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植物工場でレタスを生産!?未来の美味しいを創るメガファームの取組とは。[Vol.3]

1720年から続く農家を法人化し、全国の農家や企業とも連携しながら、「食と人と農業の未来のために 美味しい食の安心、安全、安定」を創り続けているのが株式会社舞台ファーム様。

最先端のテクノロジーを駆使した、食料供給システムの構築をはじめ、土壌開発を通した環境に優しい農業など、多様な視点から農業を発展・進化させる取組を追求されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの取組の第3弾として、Z世代社員の現在の業務や、食や農への取組・想いを紹介します。


舞台ファームに入社するまでの経緯や食・農への取組・想い

農家として300年以上の歴史がありつつも、最先端の農業生産に取組む舞台ファーム様。その中で、生産システムにおけるソフト開発などDXを担当している未来戦略部 吉永 圭吾氏と、米の生産から販売、管理を担っている福島農場部門 畠山 瑛児氏に、入社の経緯、現在の業務や、食や農に対する想いについてお伺いしました。

株式会社舞台ファーム
未来戦略部
吉永 圭吾氏

【吉永氏 インタビュー内容】
父が農業の研究者をしていたという影響もあり、大学では農学部を専攻していました。ですが、最初から農業に興味があり、意欲的だったかと言えばそこまでではなく、海外への興味の方が強かったこともあり、学生時代には文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」を利用して台湾に留学したりしていました。この留学では、インターンの募集をしていなかった岩手県の銘菓である「かもめの玉子」を製造している会社に突撃し、そこでインターンを取り付け、台湾で岩手の魅力と、「かもめの玉子」の魅力を若者に広めるという活動をしていました。帰国してからは、もっと岩手の人に台湾の魅力を知ってもらいたいとの思いから学生団体を立ち上げ、花巻国際定期便が就航したことも相まって雑誌社や岩手県、デザイン学校の学生を巻き込みながら『リトルプレス』という小冊子の作成にも取組んでいました。

自分としては、0→1で何かを作っていくことが好きだったということもあり、大学卒業後にそういった仕事がしたいとの思いでIT商社に入社しました。しかし、自分が思い描いていた様な若手がゼロから何かを作ることができる環境がないと感じていました。そんな時に、VENTURE FOR JAPANという団体を知りました。この団体では新卒の若手がいきなり経営直下で働くことができるという制度があり、2年間経営直下で働き、その後最終的には起業を目指すというプログラムがありました。そこで出会ったのが舞台ファームです。会社説明会の動画を見て、針生社長の考え方に共感したことで「もうここしかない」と思い、舞台ファームに入社を決めました。

台湾でのインターンの様子

舞台ファームに入社してから現在まで所属しているのが、未来戦略部という現場の課題を解決したり、新規事業を生み出す部署です。その中で、私は主にDXについての業務を担っています。実は、大学では農業のことしか勉強していないことに加え、新卒で入社したIT商社でも開発されたサービスの営業だったので、ITの知識は全くありませんでした。
そのような状況の中、入社してまず取組んだ業務は、カット工場の課題を解決するというミッションでした。しかも「何を課題と定義とするかも自分で判断をし、そのプロセスも問わない。ただ成果を出しなさい」というものだったのです。
そのためまずは現場の課題を知る必要があると考え、カット工場の場所や誰が働いているのかもわからない中、現場に足を運び「工場で何か困っていることありませんか?」というヒアリングから始めました。そこでわかったことは、カット工場にはとにかく紙の書類が多く、IT初心者の私でも、すぐに解決できそうな課題がたくさん見つかったのです。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という人がパソコン上で行っている事務的な作業などを記録し、業務を自動化するシステムが導入されているのにも関わらず、それを使える人がほとんどいない。折角導入されたシステムが全く活用されず、紙の書類が多くなっていたんです。
そこで私はまずRPAや紙の書類をなくすためのツールについて、ゼロから自分自身で勉強し、テクノロジーを活用した効率的な業務環境を会社内に実装していくことを目指しました。その結果、入社後1年目で年間500万円弱の業務効率化を実現し、会社内で表彰もしていただきました。でも、これだけ聞くとすごいと思うかもしれませんが、実はあまりにも伸び代がありすぎて、少しのきっかけを作ったことが大きなインパクトにつながったというのが正直なところです。

