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学生が社会貢献型インターンシップで直面する一次産業のリアル!「クラダシチャレンジ」でフードロス削減と地方創生を自分ごととして捉える[前編]

フードロス等、食や農における社会課題の現状を目の当たりにしたことをきっかけに、「もったいない」を価値に変え、日本で最もフードロスを削減する会社を目指して2014年に創業した株式会社クラダシ様。

廃棄されてしまう可能性のある商品を市場に提供する1.5次流通の創出など、様々な角度から社会貢献につながる取組を展開されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーでの取組として、人手不足に悩む生産者さんや漁師さんのもとへ学生が支援に行く社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」と、初開催した参加学生によるピッチイベントの様子について紹介します。

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「ソーシャルグッドカンパニー」でありつづけるために、できることから続々と

日本初のソーシャルグッドマーケット『Kuradashi』や、クラダシ基金などサステナブルな社会実現に取組んできたクラダシ様。会社概要や取組のひとつである、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」をスタートした経緯などについて、コーポレート本部サステナビリティ推進部 中野氏、佐々木氏、齊藤氏、齋藤氏にお伺いしました。

株式会社クラダシ
コーポレート本部サステナビリティ推進部
(左から、佐々木氏、齊藤氏、中野氏、齋藤氏)

【インタビュー内容】
2014年に創業したクラダシは、今年でちょうど10周年を迎えました。代表取締役会長である関藤が世の中にある社会課題の解決を目指して設立した弊社は、「日本で最もフードロスを削減する会社」をビジョンとして、2024年現在で65名ほどの社員と一緒に活動しています。

創業のきっかけは、弊社代表が阪神淡路大震災を経験したことが始まりでした。テレビから流れてくる映像を観ながら「自分に何かできないか」と考え、バックパックに荷物を詰めて現地に行ってみたものの、帰ってくるころには「1人でできることの限界」を痛感したそうです。そこで「社会人になったら、困っている人を助けられるような持続可能な仕組みを作ろう」というクラダシの根本となる考え方が生まれました。また、1998年から2000年にかけて、駐在員として中国で勤務する機会があった際にフードロスが生まれる社会問題の原型を目の当たりにして大きな衝撃を受けたそうです。野菜を加工する工程で本来は食べられるのに不揃いだったり、パッケージに問題があったりといった理由で大量に廃棄されてしまう食品の実情を知り、「これではいつか資源が枯渇してしまう」、と。そこで、持続可能な社会をつくるためには、まずは楽しく気楽に参加できる仕組みづくりが必要と考え、現在のような取組を展開してきました。

私たちは、「楽しいお買い物で、みんなトクするソーシャルグッドマーケット」を目指して、『Kuradashi』というお得に商品が購入できるショッピングサイトを運営しています。規格外だったり、印字ミスや賞味期限間近だったり、お店では売れなくなってしまった商品を協賛価格で提供いただき、クラダシのユーザー様に購入していただくというシステムです。さらに、購入いただいた金額の1%から5%は、社会貢献活動への支援に充てています。ユーザーページも工夫していて、購入金額のうちいくらが社会貢献活動への支援金になったかという確認や、購入金の支援先も自分で選べるようになっています。支援先については、環境保護や動物保護、災害支援など、SDGs17の目標に当てはまる団体を揃えていて、ユーザー側で支援先を選択しなかった場合は、クラダシ自らが社会貢献活動を行うためにつくられた「クラダシ基金」へ支援される仕組みとなっています。このように自分の行動がどれくらいの金額で、どういったところに活用されているのか、というのを可視化できる仕組みは、『Kuradashi』の大きな特徴だと思っています。この取組には多くの人が賛同してくださり、2024年9月時点で会員数は56万人、商品を提供してくださるパートナー企業は1900社にまで成長することができました。また、これまではオンラインのみで販売をおこなっていましたが、2023年には神奈川県のたまプラーザと千葉県の木更津に実店舗を構え、さらに多くの消費者にご利用いただけるようになりました。

ソーシャルグッドマーケット『Kuradashi』のサイト

先ほど、支援先の一つとして紹介した「クラダシ基金」は、地域経済の活性化や社会発展に寄与するために設立された支援金制度の一部です。ここに集まったお金は、地方創生事業やフードバンク事業、教育事業などに充てており、その活動のひとつに、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」(以下、クラチャレ)という取組があります。

