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地元では食べられていなかった?奈良の高級伝統野菜「大和丸なす」の地産地消を目指す取組[Vol.1]

戦後まもない頃から奈良県大和郡山市(やまとこおりやま)三橋地区で栽培されてきた伝統野菜「大和丸なす」。高級食材として首都圏を中心に出荷されてきたこともあり、地元での食文化がありませんでした。せっかく美味しい野菜が地元にあるのだから、地元でも食べて欲しい、知名度を上げていきたいとの思いから、大和郡山市では10年前から「大和丸なす」の地産地消を進めようと取組を進めています。

地元でのさらなる認知・消費拡大を目指す活動の一環として、新たな販路を創出するべく産官学連携での「ピザバトル」を開催。コロナ前に実施していた開催日の試食では長蛇の列ができるほどの人気イベントとなっています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの高級伝統野菜「大和丸なす」地産地消に向けたさまざまな挑戦について紹介します。


戦後70年以上栽培されてきた「大和丸なす」ってどんな野菜?

今回は、大和郡山市において戦後まもなく栽培されてきた「大和丸なす」の特徴や、これからも継続して栽培していくために生産者、自治体、民間企業で取組む活動について、大和郡山市 農業水産課 課長 春名 宏昭氏、大和郡山市 農業委員会事務局 局長 北川 徹氏、大和丸なす生産者 今西 高弘氏にお話を伺いました。

大和郡山市 農業水産課 課長 春名 宏昭氏(左)
大和郡山市 農業委員会事務局 局長 北川 徹氏(中央)
大和丸なす生産者 今西 高弘氏(右)

【インタビュー内容】
(春名氏)
大和郡山市は奈良県の北西部に位置し、昔から水稲栽培が盛んな地域でした。昭和30年代には大和すいかの産地として、昭和40年代以降はいちごやいちじくなど多くの特産品の栽培が行われてきました。特にいちじくに関しては、奈良県は出荷量全国6位(農林水産省令和3年産特産果樹生産動態等調査より)であり、その中の約9割が大和郡山市から出荷されています。このように、大和郡山市は恵まれた気象条件とそれに適した特産品の栽培が、昔から大変盛んに行われてきました。しかし、奈良県は三大都市圏である京都府と大阪府に非常に近いという場所柄もあり、農家以外の職業を選択する人や、県外で就職する方が多く、担い手不足と高齢化があいまって農家が減少している現状があります。

(今西氏)
今回ご紹介したい「大和丸なす」は、戦後まもなく大和郡山市の三橋地区というところで生産されるようになった野菜です。これまでは、首都圏や京都などの料亭に高級食材として出荷されていたため、そもそも地元での流通がなく、「大和丸なす」という名前は知っているが、食べたことも実際に見たことも、さらには地元が産地だと知らないという方がほとんど、という野菜でした。
「大和丸なす」は丸くて、トゲが強いのが特徴で、トゲが強ければ強いほど、新鮮な証となります。また、一般的な長なすとは違い、アクが非常に少なく、緻密な味をしていて身が締まっているので、煮炊き料理や揚げ物に適した野菜です。一番メジャーな食べ方は、油を吸収することにより甘みが出るという特徴を生かしたなす田楽で、謁見料理としても大変評価をいただいています。

形が丸く強いトゲを持つ「大和丸なす」

(北川氏)
「大和丸なす」はひと昔前までは県外への出荷が安定していたので、これまでは地産地消についてはそれほど重要視されていませんでした。以前から大和丸なすの地産地消の取組はありましたが「こんなに美味しいものがあるのだから、まずは地元の人に知ってもらい、食べてもらうことが、未来に大和丸なすを残していくために重要なことなのではないか」と、考えるようになりました。そこから、地元の販路拡大と地産地消を促進しようという動きが徐々に広がり、さらに食育の一環として、2006年から地元の小学校の給食にも「大和丸なす」を使った大和郡山カレーが提供されるようになりました。
また、新型コロナウィルス感染症の影響による出荷量の減少や、物流コストの上昇など、さまざまな事情が重なった結果、収益が徐々に圧迫されたことも、積極的に地産地消に取組むきっかけとなりました。