株式会社舞台ファーム
福島農場部門
畠山 瑛児氏

【畠山氏 インタビュー内容】
私も吉永さんと同じ大学の農学部で、植物全般について学ぶ学科を専攻していました。そこで勉強していく中で、農業には担い手不足など多くの課題があることを知り、そういった問題を解決するために自分は何ができるのか?と考えるようになりました。もともと将来は農業を職業にして携わっていきたいという想いがあったので、まずは現場のことをしっかり理解できるように、生産者の立場になろうと考え、新卒でイチゴやトマトを生産する岩手県内の農業法人に就職しました。
そこで2年間ほど働いた時、何か新しいことにチャレンジしたいと考えるようになり、ちょうどその頃、吉永さんから舞台ファームを紹介してもらったことが入社のきっかけになりました。実は、吉永さんがわざわざ自分が住むところまで来て、熱く舞台ファームの説明をしてくれたんです。その熱意に押されたのと同時に、舞台ファームの面白い取組に興味を持ち転職を決めました。
特に入社の決め手となったのは、日本の食料生産の根幹であるお米の栽培に関われるという点です。世界的でも穀物生産というのは非常にインパクトがあり、若いうちから米生産のプロになることができれば、今後も農業に関わっていく中で必ず役立つと思ったのです。

舞台ファームに入社してから現在まで、福島県浪江町で稲作に携わっています。主な業務内容としては、約50ヘクタール(東京ドーム10個分ほど)の土地で、春の田植えから秋の稲刈り、圃場の管理などの管理業務を行っています。稲刈りをして米の収穫が終わったら、浪江町にあるカントリーエレベーターという米の貯蔵施設の運営を任されています。
舞台ファームでは農業をビジネスとして捉えるという考え方を非常に大事にしていると入社当時から強く感じていました。現場社員が「今年はこのくらい収穫できました」「このくらいで売れました」というだけではなく、利益の出る仕組みをしっかり考えながら栽培に取組めるというところは、今後において一歩先のプロの農家に近づけるんじゃないかと感じています。そういった点で、舞台ファームは経営者の目線や管理的な見方に関しての人材教育も充実していると思います。

米栽培の作業中の様子

Z世代社員が取組むそれぞれのフードシフトとは

これまで業務に取り組んできたなかで、印象的な取組や個人のフードシフトな取組についてお聞きしました。

1.ハードウェア面だけでなく、ソフトウェア面での植物工場の効率化

【吉永氏 インタビュー内容】

先ほど、カット工場での取組において会社内で表彰されたとお話しましたが、同時に東北経済産業局主催の「TOHOKU DX 大賞2023」においても、植物工場「美里グリーンベース」での取組が選考委員特別賞を受賞しました。
当時の美里グリーンベースでは既に生産の90%が自動化されており、ロボットやAIが自動収穫や植え替え、水の調整など生産に関するハードウェア面は管理制御システムによって管理されており、効率化されていました。
一方で、人間が管理しているソフトウェア面での仕組みとして、どこに何を植えて、いつ収穫が可能なのか、という状況を把握できるツールが導入されていませんでした。さらには、日本では類を見ない「美里グリーンベース」での広大な栽培状況を把握できる既成のツールも存在していなかったので、0→1で栽培状況の管理ができるアプリを作ってみることにしたのです。もちろん、当時はITに関する知識が全くなかったので、わからないことはYouTubeやChat GPTを活用しながら独学で学びました。アプリの開発にはプログラミング言語が必要のないノーコードツールをベースにしながら、一部プログラミングコードが必要な部分は、生成AIを活用しました。そういった現代の技術を有効活用して、品種や季節による栽培状況や、収穫の記録をアプリ上で管理することで、常にリアルタイムの情報がバーチャル上で可視化できるアプリを開発しました。
このようなアプリが世の中にまだ存在していないため、莫大な資金を投資すれば専用アプリを作ることも可能だと思います。 「TOHOKU DX大賞」では開発費用やランニングコストを0円で実現したという点が高く評価されました。

