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食品ロス削減を目指し、農産物の販路拡大に取組む自治体の挑戦

宇土市は、熊本県の中央部に位置し、海・山の自然に囲まれた地形から多くの農水産物が生産されています。中でも農産物については、天皇献上品であった「網田(おうだ)ネーブル」を中心に柑橘類の生産が盛んに行われています。

そのような中、基幹産業である第1次産業を支援し、農水産物の販路拡大やPR活動、加工品の新商品開発などを目的に、2013年より「ウトブランド」と銘打ち、特産品のブランディングに取組まれています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーである熊本県宇土市・農林水産課の取組として、SDGs目線での特産品の食品ロス削減・ブランド化に向けた活動についてご紹介します。


海・山などの魅力的な多くの自然を持つ宇土市

地の利を生かして、多くの農水産物を生産されている宇土市様。農水産業における様々な課題に取組ながら、SDGsに対しても高い意識を持っておられます。今回は、農林水産課 前野参事、木村主事、地域活性化起業人:山隈氏に宇土市の特徴、食や農に関する取組についてお伺いしました。

熊本県宇土市・農林水産課の皆様

【インタビュー内容】
宇土市は、熊本県中央部に位置しており、海・山といった自然の魅力を多く
持つ市です。海・山の地形を活かし、様々な農水産物の生産をしていますが、天皇献上品であった「網田ネーブル」を中心として、柑橘類の生産を特徴としています。

その他、宇土市のみどころとして「日本一小さな鳥居」や熊本県内で今もなお駅として使用されている「最も古い木造駅舎の網田駅」があります。また、近年は人気漫画『ONE PIECE』のキャラクターであるジンベエの像も設置されるなど、様々な魅力を持つ街です。穏やかな海の眺望にプラスしてゆったりと時間が流れる観光地にあふれていて、「どこかで訪れたことがあるような・・」と感じさせてくれる、アットホームな雰囲気があります。

市の基幹産業は1次産業です。現在、生産者・事業者の所得向上、そしてSDGsの一環として農産物のB級品における食品ロス削減に向けた取組をしています。具体的には、農水産物の販路拡大やPR活動、そして「ウトブランド」という宇土市の特産品ブランドを作り、取組んでいます。

宇土市内の風景

特産品である農水産物を最大限に生かす取組

食品ロスの削減や特産品のブランド化について、具体的な取組をお聞きしました。

1.特産品から生まれる食品ロスの削減

【インタビュー内容】
農水産物の振興及び生産者の所得向上に寄与すべく、本市で生産された農産物のうち、なかなか市場に出回らないB級品をSDGsの視点で活用し、新たな特産品を開発しPRを行っています。少し型崩れしたB級商品をそのまま販売するのではなく、加工を行い6次化して販売しています。

他の自治体も同様な取組を行っている中で、際立つ商品開発や知名度の向上には非常に苦労しています。これまで、雑誌でのグランプリやグッドデザイン賞の受賞など、各種アワードへの参加や地道なPR活動を行い、徐々に認知を拡げているところです。県内の地産地消関連のフェアへ参加したり、県外でのPR・販売、協定のある自治体との食材交流の一環として、期間限定での出張販売なども実施しています。

B級品は生産量が安定しないため、利益を構築するスキームづくりが大きな課題となっています。消費者のニーズを満たしつつコストを抑える工夫も検討したり、加工以外の活用方法も検討しながら、より良いモデルを探っているところです。

「ウトブランド」で支援している特産物・加工品
(左:宇土市の特産品を使ったカルパッチョ、右:網田ネーブル)

2. 特産品の知名度向上を目指す「ウトブランド」

【インタビュー内容】
本市の魅力ある特産物を掘り起こし、PRするために「ウトブランド」をつくりました。この「ウトブランド」にはSDGsの観点も取り入れており、なかなか市場に出回らないB級品を活用した商品もあり、新たな特産品として開発、PRを行っています。

「ウトブランド」の商品の一例としては、「ネーブル(デコマリン)ネクター」や「トマトと馬肉たっぷりハヤシ」といった商品があります。
「ネーブル(デコマリン)ネクター」は、農家さんの数が減少するに伴って国産のネーブル自体が希少となっている中、天皇献上品であった「網田ネーブル」に目を向け、ネクターを作成しています。
また、「トマトと馬肉たっぷりハヤシ」は、本市で育てられた、とっておきのトマトと熊本県の特産品である馬肉の組み合わせでハヤシライスソースを作っています。

「ウトブランド」の商品
(左:ネーブル(デコマリン)ネクター、中央:トマトと馬肉たっぷりハヤシ、右:アイス)

私たちは、普段当たり前のように見て触れているため、市の特徴的な農水産物について意識する機会が少なかったのですが、この取組を通じて“宇土にも素晴らしい特産物があるんだ”ということが、市全体への周知にもつながっています。

以前は、商品開発から携わり、ウトブランドとして販売するまでを伴走してきましたが、現在は販売向上に寄与するブランド力を上げることに注力しています。また、これまでは農産物中心でしたが、今後は水産物にも目を向け取組を広げていきたいと考えています。

今後のウトブランドの認知度向上に向けた展開

今後の「ウトブランド」の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
「ウトブランド」の認知を高めるために、県外の方を対象に産地ツアーを企画したり、外部の有識者の方に特産品に触れていただく機会を作っていきたいです。そうすることで、生産者自身が販売先の拡大に向けてアンテナを張れるようになり、多くの方に「ウトブランド」を知っていただくきっかけになると考えています。コロナ禍では産地ツアーなどの企画が難しかったですが、今後は生産者の方々とコミュニケーションを取りながら、可能な限り多くの機会を提供できるように企画していきたいです。
熊本県には、台湾など、海外からの移住者が今後増加することが見込まれるため、海外の方もターゲットに見据えています。そして、国内に限らず、輸出も視野に入れた販路拡大などにも市内の生産者・事業者が取組みやすい環境づくりを今後はサポートしていきます。