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農業の成長産業への貢献を目指す企業のフードシフトな活動[Vol.1]

農業の成長産業への貢献を目指し、日々活動するカゴメ様。

1899年の創業以来120年にわたり、日本の食を見つめ、新しい食のあり方を提案されてきました。「自然を、おいしく、楽しく。KAGOME」をブランドのありたい姿として、多様化した食のニーズに対応した商品を開発されています。

持続的成長と社会問題の解決を循環させるために、国内においては加工用トマト生産者の減少への対策、最新技術を活用した生鮮トマトの大型施設栽培などにより、農業振興にも貢献されています。

今回は農から食を手掛けるニッポンフードシフト推進パートナーのありたい姿をイメージした社会課題への取組について、インタビュー内容を中心にご紹介します。

農家からはじまった企業の食と農への課題意識

1899(明治 32 )年、創業者 蟹江一太郎氏がトマトをはじめとする西洋野菜の栽培に着手することからはじまったカゴメ様。経営企画室 広報グループに所属する北川氏に社内でフードシフトな活動に取組むきっかけについてお聞きしました。

カゴメ株式会社
経営企画室 広報グループ
北川 和正氏

【北川氏 インタビュー内容】
創業時は、トマト、レタス、白菜等の西洋野菜を栽培し、ホテルや西洋料理店等に卸していました。扱う野菜の中でもトマトは、馴染みのない味なうえ青臭く、当時はなかなか受け入れられませんでしたが、トマトはタマネギやキャベツと並ぶ代表的な西洋野菜であるため、創業者は「まだまだ勉強が足りないだけ」と諦めませんでした。その後、トマトは海外では生ではなく加工して食べられていることを思い出し、加工することで嫌な臭みがなくなって誰の口にも合う味になればきっと売れるようになると考え、自宅の納屋でトマトソースを開発したのが、当社の加工業としての始まりです。
当社の象徴的な商品はトマトケチャップですが、1908年の製造開始当時はまだ食卓の洋風化が進んでいなかったこともあり、ホテルや西洋料理店で普及していたトマトソースの方が、需要がありました。その後、料理講習会の開催や新聞・雑誌等への広告掲載を行い普及に努めましたが、トマトケチャップが家庭に広く普及するきっかけとなったのは、1966年に世界で初めてプラスチックチューブのトマトケチャップを発売したことでした。

このように、長い時間を掛けてトマトソースやトマトケチャップ等の需要創造に取組んできましたが、最近の事例としては、トマトケチャップの代表的なメニューであるオムライスの日本一を決定するイベント「カゴメオムライススタジアム2023」を開催します。2015年から4年に一度開催をしており、3回目となる今回は、全国9会場の予選会やWEB投票を経て、5月に決勝大会を行います。この活動を通じて、多くの方にオムライスの魅力を感じていただき、オムライスが広がっていくことを願っています。これからもこのようなイベントや情報発信等を通して、トマトのおいしさや魅力を伝え、生鮮トマトやトマト加工品の市場拡大に努めてまいります。

当社は自然の恵みである野菜や果物のおいしさ・栄養価値を活かした商品づくりを大切にしておりますので、原料となる農産物の品質を確保するために、「畑は第一の工場」という考え方をもっています。国内の加工用トマト栽培については全国の生産者と一緒に成長してきた長い歴史があり、生産者との関係をとても大切にしています。2022年11月には、ジュース用のトマトについて優良生産者表彰式を行い、収穫量の多い生産者や新規生産者を表彰しました。生産者にはこれからもトマトを生産していただきたいと考えており、様々な取組や工夫を行っています。

優良生産者表彰式の様子

創業時からトマトを中心に事業を築いてきましたが、将来にわたり持続的成長を続けるためには、事業環境の変化に負けない、強い企業になる必要があると考えました。そこで2016年に10年後のありたい姿を「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」と定め、これからますます関心が高まる「健康寿命の延伸」、「農業振興・地方創生」、「持続可能な地球環境」と向き合い、社会的価値と経済的価値の向上を目指すことを方針としました。

現在、当社はこれら社会課題の解決に貢献できる活動を日々推進しています。

農業の成長産業化に向けた取組実績

「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」という方針で活動するカゴメ様。その具体的な内容として、異業種の19の企業・団体と推進する「野菜をとろうキャンペーン」、農業振興・地方創生の拠点となる「カゴメ野菜生活ファーム富士見」等、様々な取組成果についてお聞きしました。