「TOHOKU DX 大賞2023」授賞式での様子

テクノロジーを駆使したおかげで、栽培状況の見える化の仕組みは1か月ほどで完成しましたが、現場からの様々なオーダーやニーズをくみ取りながら、実務で使える形にするのが難しく時間がかかりました。特に現場には高齢の方も多いので、アプリ開発時には、そういった方々にも使いやすくすることを意識し、そこが一番苦労した点でもあります。例えば、アプリ上でエラーが出たら、必ず電話がかかってくるという状況から、自分たちで解決できるように対応方法をコマンドで表示させる、といった工夫をすることで、現場の中で解決できるようになったということがあります。少しの工夫かもしれませんが、日々改善が目に見えるので非常にやりがいを感じています。

2.品種の選択で収量を上げ、発想の転換で直まき栽培であっても収量を取れる栽培方法を確立

【畠山氏 インタビュー内容】
お米のビジネスにおいて収益を伸ばすためには、経費を削減するか、収量をどれだけ増やすことができるか、の2つがポイントとなります。そこで、収量を増やすための取組として、品種の選択と栽培方法の検討を行っています。
舞台ファームでは、これまで「天のつぶ」という福島県のオリジナル品種をメインに栽培していたのですが、2023年は夏の猛暑の影響により一等米(整粒割合や水分が基準を満たし、異物や着色したお米が少ないため、精米歩留まりが良く、一番良い等級に格付けされたお米)の収量が全国的に非常に少なくなりました。これは2023年に限ったことではなく、近年の気候変動の傾向からして今後も猛暑という課題と向き合っていく必要があります。そこで、私たちは高温に強い品種として注目をされている「にじのきらめき」という新しい品種に着目し、その先駆けとして2023年から作付けをスタートさせました。この「にじのきらめき」は、ただ暑さに強いだけでなく、味も日本で一番おいしいとされる「コシヒカリ」と同等か、それ以上の数値が出ているんです。

「にじのきらめき」の栽培の様子

実際に「にじのきらめき」を栽培した結果、「天のつぶ」では0.1ヘクタールあたりの収穫量が500キロから550キロ程度なんですが、「にじのきらめき」は0.1ヘクタールあたりの最大収穫量が660キロと大幅に超える結果となりました。また、これまでに舞台ファームでは収穫したお米の25%~30%前後が一等米として評価されてきましたが、「にじのきらめき」は、猛暑の中でも約25%前後が一等米と評価されました。さらに、日頃「コシヒカリ」を食べなれている浪江町内の農家さんからの評価も高く、今後の栽培においても期待ができる仕上がりになったと感じています。

現在私たちは、新品種の栽培だけでなく「新しい栽培方法の確立」というもう一つのミッションにもチャレンジしています。多くの方はお米の栽培といえば田植えをイメージされるかと思いますが、田植えをするためには種まきして苗を育てた状態で、その育てた苗床を田んぼに植え替える、という工程があるのです。しかし最近は、その苗を育てる工程をカットして、田んぼに直接、種をまいて生育させる「直播(ちょくは)」という栽培方式が広がりつつあります。
従来の田植えの方法は、土に対する根の活着具合が直播よりも良く、沢山の栄養が吸収できるので、米の収量も多くなるというのが一番のメリットです。それに対して種を直にまく直播栽培だと、田んぼに種まきをして、そこから芽が出て根が張るので、苗立ちの生育初期が非常に不安定になりやすいという課題がありました。一方で、苗を育てる工程をカットすることで、育苗するための管理コストも削減できますし、従来の栽培方法より作業効率が格段と良くなることで、1日あたりに種まきできる圃場(ほじょう)の面積は田植えをするよりも2倍から2.5倍にもなります。現在、「にじのきらめき」で直播栽培をしたところ「天のつぶ」と同等の量が収穫できるところまで来ています。しかし、直播するタイミングの見極めなど、まだまだ多くの課題があるので、より多くの収量を確保できるよう安定した直播栽培の確立に向けて、取組んでいきたいです。

