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“牛乳”と真剣に向き合う老舗メーカーが目指す、持続可能な酪農と乳業[Vol.1]

食品の提供を通じて社会に貢献するという創業精神「栄養報国」のもと、100年にわたり「meijiらしい健康価値」を展開してきた明治様。

現在では、乳業メーカーとして、酪農家の抱える問題と向き合い、様々なパートナーと連携しながら、持続可能な酪農と乳業を目指した取組に努められています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーがステークホルダーと共に実践する酪農及び乳業を維持・継続させる取組について紹介します。


ステークホルダーと共に歩む酪農と乳業を取り巻く変化への挑戦

乳製品から医薬品まで幅広い事業を展開されてきた明治様。前身の創業時から掲げる「栄養報国」をコンセプトに、美味しいだけでなく、栄養の新たな価値を創造し展開されてきました。今回は、広報部 赤池祐枝氏、BtoB事業部 西井良次氏、酪農部 林陽一氏に、会社の設立経緯や企業の取組についてお聞きしました。

株式会社明治
広報部
赤池 祐枝氏

【赤池氏 インタビュー内容】
当社は製糖事業を起源とする明治製菓と明治乳業が2009年に経営統合した後、2011年のグループ再編によって誕生しました。現在は、明治ホールディングスの傘下に、食品を製造販売する当社・明治、医薬品を製造販売するMeiji Seika ファルマ、そして2018年からワクチンなどを製造するKMバイオロジクスという体制になっています。この明治グループは、2016年に100周年を迎えました。

創業時から「栄養報国」を掲げており、「食品の提供を通じて社会に貢献する」という考えを受け継いでいます。現在も美味しいだけの商品ではなく、栄養の新たな価値を創造し皆さまの健康に繋がる商品展開に努めています。最近では、ブルガリアブランドからアイスが誕生したり、日本でも問題となっている低栄養の解決に貢献する商品として、乳たんぱくも摂取できるアイスやチョコレートを開発する等、健康価値を高めた商品に力を入れています。

現在、酪農や乳業を取り巻く環境は、牛乳消費量の減少や酪農家戸数の減少、飼料価格等の高騰による生乳生産コストの上昇等があり、非常に厳しい状況で、このままでは牛乳や乳製品の生産体制を維持・継続できなくなる可能性があることに、乳業メーカーとして問題意識を持っています。そのため、魅力的な商品の開発だけでなく、当社の身近なステークホルダーと一緒に、消費者への国産牛乳に関する理解促進や持続可能な牛乳の生産体制の構築等、できることから一つずつ取組を開始しています。

健康価値を高めた商品の一例

国内の酪農と乳業の活性化を目指した取組

現在、明治様が取組まれている消費者への取組及び酪農家を支援する取組について、お聞きしました。

1.国産乳原料の使用拡大を目指した消費者への理解促進

株式会社明治
BtoB事業部
西井 良次氏

【西井氏 インタビュー内容】
以前から日本の食料自給率に関するニュースや報道を耳にする機会はありましたが、新型コロナウィルス感染症やウクライナ危機により、日本に食材が入ってこない状況を目の当たりにし、当社として今後食材不足が常態化する危機感を持ちました。当社のメイン原料である「生乳」についても、国内では牛乳消費の減少や酪農家の離農により、今は当たり前に飲んでいる国産の牛乳が、10年~20年先には当たり前では無くなるかもしれないと懸念しています。
そのため、乳業メーカーとして、国産生乳の消費促進を通して、牛乳・乳製品の食料自給率の向上に貢献するとともに、乳製品がもつ栄養価値の伝達、JAPANブランドの普及、乳製品の新たな需要創出に向け取り組むことが当社の使命であると考えました。
一方で、当部署は業務用製品を扱っており、消費者との直接的な接点がないため、当社の国産乳原料に対する想いを直接消費者に届ける方法はないか、という課題を抱えていました。

国産生乳を使った業務用商品

そこで、国産乳製品の現状や価値、生産者や当社を含めた関連事業者の考えや取組を少しでも消費者に知ってもらうため、共通課題をもつ取引先と共に国産原料の消費拡大につながるような取組を推進していきたいと考えております。その一つが、パートナー企業とのタイアップ商品の推進です。当社「明治北海道十勝」ブランドのクリーム、チーズ、乳製品を原料として使用していただいた商品に関して、レギュレーションに沿って「明治北海道十勝」のロゴマークを商品パッケージにご使用いただき、タイアップ商品として展開しています。

「明治北海道十勝」ブランドのロゴマーク

加えて、当社のアプリケーションセンターにて、レシピ・メニューの開発を行っています。パートナー企業とのオープンイノベーションを活用し、国産原料の消費拡大に向けた新たな取組を模索していきたいと考えています。