1.日本の野菜不足解消に向けた運動「野菜をとろうキャンペーン」

【北川氏 インタビュー内容】
厚生労働省の「健康日本21」のおいて、野菜摂取量の目標は1日350gとされていますが、現状は約290gであり、あと60g不足しています。この状況は10年以上続いています。野菜不足の解消に向けて、当社が2020年より全社をあげて活動をしているのが「野菜をとろうキャンペーン」です。お客様の野菜摂取に対する意識と行動変容を促すために、お客様と野菜の接点をスーパーマーケットや飲食店、企業のウェブサイト等、様々な場所につくる活動を続けています。その際に、吹き出しのイラストに「野菜をとろう」というメッセージを書いたキャンペーンのロゴを掲出したり、19の賛同企業と連携して野菜のおいしさや野菜の上手な取り方をお互いのSNSやホームページ等を通じて発信しています。

カゴメ株式会社山口社長による
「野菜をとろうキャンペーン」の発表記者会見の様子

本キャンペーンに賛同いただいているNEC様とは、NEC様が得意とするAI技術と、当社の野菜に関する調査結果を活用し、子どもの野菜嫌い克服を目指す「AI(愛)のプリン」を開発しました。当社の調査結果を参考に選定した子どもが苦手な21種類の野菜に対して、AIがそれぞれに相性の良い食材を導き出し、岐阜のお菓子屋さん「プルシック」の所浩史オーナーシェフの協力のもと、子どもが苦手な野菜にチャレンジしやすいプリンのレシピを開発しました。このレシピは、世の中に広く普及させるために、NEC様のホームページで公開しています。ご家族でプリン作りを楽しみながら、お子様は野菜を摂ることができますので、食育の観点でも貢献できると考えています。

このような活動の積み上げと情報発信により、2022年度は約3,000万人の方へ情報をお届けすることができました。生活者の方々に少しでも多く野菜をとってもらえれば幸いです。賛同企業・団体とともに企画を練り上げていく作業は、当社として初めての挑戦であり、様々な課題をクリアする必要がありますので、生みの苦しみは常にあります。しかし、異業種で連携することで、自社単独の活動では関係を持つ機会がない方々にも、情報をお届けできるので、非常に意義のあるプロジェクトと考えています。

AI(愛)のプリン

2.トマトをきっかけとした地域/農業との関係強化

【北川氏 インタビュー内容】
生産者が大切に育てた国産完熟トマトを旬の時期に収穫して、当社独自の『とれたてストレート製法®』でしぼり、「カゴメトマトジュース PREMIUM」として、毎年、数量限定で販売しています。トマトをやさしくしぼる独自の搾汁方法により、さらっとしたのどごしを実現し、熱をできるだけかけずにすばやくパックすることで、トマトの爽やかな香りを残しています。商品のパッケージやホームページには生産者を掲載し、農家の思いが詰まった特別なものであることがお客様に伝わるようにしています。
生産者からは、自分達がつくったトマトがスーパーマーケットで販売されるのは大変嬉しいという感想をいただいており、トマトをつくり続ける気持ちに繋がっているものと考えています。

「カゴメトマトジュース PREMIUM」を通して、地域や生産者の方々との関係をさらに強化し、農業振興・地方創生に貢献したいと考えています。

2019年4月には、長野県の富士見町に「カゴメ野菜生活ファーム富士見」をオープンしました。コンセプトは、「農業・工業・観光」が一体化した体験型「野菜のテーマパーク」です。地域連携により実現できた取組事例であり、これまでに多くの方々にお越しいただき、地元への貢献にも繋がっていると感じています。

「カゴメトマトジュースPREMIUM」とパッケージに掲載された生産者

3. 持続的な自然環境への配慮

【北川氏 インタビュー内容】
自然の恵みを活かした事業を展開する当社にとって、持続可能な地球環境は重要な課題であり、当社では様々な地球環境の保全に取り組んでおります。2019年にはプラスチック問題による環境負荷の低減をめざして「カゴメプラスチック方針」を制定しました。具体的な目標として、飲料ペットボトルについては、2030年までにリサイクル素材又は植物由来素材を50%以上使用することを目指しております。この方針に基づく活動として、2022年9月には「カゴメトマトジュース食塩無添加」及び「カゴメトマトジュース低塩」(720ml)のペットボトル容器を、環境に配慮した100%リサイクル素材を使用し、使いやすさを向上させた新ボトル「スマートecoボトル」に切り替えています。