クラチャレは、大学生が人口減少や少子高齢化等による人手不足に悩む生産者のもとへ訪れ、現地での農業体験などを通じて、未収穫となっていた一次産品などのフードロスを削減することを目的に始まりました。これまでの参加者は、地方創生やフードロスなどの社会問題の解決に興味関心の高い学生が多く、現地での体験を通して現場のリアルを知ることは、大きな学びや経験となり、また、人手不足に悩む生産者や漁業者へのサポートにも貢献できていると感じています。インターン先では実際に様々な課題を抱えている生産者や漁業者の元で、農作業や漁業で力仕事をするだけでなく、自治体の関係者の方と意見交換をしてその地域の課題について考える時間なども設けています。

Z世代の大学生たちが本気で地域課題に向き合った、1年間の集大成

5年目を迎えた2024年度のクラチャレと、今年初めて開催した参加した学生たちによる地域の現状や課題を自分事として考え、食と地方創生の未来へのアイデアを競うピッチアワードについて、お話を伺いました。

1.クラチャレ初の10地域でのインターンシップとピッチアワードを開催!

【インタビュー内容】
クラチャレは現在までに45回以上開催しており、合計で約300人以上の大学生に参加いただきました。昨年までのインターンシップ先は、1グループ1地域のみで行っていましたが、今年度は1グループにつき2地域として、日本各地の10か所に5チームが参加し、農業や漁業などの現場体験をしてきました。
また、今年は「クラチャレ ピッチアワード」という新たな取組も実施しました。現地のインターンシップで、得た知識や感じたことをもとに、フードロスの削減やその地域の魅力発信から関係人口を増やす、というテーマに沿って、チームごとに施策案を発表してもらうというアウトプットの場を設けたのです。
このようにピッチアワードを開催することで、現地での活動終了後も継続的に地域課題の解決に取組む、というような年間プロジェクト形式で実施できたと思います。

ピッチアワードでは、5チームがそれぞれ発表を行い、参加いただいたオーディエンスの皆さんと、審査員の厳選な審査により投票が行われ、提案内容の良さだけでなく、実現性の高さなども含めて総合的に一番評価の高かった、グループ5の「クラチャレ拠点KCB」という施策案が表彰されました。
審査員の評価ポイントとしては、各地域それぞれの課題解決、地方創生、そしてフードロス削減にも貢献しながら、さらにこの3つを継続していくことができる仕組みをつくっていくという点が、高く評価されていました。このクラチャレだけの取組で終わらせずに、継続的に取組んでいくことが本当の意味で地域に貢献していくための重要な視点であるという審査員からのコメントもありましたが、優勝チームだけでなく、他の4チームに関してもぜひ、今後も継続的に各地域や場合によっては企業との連携を通して、提案施策の実現に向けて取組を継続してくれたら嬉しいですね。それが、クラチャレの開催意義にもつながると思っています。

今年開催したピッチアワード

今回、惜しくも優勝は逃してしまいましたが、真剣に社会課題に向き合った4チームに、クラチャレに参加した感想、今回の経験が今後の進路や就職活動に対してどのような影響があったかなど、チームの代表メンバーに伺いました。

グループ1の皆様

【インタビュー内容】
グループ1 発表テーマ:「石垣ポケットパイン」
小林氏:私のグループのインターン先は、沖縄県石垣市と愛媛県宇和島市でした。石垣市ではパイナップルの収穫体験を、宇和島市では真珠養殖・加工に関する作業と商品開発などに取組みました。自分たちが収穫したパイナップルを実際に食べてみたり、収穫した真珠でアクセサリーを作ってお土産としていただいたり、たくさんの素晴らしい思い出を作れました。一方で、体験した作業はどれも普段はやったことがない、初めてのことばかりで、大変でした。慣れない作業に加え、石垣島では早朝から作業が始まり、日中は炎天下の中で、作業は夜まで続くので、特に体力面は厳しかったです。ですが、こういった体験をしたからこそ気づけたことがたくさんありました。例えば、パイナップルは出荷できるようになるまでに約2年間もの時間がかかる果物なのですが、一玉300円~400円くらいで販売していたり、規格外になってしまって正規の値段で販売できないこともあるんです。そういった現場を目撃して、どの農作物も手間暇かけて育てていることを実感し、現在売られている食材の価格は本当に適切なのか、と疑問に感じるようになりました。

