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日本が誇る「お茶」から広がる、未来の農業の可能性[Vol.1]

和食の文化に欠かせない「お茶」を中心に、お客様の健康で豊かな生活と持続可能な社会の実現を目指し、ライフスタイルの変化に対応した新しいお茶の楽しみ方や製品を開発してきた伊藤園様。

「茶畑づくりから茶殻のリサイクルまで」の一貫した環境経営を行っており、独自の農業モデルである「茶産地育成事業」の展開や、茶系飲料製品の製造過程で排出される茶殻のリサイクルなど、持続可能な農業に向けた取組みに挑戦されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの「世界のティーカンパニー」に向けた取組みについて紹介します。


茶畑づくりから茶殻のリサイクルまで、お茶づくりの全てにこだわる

「世界初」「業界初」の技術を積み重ねて、いつでもどこでもおいしいお茶が楽しめる製品を届けている伊藤園様。今回は、マーケティング本部 緑茶ブランドグループ ブランドマネジャー 安田哲也氏に、会社の経緯、主力製品の歴史、お茶づくりへの取組みについてお聞きしました。

株式会社伊藤園
マーケティング本部 緑茶ブランドグループ ブランドマネージャー
安田 哲也氏

【安田氏 インタビュー内容】
当社は、1966年に「お茶屋」としてスタートし、1980年に世界で初めて「缶入りウーロン茶」を発売して無糖茶飲料市場を創造しました。そして、開発に約10年の歳月を経て1984 年に世界で初めて緑茶の飲料化に成功し、翌年の1985年に「缶入り煎茶」を発売しました。一方、茶業界では一般的な呼称である“煎茶”の読み方が分からないとの声が多かったことから、より家庭的でお客様に親しみをもっていただける名称への変更を検討し、1989年に「お~いお茶」とネーミングに変えて販売を開始。その後「お~いお茶」は、1990年に世界初のペットボトル入り緑茶飲料として発売、1996年には持ち運びしやすいパーソナルサイズの500mlペットボトルを業界に先駆けて発売したことをきっかけに「緑茶飲料市場」は一層拡大しました。その結果、日本人にとって身近な飲み物である緑茶を、多くの方にいつでも手軽に楽しめる飲み物へと進化させました。
2000年にはホット対応ペットボトル製品、また近年では電子レンジ対応のペットボトル製品を発売し、消費者の飲用シーンに合った製品を開発、ラインアップしています。時代や飲用シーンに合わせた容器容量の開発に加えて、当社は嗜好の多様化にも対応するため、2004年に「お~いお茶 濃い味(現在の「お~いお茶 濃い茶」)」を発売し、2019年以降は機能性表示食品として展開、売上数量が伸長しています。
「お~いお茶」は誕生以来、茶畑からお茶づくりに取組み、毎年、その年に合った味わいに絶妙に変更し、開栓して飲む瞬間が一番おいしいと感じられる味わい作りに努めています。

歴代のお~いお茶の製品イメージ

当社の設立当時は茶問屋などから原料を買い付けていましたが、1976年には独自の仕入れ体制を構築して良質な茶葉を安定的に調達する取組み「茶産地育成事業」を開始しています。この取組みは、生産された茶葉を全て買い取ることで茶農家の安定経営にも貢献し、栽培指導やさまざまな情報提供を行いながら、茶農家や行政とともに持続可能な茶農業の発展につなげています。そのため、本業を通じて茶農業の発展への貢献とともに、緑茶飲料製品やリーフ製品ごとに最適な緑茶原料作りができることが当社の最大の強みです。

一方で、原料である茶葉の栽培は他の農作物と同様に自然環境の影響を受けることから、毎年同じ品質の茶葉が収穫できるとはかぎりません。また、日本全国どこで「お~いお茶」を飲んでも同じ味わいとするためには、当社がこれまでの経験から得た工夫や職人の技術力を活かした原料茶葉の荒茶加工、「火入れ」と言われる仕上げ加工、そして抽出も重要なポイントです。
摘採後の成分確認などはデジタル化を進めていますが、味を決める部分は非常に繊細であり、茶師の様々な技術や工夫で「お~いお茶」品質を実現しています。

循環型農業の実践やお茶の普及活動

日本の文化である「お茶」における循環型農業への取組みや普及活動についてお聞きしました。

1.茶産地育成事業による持続可能な農業への貢献

【安田氏 インタビュー内容】
安定して品質の良い原料を確保するため、1976年から独自の持続可能な農業モデル「茶産地育成事業」を展開し、茶農家との契約栽培を行っております。また2001年からは、荒廃農地等を茶畑に転換する新産地の育成にも取組んでいます。
本事業をもっと多くの方々に知っていただくために、お客様と直接コミュニケーションを持つ取組みを実施しています。お茶は日本の文化ですが、どのようにお茶が生産されているかの認知はまだ広がっていません。そのため、一般のお客様にも茶畑に来ていただき、苗植え、茶摘み、手もみなどの農業体験を通し、お茶というものに関心を持っていただきたいと考えています。コロナ禍では思うように運営できませんでしたが、今年の茶摘み時期からお茶に親しみを持っていただけるような企画を考えています。農家、茶畑、お客様の距離が縮められ、身近に感じてもらえるきっかけづくりができれば幸いです。