環境に配慮した商品を選ばれるお客様は増えていると感じており、この「スマートecoボトル」に対する評価も高いです。これからも地球環境に配慮した商品づくりを大切にしていきます。

スマートecoボトルを使用した「カゴメトマトジュース」

また、2050年までに当社グループの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指しており、気候変動への対応も優先度の高い課題です。2023年1月から、「カゴメトマトジュース」や「野菜生活100」等の生産や飲料の原材料むけに生野菜を加工している富士見工場(長野県富士見町)において、野菜を搾汁する際に出る残渣等(植物性残渣)や当工場の隣にある八ヶ岳みらい菜園の出荷できない生鮮トマト等を、再生可能エネルギーとして利用しております。食品廃棄物を有効活用でき、CO₂排出量の削減にもつながります。

バイオマスプラント

海外においては、加工用トマトの就農者・熟練者の減少や、ここ数年世界各地で発生している干ばつによる水不足等は喫緊の課題です。そこで、持続可能な農業をサポートしていくために2022年9月にNEC様と合弁会社「DXAS Agricultural Technology」を設立しました。DXASは、DXでAgricultureをSustainableにするという新会社のありたい姿を表しています。2023年4月から、加工用トマト栽培の水不足に対応するために、加工用トマトの生産者にむけて、少量多頻度灌漑に対応した AI 営農アドバイスと自動灌漑制御機能を加えたサービスの提供を予定しています。NEC様の技術と当社のトマト栽培の知見を活かして、最適な水の投入量で収穫量を増やすことを実現していきます。環境に優しく収益性の高い営農を促進し、持続可能な農業に貢献してまいります。

少量多頻度灌漑に対応したAI 営農アドバイスのイメージ図

今後の農業の成長産業化に向けた展開

カゴメ様が目指すありたい姿の実現へ向けて、今後の展望についてお聞きしました。

「野菜をとろうキャンペーン」特設サイト

【北川氏 インタビュー内容】
2025年のありたい姿を目指して、3つの社会課題「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「持続可能な地球環境」への取組を着実に進めてまいります。そして、この社会課題の解決に貢献するために、当社は“トマト”の会社から“野菜”の会社にむけた変革を加速していきます。「健康寿命の延伸」には、トマトの健康価値だけではなく、他の野菜の健康価値も必要です。「農業振興・地方創生」には、トマトを含めた野菜全体の消費量を増やし、生産量の拡大に貢献することが必要だと考えており、商品開発や提案に一層力を入れていきます。そして「持続可能な地球環境」は当社が事業を継続するための前提となりますので、自然への感謝を忘れず、未来にもつなげていくために弛まぬ努力を続けていきます。

2019年に普段の野菜摂取量を簡単に推定できる機器「ベジチェック®」を開発しましたが、これも野菜の会社に近づく取組の一つです。1日に350gの野菜を摂るためには、現状どの程度野菜が摂れているのか把握することが第一歩だと考えています。この「ベジチェック」は現在、健康診断、食事指導、健康イベント、スーパーマーケットの青果売場等、様々な場面でご活用いただいており、お客様の食習慣改善の行動変容をサポートしています。
お客様には、野菜といえば「カゴメ」と連想していただけるようなれると嬉しいですね。

ベジチェック®

2022年、食育の新たなテーマ「植育から始まる食育」をかかげました。野菜の栽培、収穫、調理といった一連の “植育” 体験が、自然や食への知的好奇心や感謝の気持ちを育み、“食育”に通じるものと考え活動しています。具体的な活動として、カゴメトマトジュース用トマト「凛々子(りりこ)」の苗を全国の小学校や保育園に無償で提供して、栽培、収穫、調理まで体験していただく「りりこワクワクプログラム」、野菜のことが好きになり、もっと食べてみたくなる体験型授業「おいしい!野菜チャレンジ」、カゴメ野菜生活ファーム富士見における野菜の収穫体験、野菜を育む畑や土の働きを学ぶ体験イベント「不思議の畑とトマトの樹」等を行っています。

これからも自然の恵みを大切に想い、お客様の健康や地域社会の成長に貢献できる活動を推進してまいります。

「りりこわくわくプログラム」の体験の様子