ピッチアワードでは、特産品としてアピールしているような石垣産のお土産が少ない、という点に着目して廃棄パインの活用に関する提案を行いました。本来は廃棄されてしまうような小さなサイズのパイナップルを、『ポケットパイン』というキャッチーなネーミングを付けて、お土産商品として空港などで販売することで、フードロスの削減にも貢献できますし、このような特産品を県外にアピールすることで、観光客の増加も見込めるのではないか、と考えました。
これは、他地域への応用も可能だと思うので、こういったアイデアがもっと普及すると地方の関係人口も増えるのではないかと可能性を感じています。

パイナップル農園での作業

私は大学では、薬学部を専攻しているのですが、将来は薬剤師免許を取って、薬剤師になるか、もしくは製薬会社に就職したいと考えています。今後の進路としては、直接的に食や農に関係する道ではないのですが、自分で社会課題に向き合うクラチャレへの参加を決めて、ピッチアワードという最終報告会まで頑張り抜いたという経験や行動力を、社会人になっても持ち続けたいです。そして、クラチャレで何を成し遂げたかということよりも、どうして「やってみたい」と思ったのか、という動機のところは今後も意識しながら、社会人となっても忘れずに活かしていきたいと思います。

グループ2の皆様

【インタビュー内容】
グループ2 発表テーマ:「もったいないをおいしく!学生と地域のフードレスキュー大作戦」
山口氏:私たちは、新潟県新潟市では、桜桃(さくらんぼ)の収穫、選果、出荷作業、北海道仁木町では、くろさき茶豆の収穫・選果・B品加工の体験などをしました。インターンシップの中で楽しかったことは、収穫体験です。商品として販売できない熟しすぎた果物のことを、うるみ果っていうのですが、そんなうるみ果となってしまった桜桃を収穫して食べた経験は特に印象に残っていて、貴重な体験でした。なぜ印象に残っているかというと、このうるみ果がとても美味しかったんです。美味しいのに熟しすぎてしまったなどの、様々な理由で世の中に出せない果物もあるという課題を知った時に、自分自身が何かできることはないか、と考えました。
そこで、そんな状況を変えられないかと、学生や地域企業・自治体と連携して、足が早い果物や販売できない農作物などを、パウンドケーキやZ世代にもうけが良い洋菓子を中心に加工品として活用するというアイデアを提案しました。食品ロスの削減の他に、食材のブランド価値も下げることなく、さらに若者をターゲットにすることで商品の拡散力もあるという点が提案のポイントでした。

桜桃の収穫作業

私は今大学4年生なので、既にデジタルマーケティングの会社への就職が決まっていますが、それと並行して、大学生の時に起業して都内で展開している福島県産のお米を使ったおむすび屋さんについても継続して、二足のわらじとして両立できたらいいなと考えています。インターンシップでは、各地域3日間と5日間のみ体験でしたが、生産者さんは朝早くから毎日同じ作業を繰り返していて、農業を仕事として取組むということの大変さに気づかされました。それと同時に、自分たちが普段スーパーで目にする農作物が店頭に並ぶまでに、どのような課題や苦労があって生産されているのか、というストーリーが見えていない現状があるのではないかという気づきもありました。そこをもっと訴求できるような仕組みが、これからの時代に大切になってくるんじゃないかと感じています。なので、特に地域創生という文脈でスタートしたおむすび屋さんについては、このインターンシップでの気づきを大切に生産者さんのストーリーについても伝えていけるような仕組みを検討していきたいです。

グループ3の皆様

【インタビュー内容】
グループ3 発表テーマ:「15日後にお家に帰る三笠君」
野尻氏:自分たちのグループは、スケジュールの関係もあり北海道三笠市の1地域しか参加できていなくて、もう1つの地域である長野県松本市に関しては11月上旬に行く予定です。自分が東京生まれ、東京育ちで地方に行ったのは初めてということもあり、まず現地に訪れた時は、地方には「こんなに魅力があるんだ!」と、感動したことを覚えています。このインターンシップに参加したことで各地域それぞれにしかない魅力の発見やそれを知ることができたのは、とてもプラスになりましたし、なにより楽しかったです。