(今西氏)
先ほども少しお話ししましたが、大和郡山市では農家の後継者不足が問題となっています。一方で、「大和丸なす」に関しては、戦後から栽培されてきた伝統的な野菜であり、非常に魅力のある食材であることから、比較的若い農家さんが生産されています。現在は、世代交代も進んでおり、「大和丸なす」農家の子どもたちが就農しているケースもあり、他の作物とは少し違った状況にあると考えています。将来的に「大和丸なす」の生産者は、30代から50代がメインとなり、若手が台頭してくることで、消費者へのアプローチも変わってきますから、のびしろのある面白い野菜だと思います。戦後70年、大和郡山市で「大和丸なす」を生産してきた歴史を守り、これから100年先もずっと、「大和丸なす」を後継者に伝えていきたいという思いが私たちにも強くありますね。

地元の人たちにこそ美味しさを知って欲しい!「大和丸なす」の地産地消に向けた取組

「大和丸なす」の地元での消費拡大に向けた大和郡山市での取組についてお聞きしました。

1. 地元スーパーから地元食材の魅力を発信

【インタビュー内容】
(北川氏)
これまでの県外の料亭への出荷と並行して地産地消を推進してきた中で、若手農家さんを中心に「地元の人たちにもっと大和丸なすを食べてほしい!」という思いが出てくるようになりました。そこで、より多くの地元の方に気軽に手に取ってもらえるように、地元スーパーであるイオン大和郡山店さんとの連携を検討しました。しかし、10年前はイオンさんも一括大量仕入れ、大量販売という戦略をとっていたため、実は地元の農作物はあまり取り扱っていませんでした。地元でのさらなる販路拡大を目指す中では、量販店との連携は大きなインパクトがありますが、最初は非常に苦労しました。
そのような中、次の一手を考えているうちに、ちょうど他のスーパーが少しずつ少量多品目、高付加価値の商品を販売するということを始めたんです。その流れもあり、イオン大和郡山店さんからも地元の食材を販売できないか?とのご相談があったんです。イオン大和郡山店さんは地元産新鮮野菜の販売、若手農家さんは地元での「大和丸なす」の販売、という双方の思いが合致したことで、現在まで続く連携の先駆けとなる取組が誕生しました。実際に店舗での販売に至るまでは、どのように地元の生産者から野菜を納品するかなど、多くの調整が必要でしたが、まずは6月に開催されている大和郡山フェアの物産展にあわせて、2013年にはじめて「大和丸なす」をイオン大和郡山店さんで販売することになったのです。

地元スーパーでの販売にこぎつけられたのは良かったのですが、実際に地元の方に「大和丸なす」を手に取っていただくためには、また多くの苦労がありました。まず、課題となったのがこの特徴的な見た目です。「どう料理したらいいかわからない」と、お客様になかなか購入してもらえなかったのです。さらには、料亭で使用される高級食材という印象が強く、お客様の手が伸びにくかったという課題もありました。こうした課題をクリアするために、とにかく実際に食べてもらって、おいしさを知ってもらうことからはじめようと、試食を実施しました。しかし、一般的な試食ではインパクトが弱いと考え、生産者に試食販売を手伝っていただいたり、学校給食で提供していた大和郡山カレーのレシピを再現して試食販売を実施したり、様々な工夫をすることで用意していた約1000個の「大和丸なす」をフェア期間中を通してほぼ完売するまでの反響となりました。やはり、地産地消という意味では、生産者の顔が見えるということがとても重要だと感じました。「あ、この農家さんがつくっているなすなら、買ってみよう!」と、農家さんの顔が見えると安心しますし、購入につながりやすいと思います。それに、知り合いが作っている野菜がスーパーに売られていたら、思わず買ってしまいますよね。こうしたきっかけで、「大和丸なす」を知っていただくことができた面もあると感じています。

