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各地の国産果実を応援したい!クラフトチューハイから社会貢献を目指す[Vol.3]

1842年に京都・伏見で創業、現在は宝グループの国内事業を担い、焼酎や清酒などの製造・販売を行う宝酒造株式会社様。缶チューハイのパイオニアでもある同社は、「各地の国産果実をうまく活用して、日本の産地を盛り上げたい」との想いから、チューハイを通じた生産者と消費者をつなぐ取組を継続して実施されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの活動として、クラフトチューハイを通して、廃棄されていた果実の新規需要を生み出す取組について紹介します。


千葉県でご当地果実を使用した初めての『寶CRAFT』シリーズの商品化に向けて

「全国の素材の特徴や個性を活かしたチューハイを造りたい」という想いから2017年9月に地域限定のクラフトチューハイ『寶CRAFT』を立ち上げた宝酒造様。2018年5月から発売している『南房総レモン』での取組について、ニッポンフードシフト事務局も生産者さんを訪問させていただき、宝酒造株式会社 商品第二部 企画課 松岡 紘平氏にお話をお聞きしました。

宝酒造株式会社
商品第二部 企画課
松岡 紘平氏

【インタビュー内容】
松岡氏
これまで、『寶CRAFT』で取り扱ってきた果実は、各地域の営業担当者からこういった果実があるよという情報が入ってくるところから始まります。今回ご紹介するクラフトチューハイ『南房総レモン』についても、営業担当者が「千葉県の鴨川でレモンを栽培している」ということを知り、「このレモンを使用したクラフトチューハイを商品化できないか」と商品部へ話があがったのがこの果実に着目したきっかけでした。そこから商品部でもリサーチをして、出会ったのが鴨川レモン組合の皆さんでした。
2017年9月に『寶CRAFT』シリーズを発売して以降、東京圏では、小笠原島レモンや埼玉越生ゆず、小田原レモンを使った商品を開発してきました。しかし、千葉県の素材を使った商品を開発できていなかったことからも、千葉発の『寶CRAFT』の商品化を実現し、その魅力を伝えていきたいという想いがありました。そこでリサーチを行い、出会ったのが鴨川レモン組合の皆さんでした。実際に現地にも視察訪問したり、関係性を構築したりする中で、鴨川レモンもブランド拡大を進めており、鴨川市にとどまらず南房総エリア全体で盛り上げていきたいと考え、『南房総レモン』という商品名で開発を進めていきました。

クラフトチューハイから、生産地を守る!地元素材「鴨川レモン」を活用した商品開発

千葉県鴨川市でレモンを栽培していた生産者が集まり、「丸ごと皮まで食べられるレモン」を作りたいと2017年に結成された鴨川レモン組合様。今回は組合の中から代表して、古泉 康夫氏と永井 茂樹氏に栽培されている「鴨川レモン」についてお聞きしました。

今回取材にご協力いただいた皆さま
(中央左:鴨川レモン組合 古泉氏、中央右:同 永井氏)

1.生産者が酒造メーカーと取組む!国産果実から地域経済の活性化を目指した挑戦

【インタビュー内容】
古泉氏
千葉県鴨川市には鴨川レモン組合の前身としてレモン栽培の勉強会としてレモン研究会という集まりが安房農業事務所の支援もいただき2010年に始まりました。その後2017年に実際にレモンを生産・販売をしていた数名で鴨川レモン組合を発足しました。現在はレモン研究会には20名以上のメンバーが在籍していてレモン生産者になることを目指して研鑽を続けています。元々、鴨川は海底が隆起してできた土地で、新潟県の魚沼地方と同じ蛇紋岩(じゃもんがん)というミネラル分が豊富に含まれている土壌なので、魚沼産コシヒカリのように美味しいお米ができる地域なんです。そんな土地柄で、レモンを栽培したら他とはまた違う美味しいレモンができるのでは? という発想からレモンの栽培を始め、結果としてそれが大正解だったんです。
この様な土地で私たちが栽培している「鴨川レモン」は、程よくまろやかな酸味に豊かな香りとコクを持っていて、輸入レモンと比べると酸味が尖(とが)っていないことでファンを増やして来ました。さらに、ポストハーベスト(防腐剤)は未使用でさらに農薬を極力使用せず、また使用している農薬も通常の半分以下(ちばエコ認証)のため、皮まで美味しく食べることができるという特徴があります。
この「鴨川レモン」は、まだ皮が緑色のいわゆるグリーンレモンと呼ばれる10月半ば頃から収穫を始めます。普段スーパーなどで買い物をしていてもグリーンレモンを見かけることはあまりないと思いますが、実は一年で最も香りが良い時期に収穫されるのがグリーンレモンです。グリーンレモンは果汁の多いL玉を選んで収穫します。その後、12月中旬頃から店頭でもよく見ることができるイエローレモンが収穫できるようになります。寒さで実が凍ってしまうと商品にならないので、その年の気候次第ですが、ここ数年は2月~3月初旬までに収穫をしています。