インターンシップ先では、「三笠メロン」というブランドメロンの収穫などを行ったのですが、体力に自信があった私でもきつかったのに、人手不足という課題から、その作業を行う生産者さんは高齢者の方が多かったんです。それを解決するために、機械を導入すれば良いのではないかと思いましが、ビニールハウスのサイズに合わせた機械を準備すること自体が大変らしく、そういった問題は現地でリアルな声を聞かなければ気づけないんだな、と痛感しました。一つの作物にかける労力って、とても大きなもので、新しいものを生み出すって、すごく大変なことなんだと学びましたね。

北海道には、「夕張メロン」や「富良野メロン」などの有名ブランドが多くあり、私たちが収穫した「三笠メロン」は、特に道外の方からの認知度が低いという課題もありました。実は、「三笠メロン」は、「夕張メロン」に負けないくらいの糖度があり、でも値段は安価という言わば穴場物件的な存在なんです。一回味わってもらえれば、その魅力に気づいてもらえると考えた私たちは、15日間限定でメロンやそれを使ったジェラートなどを販売するキッチンカーを展開して、待つのではなくこちらからメロンを届けに行ってファンを増やしていこう!という提案をしました。

メロン農園での作業

私は今、文学部の3年生で、メディアや広告関係の業界を目指して就職活動中なのですが、これから社会人として仕事をしていくうえで、大切だと思うことをクラチャレで学びました。それは、実際に現場へ足を運ぶということです。参加前は、農作物の認知を上げるための1つのアイデアとして、地域を観光地化して人を呼び込むのが良いのではないかと考えていましたが、実際に市役所の方にお話を聞くと、観光客が増えすぎても自分たちは受け入れきれないから、札幌や富良野の中継地点として発展していきたいとおっしゃっていたんです。実際に現地の方の話を聞いて、その方たちが実際は何を望んでいるのかを正確に把握しないと、一人よがりなものになってしまうと感じ、これからは、どんな道に進むとしても、実際に現場へ飛び込むという姿勢は大切にしようと思っています。

グループ4の皆様

【インタビュー内容】
グループ4 発表テーマ:「新規就農者のための移住ツアー」
萩原氏:自分たちは、鹿児島県喜界町では、マンゴー収穫支援や販売など、島根県益田市ではなしの収穫作業などを行いました。その中でも印象に残っていることは、とにかく人が暖かく、優しいということです。例えば、喜界島ではお店に行ったらたくさん話かけてくださるんです。人に対して興味をもって話しかけてくれるところが、東京とは大きく違って新鮮でしたね。
農作業の体験では、傷をつけないように丁寧に収穫して、私が思っている以上に重いものを日々運んで、とものすごい労力がかかっているものだということが、よくわかりました。また、大量のフードロスが出ている現実も目の当たりにしましたが、「それでも、こんなに愛情を込めて農作業に取組めることは、すごいことだ」と素直に尊敬の念を抱きました。
そんな素晴らしい人たちが作っている美味しい農作物が、人手不足によって、今後も続けていく事が難しくなっているという現状に危機感を覚え、そういった課題を解決できるようなピッチテーマを考えました。自分たちもそうですが、もし農業をやってみたいと思っても、どこで、どうやってやるのか、と取組めない方もいるのではないかと考え、移住先での就農を見据えた、新規就農者を対象としたツアーを提案したのです。

なしの収穫作業

インターンに参加してからは、より「いただきます」という言葉に感謝を込めるようになりました。今までも、もちろんご飯を残さないようにしていましたが、クラチャレに参加したことで、食べ物を残してはいけないということを本質的に理解できた部分もあると感じています。自分だけでは中々行動には移せない部分もあるけれど、まずは、食材をはじめそれに関わっている全ての方への感謝の気持ちをしっかり持つなど、できることから行動していきたいです。

私は大学4年生なので、既に進路が決まっていますが、クラチャレで培った行動力はどんな場面でも活かすことができると思っています。参加を決めたこともそうですし、現地でもアクティブに動いたからこそ、皆さんも腹を割って、現状の課題だったり色んなお話も聞けたと感じています。

後半では、優勝したグループ5の皆さんにお話しをお聞きしました。ぜひこちらからご覧ください。