大和郡山フェアにおける「大和丸なす」の試食販売の様子

(今西氏)
実際私も「大和丸なす」の生産者として、試食のお手伝いをさせていただきましたが、試食を提供しているとカレーのにおいに誘われて人がたくさん集まってきてくれました。そして、地元給食の味を再現したので、試食した子どもたちが「給食で食べた大和郡山カレーだ!」と喜んでくれ、最初は試食を躊躇していたお父さんやお母さんたちもちょっと食べてみようか、と試食していただけるようになったのが印象的でした。子どもたちが学校給食で食べているものを、家族で食べられるというのはそれだけでインパクトのある経験となりますし、試食してくださった方はみなさん実際に購入してくれました。料亭に出荷するような高級食材だからと家庭で食べることは控えていた地域のみなさんが、気軽に手に取ってくださるようになったと感じます。最近では、この取組で、「大和丸なす」の知名度はかなり上がり、地元にも浸透してきていると実感しています。

最初は年に1回の販売からスタートした取組でしたが、販売機会の回数が増えたり、店舗内に販売コーナーが設置されたりと、販売量も徐々に増えていきました。現在は、大和郡山店では地元農作物コーナーが常設されており、6月のシーズンには「大和丸なす」が販売されているのはもちろんのこと、他に栽培している農作物であるいちごなども取り扱っていただけるようになりました。正直、0から何かをつくることはとても大変でしたが、この取組をきっかけに新たな販路先につながったことはとても嬉しく思います。

大和郡山フェアで販売されている「大和丸なす」

2.さらなる消費拡大を目指し「ピザバトル」を開催

【インタビュー内容】
(春名氏)
奈良県には、管理栄養士を育成する大学として、奈良女子大学、畿央大学、近畿大学、帝塚山大学の4校があります。この4大学で構成されるボランティアサークル「ヘルスチーム菜良」というものがあり、地産地消や食育活動を積極的に行っています。2017年に市役所の保健センターに実習に来ていた奈良女子大学の学生さんのなかに、ヘルスチーム菜良のメンバーがおられ、地産地消の取組の一環として「大和丸なす」を使ったメニューの考案を打診したところ快諾していただき、産官学連携プロジェクトが始まりました。

「大和丸なす」を使った新商品として、誰もが食べやすい食品を検討したところ「ピザがいいのではないか」となり、これまでに連携があったイオン大和郡山店さんとも話し合いを重ねて、イオン大和郡山フェアでの商品販売が実現しました。この企画は2017年からスタートしたのですが、初回は大和丸なす1個を1枚に全部使ったピザを3種類開発し、地元野菜販売とあわせて土日限定で販売しました。これが大変好評で、2018年以降はヘルスチーム菜良のその他の3大学にも参加してもらい、「大和丸なす」を使ったピザを考案してもらおう、と話が進んだのです。ただ商品を販売するだけではなく、ピザバトルにしたら面白いのではないかと話が膨らみ、現在の「ヘルスチーム菜良」対抗大和丸なすピザバトルの開催形態になりました。コロナ禍で2020年度は中断したのですが、2021年度から再開し2024年の今年度の開催についても今まさに準備を進めているところです。

2017年に「ヘルスチーム菜良」の奈良女子大学の学生が開発した『大和丸なすピザ』

ピザの新商品開発は、基本的には学生さんが主体となってレシピの考案から、実際に販売するための原価計算まで行っています。一方で、販売先での取扱いが難しい食材や販売コストの調整などもあるので、イオン大和郡山店さんにもお手伝いいただいています。毎年6月の店舗販売に向けてそういった調整に苦労しながら、約8カ月かけて商品化まで取組んでいます。
商品開発には、その素材をどう調理したらおいしさを引き出せるのか、という点が重要ですが、学生さんのなかには、「大和丸なす」を食べたこともなく、一体どういうものなのかを知らない方も多いんです。そのため、「大和丸なす」について知るために勉強を兼ねて農家さんを訪ねたりする学生さんもいました。
企画を進めていくなかで学生さんたちのピザバトルに対する情熱やモチベーションを感じられる場面も多く、大人である私たちも嬉しく思っています。ですが、なにより学生さん自らが考案したピザが商品化され、大々的に地元スーパーに陳列されて、目の前で1日200枚程度のピザをお客様が購入するのを見られる経験は、なかなかありません。こういったことが、学生さんのやる気につながっているように感じます。ピザバトルは、大和郡山フェアの恒例イベントとなっていますので、新入生歓迎時期などに「このピザバトルに参加している団体です!」と紹介すると、入りたいと希望する学生さんが大幅に増えるそうですよ。過去には、ピザバトルの試食会に行列ができ、並んでいただくのが大変だったこともありました。ピザの売れゆきも実際に好調ですから、イオン大和郡山店さんとしてももっと盛り上げていこう!と協力してくださる面もあるのではないかと感じています。