田んぼでの作業の様子

3.民間企業でありながら研究者としてのポジションでも、世の中に貢献できる存在に

【吉永氏 インタビュー内容】
偶然ではありますが、卒業論文のテーマが稲の根だったということもあり、舞台ファームに所属しながら東北大学と根についての共同研究もしています。「美里グリーンベース」では、独自に開発した環境負荷の少ない土を使用した「ソイルブロック」での栽培に取組んでいるため、水耕栽培ではなく、土で栽培した方が良く育つことを解明しようと研究を行っています。そういった大学での研究結果を世の中に還元しながら、農業の現場を活性化させていきたいと考えています。
その中でこのように機会をいただけたのはありがたいことですし、大学生の時にはあまり研究の重要性を実感していませんでしたが、民間企業に入ってビジネスを知った後にこうやって戻ってくると、改めて研究は本当に大事だと感じられるようになりました。
その反面、大学で研究をしている際にものすごく感じるのは民間企業とのスピード感の違いです。民間の研究開発と、大学での研究のスピード感は全然違うと感じています。大学の研究では地に足つけて長い目を見てやらなくてはいけないのが一般的だということは理解していますが、一方で、やはり民間企業の視点としては早く成果を出さなければいけないという側面もあり、その中で板挟みになることもあります。そこで私のような、どちらも理解できる立場は重要なビジネスパーソンだと考えており、研究者としてのポジションで植物工場にそういった研究成果を落とし込める存在になりたいと思っています。

大学での共同研究の様子

今後の展開について食に関わるZ世代社員の想い

最後に、今後の業務において注力していきたいことと併せて、同世代のZ世代に向けたメッセージをお聞きしました。

インタビューにお答えいただいお二人
畠山氏(左)と吉永氏(右)

【吉永氏 インタビュー内容】
舞台ファームというのは、あまり経験を持っていない社員にも大きな責任を与え、そこで大きな成長をさせてもらえるような会社だと思っています。一昔前にも、感度が高い若者が未来性のあるIT業界に夢を持ち、積極的に挑戦する風潮があったように、今はグリーンテクノロジーなどが注目されている農業に将来性を感じた若者達がどんどんこの業界に流れてきていると思っています。そこで私も人間が生きていくことに直結している農業という伸びしろの多い産業において、早めに自分のポジションを確立していきたいです。
そして、舞台ファームを目指す若手がさらに増えてくるのであれば、舞台ファームはそういった若者たちを受け入れるような企業であるので強く推します。舞台ファームでなくても農業に関わる私たちのような若い世代が増えていくと嬉しいです。

【畠山氏 インタビュー内容】
今、福島において50ヘクタールの土地でお米を栽培していますが、今後はそれをさらに拡大していきたいと考えています。ですが、拡大していくとなると、人材がもっと必要になってきます。現在、お米の栽培に関わっているメンバーは最大8人ですが、そのうち私も含めて5人が20代です。今後も、そんな若手メンバーを中心にお米の栽培を拡大していけるように、栽培の技術面をはじめビジネスという観点でもスキルを向上していく必要があると思っています。今はそういった自分自身の成長を最大目標として取組みながら、最終的には若い人材だけで大規模農業を経営していくという大きな目標に向けて進んでいきたいです。

もし自分と同年代のZ世代の方で、農業に興味があるけど、一歩踏み出すまでの勇気がでないという方に伝えたいのは、農業は個人で新規就農する以外にも雇用就農という方法があるということです。たしかに農業にチャレンジする際には、機械を導入したりビニールハウスを立てたりと初期費用がかかるので、非常にリスクがあります。一方で、私のように雇用就農という形で農業の現場に携われる方法もあります。
実際に農業法人で現場に立つ経験を積んでから、独立したいというのも遅くはありませんし、トラブルへの対処法などの経験を積めることも最大のメリットだと思います。そういった働き方があるということを知ってもらい、少しでも農業に興味のある若い方が挑戦しやすい環境ができればと感じています。