1次産業が元気になるためには、大人がどんなに盛り上げようとしても、限界がある。でも、未来ある高校生が懸命にチャレンジするとなると、社会全体が元気になるような取組になる。周囲の大人たちも、サポートをしながら食や農業の問題に目を向けるきっかけにもなるのではと思っています。

うまいもん甲子園は、ただ料理上手なだけでも、プレゼン上手でも、アイデアが優れていても、勝てません。バランスよく、全体を見渡すことができて、かつ高校生だからこそ生まれてくる自由な発想が求められます。参加者のレベルはとても高いので、勝ち進めなくても、出場するだけで刺激を受けたり、学ぶことはたくさんあると思うんです。

こんな話をすると「ハードルを上げすぎでは?」と感じられるかもしれませんが、まずは一歩踏み出してみてほしいですね。高校生活だけでは味わえない、うまいもん甲子園ならではの青春を味わえると思います。2023年の決勝大会は、11月26日を予定しています。今年はどんなアイデアが飛び出すか、私も楽しみです!

2023年度の決勝大会に進まれる高校生と協賛企業の皆さん


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