ちなみに、ピザバトルには審査要領があり、審査員には、イオン大和郡山店さんや県内の関係者、レストランのシェフなどの5名に参加いただき、食育の観点や地域性、独創性、「大和丸なす」の活かし方などさまざまな角度から点数を採点して、総合点の高かった大学が優秀賞となる形式で実施しています。昨年度の2023年には、若い視点として食物コースがある高校の生徒の方に審査してもらうなど、審査いただく方も工夫しながら、変化を加えています。審査員の方からも、ピザの完成度が年々高くなっていて、審査するのが楽しみだという話も聞きいていますね。

ピザバトルと試食販売の様子

2024年度は、イオン大和郡山店において行われる大和郡山フェアが6月14日(金)、15日(土)、16日(日)の開催を予定しています。ピザバトルは共同開催として、15日(土)、16日(日)の2日間において4大学の学生が考案した4種類のピザ(合計400枚程度)の販売を行う予定です。
6月16日(日)には、審査員による審査、同日、本イベントのエンディングにおいて優秀賞の発表を行い、受賞した大学のヘルスチーム菜良にはトロフィーや賞状、「大和丸なす」などの豪華賞品も用意しています。
今年度は奈良県食農部次長や、農林水産省の公式YouTubeチャンネル「BUZZMAFF」チームメンバーにも審査員としてご参加いただく予定です。大和郡山フェアでは、「大和丸なす」の販売も行いますので、お近くにお住まいの方、ご興味がある方など、多くの皆さまのご来場をお待ちしております!

「大和丸なす」の地産地消に向けた今後の展開

地産地消への一歩を踏み出した「大和丸なす」について、今後の展望についてお聞きしました。

【インタビュー内容】
(北川氏・春名氏)
「大和丸なす」は、おかげさまで大和郡山市内ではある程度知名度を上げることができていますが、まだまだ奈良県内の南部など他のエリアでの知名度が低いという現状があるので、今後は、県内での知名度を上げていきたいと考えています。

その一環として、せっかくイオン大和郡山店さんというパートナーがいるので、そのお力をお借りして「大和丸なす」を毎年他のイオンさんの店舗でも販売していただけるようになりました。現在5店舗で実際に販売していただいています。まずは少しずつからでも店舗に置いていただいて、県内での知名度や出荷量を上げていきたいと思っています。イオン大和郡山店さんとしても、地元と連携してこういった企画を展開するという点は非常に魅力的に感じていただいていて、イオンさんの社内でも「大和丸なす」における取組はモデルケースとなっているとお伺いしています。
大和郡山市としては、「今は大和丸なすの時期なんだ」とお客様に当たり前に手に取っていただけるように、イベントなどを開催してどんどんPRしていきたいと思っています。そして、最終的には、「奈良県のなすは丸い」、「奈良県といえば大和丸なす」と思っていただけるように県内をはじめ、全国的に知名度が拡大していくことが理想ですね。

イオン大和郡山店以外での店舗で販売されている「大和丸なす」

(今西氏)
地元で知られた野菜となれば生産したいという農家さんも増えますから、ピザバトルには大きな意義があると感じています。自分たちの取組が、地元農家との取組の有効性を実証することにつながり、地元野菜を取り扱うきっかけとなったことは、大変嬉しいです。
また、ピザバトルなどで「大和丸なす」の魅力を伝えようと頑張っていただいている学生さんたちとの交流の場を、今後はもっとつくっていきたと考えています。そういった学生さんたち、新規就農者、生産者、行政などと連携し、これからも「大和丸なす」の魅力を地元の方たちに伝えて、より広く知っていただくチャンスを探っていきたいです。