お~いお茶の契約茶園と茶葉のイメージ

2.茶殻のリサイクルによる循環型農業の実践

【安田氏 インタビュー内容】
「お~いお茶」などの茶系飲料製品の製造工程では、年間5万トン以上の茶殻が排出されますが、当社は茶殻を“限りある資源の代替原料”として捉え、堆肥や飼料に有効活用するだけでなく、日用品や工業製品の原材料に活用する独自技術「茶殻リサイクルシステム」を2001年に確立しています。この取組みは、茶殻を使って畳を掃除していた慣習に着想を得て、茶殻が持つ消臭・抗菌効果を活かして茶殻を配合した「畳」の開発からスタートしました。これまでに様々な業種と協働し、茶殻を配合したマスクケース、樹脂製ベンチ、人工芝の充填剤など、これまでに約100種類の製品にアップサイクルしています。当社が使用する封筒や名刺も茶殻入りで、身近な製品として活用しています。

茶殻を活用したアップサイクル製品

この他、海外市場でのさらなる需要拡大を見込んで、減農薬や有機栽培の技術開発に取組む一環で、お茶の生育に必要な窒素肥料の代わりとして茶殻に含まれる窒素成分の活用を開始しています。飲料製品の製造過程で委託先工場から排出された茶殻を堆肥化し、契約産地の茶畑で使用することで循環型農業を推進しています。

3. お茶の普及活動

【安田氏 インタビュー内容】
「お茶」も日本文化の一つであるように、日本特有の様々な文化を普及するための取組みも行っています。「伊藤園お~いお茶新俳句大賞」は、1989年の「お~いお茶」発売とともにスタートした国内最大規模の俳句コンテストです。「新俳句」とは、「季語」や「定型」などの俳句のルールにこだわることなく、感じたこと、思ったことを「字余り」「字足らず」でもかまわず、五・七・五のリズムにのせて自由に表現していただくものです。俳人を含めた幅広いジャンルの審査員により選出された文部科学大臣賞をはじめとした受賞作品2,000句は、「お~いお茶」のパッケージに掲載されます。第三十三回までの累計応募句数は4,100万句に到達するまでに至りました。他にも、お茶とともに、歌舞伎、相撲、将棋などの日本の伝統・文化へ積極的に関わり、お茶を通じて、世界中の方々に、その魅力をお伝えしていきたいと考えています。

伊藤園お~いお茶新俳句大賞

また、伊藤園では「ティーテイスター制度」を設けています。社員がお茶に関する高い知識を持ち、社内外にお茶の啓発活動が行えるよう1994年より開始した社内資格制度です。年に1回、1級~3級までを希望者が受験し、厳正な審査によって合格者が決定されます。試験では、学科、検茶、口述が行われ、茶の歴史、文化からおいしいお茶のいれ方など幅広い知識と技能が求められます。 2017年には、厚生労働省より「伊藤園ティーテイスター社内検定」として社内検定の認定を受けました。1級は緑茶、中国茶、紅茶、茶道の全てに精通する必要があることから、17名(2022年5月時点)しか取得者はおりません。
この「伊藤園ティーテイスター社内検定」の試験に合格した社員が中心となり、学校、自治体、企業等でお茶に関するセミナー等を実施しています。紅茶、ウーロン茶、緑茶は同じ茶葉からできていることに皆さま驚かれ、お茶をおいしくいれる方法については大変感心されることが多いです。例えば、高級茶であれば低温でじっくり抽出し旨みを味わう、ほうじ茶や玄米茶であれば高温でさっと抽出して香りを楽しむ、夏場には緑茶を氷水出しすると簡単に渋みがなく、旨みが際立つおいしいお茶がいれられる等です。茶殻については、お茶に含まれる有用な成分を含んでいるためおひたしにするとおいしいなど、お茶のいれ方だけでなくお茶を使ったレシピなども紹介しています。
今後も、国内はもちろんのこと、海外でも多くの方がお茶に興味を持ってもらえるように活動を継続していきます。

お茶に関するセミナーやイベントの様子

世界のティーカンパニーに向けた展開

今後、取組むべき課題や世界に向けた展開についてお聞きしました。

【安田氏 インタビュー内容】
急須でお茶を飲まれる方は60代以上、また「お~いお茶」に関しては中高年の方がメインユーザーとなっているため、現在は特に若年層の開拓に取組んでいます。20代、30代の皆様にいかにお茶に触れて、興味を持ち、飲んでいただくかが重要な課題です。店頭やTVCMでのコミュニケーションに加え、SNS等のデジタルを活用して発信し、お茶の情報に触れてもらう試みもしています。最終的には茶畑に来てもらい、茶摘み体験などを通して、よりお茶に興味を持っていただきたいと考えています。昨年、流通企業を中心に約200名の方に茶畑に来ていただき、茶の木の植樹や茶摘みの体験を行うツアーを開催しました。そこでは、植樹した木から茶葉ができるまでの5~7年後を楽しみにしているというお声をいただきました。今年は、このような活動を消費者の皆さまにも対象を拡大して開催すべく、茶産地育成を一緒に応援する“お茶サポーター”企画を今春に始動しました。今後は、徐々に規模も拡大していきたいと考えています。

当社はこれまで、時代とともに変わるお客様のニーズに応じて製品開発をしてきましたが、今後は「環境」もキーワードになると考えています。例えばマイボトルの利用が一層高まることを想定した、より簡易に作れるリーフ製品の開発など、まだまだ新しい製品の可能性はあると思います。環境先進国が多いヨーロッパ進出も見据えて、環境にも対応できる製品開発を今後も実施していきます。

お~いお茶の代表的な製品