2.持続可能な酪農と乳業を実現するための生産者支援

株式会社明治
酪農部
林 陽一氏

【林氏 インタビュー内容】
国産乳原料に関する消費者への理解促進だけでなく、具体的な生産現場での問題解決のため、安定的に生乳を生産できる体制の維持継続を目指して、当社独自の酪農経営支援の取組を実施しています。

酪農家戸数は減少する中、一戸あたりの飼養頭数は増え、酪農家の大規模化が進んでいます。酪農家の状況に関する調査をしたところ、家族経営から雇用型経営への転換期を迎え、労働力確保や人材育成に苦慮していることが分かりました。そこで、2018年度から農場の経営目標達成に向けたサポートや経営管理技術の向上を通して人の成長を支援するMeiji Dairy Advisory(以下MDA)をスタートしました。

サステナブルな酪農経営の実現を支援することを目的に、基本的なアプローチとしては、まず農場の目指す姿と現状とのギャップを明確にして、ギャップを埋める課題を洗い出します。そして、解決策を農場と一緒に取組んでいきます。このPDCAサイクルが定着するようにサポートを行い、最終的には農場自身で経営カイゼンを回す状態を目指しています。そもそも会議の習慣がない農場も多かったため、ホワイトボードを使ったミーティングから開始し、日々の問題や課題を洗い出して、皆で解決策を検討します。導入のフェーズでは、当社のメンバーが先導役となりますが、徐々に農場内のメンバーだけで実施できるように定着化を図っていきます。

農場でのミーティング風景

MDAの業務に携わる当社の社員は18名いますが、活動を始めた頃は、農業経営のサポートに関する知識が無かったこともあり、デンマークの農業研究機関SEGESより講師を招き、農場における効率的な働き方等の勉強会を通して全員で学びました。現在、それぞれの社員がグループ会社の明治飼糧の担当者と共に全国各地にある44戸の農場でサポートを行っていますが、各農場における状況や課題は様々で、目指す姿も違うため、学んだことだけを実行するのではなく、各農場にあったサポートを都度考えて実行している点は大変な苦労が伴います。

また、多くの農場では、作業手順が各個人でバラバラだったり、手順の標準化がされていません。これでは生産性も上がらないため、標準作業手順書の作成サポートも実施し、作業の効率化や管理技術の向上を促す工夫をしています。最近では、農場のスタッフに外国人の方もいるので、分かりやすいひらがなを使ったり、タイ語やベトナム語等の外国語で作成したり、農場に合う形で手順書の作成を行っています。農場内でQRコードを読み込むと、手順書が表示される外部アプリ「Teachme Biz」も活用しています。農場からは大変好評をいただき、特に新しい従業員・スタッフがすぐに取組める点が大きな改善点となっているようです。

「Teachme Biz」のイメージ

MDAを取組んでいる農場からは、スタッフが自発的に考え、行動する仕組みができたことや、密度の濃いコミュニケーションを取ることで目標に向かって一丸になれた等のコメントをいただいており、大変嬉しく感じたケースの一つになっています。また、個別サポートだけではなく、全国の取組農場に対してMDAミーティングをオンラインで開催し、参加した方同士が様々な課題や状況を共有する機会も作っています。

十勝で開催されたMDAミーティングの様子

乳原料・乳製品のJAPANブランド普及に向けた展開

国産乳原料に関する消費者への理解促進及びMeiji Dairy Advisoryにおける今後の展望についてお聞きしました。

【西井氏 インタビュー内容】
国産乳原料の消費拡大については、今後も共感いただけるお客様とブランドロゴを活用したタイアップメニューを展開していきます。これまではブランドロゴを保有した商品とのタイアップがメインでしたが、今後はその他の商品についても検討を進めていきたいと考えています。
また、当社のMDAの取り組みや、ニッポンフードシフト推進パートナーとしての活動を通して、国産生乳ができるまでのストーリーを取引先企業や消費者の方々に実感していただけるような機会を創出することで、今まで以上に国産の魅力を伝えていきたいと考えています。
当社のみならず、パートナー企業との協業を通して活動の輪を広げ、日本全国で国産原料消費の機運醸成につながるよう努めていきたいです。


【林氏 インタビュー内容】
持続可能な国産乳製品を拡大するために、今後もMDAを通して酪農経営のサポートを推進していきます。年間400回以上、2023年度末までに累計で2,150回以上の支援を目標として、多くの農場で多くの施策を実施できるよう努力したいと考えています。今まで外国人労働者への対応など様々な社会課題に取組んできましたが、今後も、人権、アニマルウェルフェア、温室効果ガス等の社会課題に関して、これまで以上に幅を広げて取組んでいきたいと考えています。これらの課題をどのようにMDAへ落とし込むかは現在検討しておりますが、サステナブルな酪農経営の実現に向けて酪農家の方々と一緒に推進していきます。そして、この取組が日本全体へ波及し、全国の農場の持続可能な経営の一助となれば幸いです。

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