レモンの収穫作業

また「鴨川レモン」は、より上質なものを消費者の皆さんにお届けできるよう、収穫に関しても一つ一つ丁寧に手摘みで行っています。そのため、年間数千トンも収穫する「広島レモン」と比べて、鴨川レモン組合全体の収穫量は年間約20トン程度なんです。
今でこそ、多くのレモンを収穫して出荷することができていますが、栽培開始当初は最低でも2割から3割、ひどい時には半数以上のレモンが規格外品や果皮表面のキズが理由で売り物として扱えないために廃棄されていました。
そんな時に出会ったのが、宝酒造さんと日本果汁さんだったんです。果実の表面にキズがあると店頭では売れにくくなりますが、正直、果実の表面が汚れていても味は一緒でなんの影響もありません。生の果実そのものを出荷するだけでなく加工品としても商品化できれば、本来であれば廃棄していたレモンも上手く活用することができるので、一番理想的な形ですよね。なので、最初に自分たちが生産したレモンがチューハイになると聞いたときは、素直にありがたいと感じました。
実は、チューハイの商品化の前から地元企業と連携してレモンを使ったお菓子を商品化し、現在も販売しているのですが、新たに宝酒造さんや日本果汁さんが入ってきてくれたことでより安定的に栽培を続けられています。収穫頻度も昔より増えて、今は1週間に2~3回程度、3~4軒の生産者で毎週約200キロ~300キロほど出荷するほどになりましたね。

1回の作業で収穫するレモンの量(1カゴ約20キロ)

2.千葉県鴨川発!寶CRAFT『南房総レモン』発売

【インタビュー内容】
松岡氏(宝酒造)
南房総の温暖な気候と降り注ぐ太陽光をたっぷり浴びた「海と太陽のレモン」というブランド名も付けられている鴨川のレモン。そのレモンをまるごと搾った爽やかな香りとまろやかな酸味が楽しめて、鴨川市にとどまらず南房総エリア全体で盛り上げていきたいという想いを表現したクラフトチューハイが『南房総レモン』です。
『南房総レモン』は、2018年の5月から販売しているのですが、発売までに1年ほどかけて開発をしました。まずは生産者さんを見つけるところから始め、いつから果実を収穫して、どうやって加工していくのかなどを決めた後に、1~2ヵ月の期間をかけて、最大限に生かせる味わいになるように試行錯誤しながら商品開発を進めました。それと並行して商品のパッケージデザインについても、南房総の自然豊かなローカル感が出せるように、緑や青などを基調にバックには海をイメージしたデザインを考案しながら、チラシや店頭で置かれるPOPなどを作成していきました。やはり最大のこだわりは、味わいです。宝酒造が厳選した約2万樽・約85種類の樽貯蔵熟成焼酎の中から、どの組み合わせが一番合うのか様々試した結果、レモンペーストを使用した程よいピール感のある味わいに、まろやかな酸味と豊かな香りという素材の特徴をしっかりと反映できた商品に仕上がったと思います。

『寶CRAFT<南房総レモン>』

古泉さんからもお話がありましたが、商品化に向けて生産者さんとやり取りをさせていただく中で、せっかくレモンを収穫しても規格外品や果皮表面のキズが理由で廃棄されてしまうものを見てきました。形やキズなどを問わないチューハイに加工すれば、農家さんが大切に育てられた作物を無駄なく利用することができますし、ご当地のお酒として通年発売することで、果実のPRにも繋げていきたいという想いがありました。それ以外にも、定期的に訪問する中で、レモンの他、『夏みかん』の実はなっているものの、使い道がなく収穫自体やめてしまう生産者さんが多くいらっしゃるということを知りました。何とかできないかと考えたのち、『南房総レモン』の発売から1年後に『南房総夏みかん』を発売するなど、こういった課題に対して新規需要を生み出していくことこそが、『寶CRAFT』で各地の果実を使った商品を出していくことの意義につながっていると感じています。

永井氏(鴨川レモン組合)
販売されている一般的なチューハイはレモンの香りがする程度だと思いますが、『南房総レモン』はそのレモンの濃さが違います。一口飲んだだけで、レモンが入っているなと感じられる味わいなんです。元々「鴨川レモン」は、料理や飲み物の場面で素材の味を引き立たてる日本人の繊細な味覚に合うレモンなので、レモンサワーの独特な酸っぱさが苦手な人でも飲みやすいのではないかと思います。
やっぱり、自分たちが栽培したレモンがクラフトチューハイとして世の中に出ていくというのは、嬉しいですね。皆さんからも美味しいという声だったり、評判が良いと聞くと「この商品に使われているのはうちのレモンだよ」って胸を張って言えます。そういう意味では、「鴨川レモン」は地元でもまだまだ知名度は高くはありませんが少しでもメジャーになってきたような気がしています。

松岡氏(宝酒造)
『寶CRAFT』シリーズは地域限定の商品なので、地域に根差した商品となるように使用する果実それぞれの地域のグルメや嗜好性に合わせた味わいに仕上げることにもこだわっています。『南房総レモン』『南房総夏みかん』は東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県・山梨県のエリアのみで販売しているのですが、南房総のご当地グルメとして「もつ焼き」や「アジのなめろう」に合うような味わいに仕上げているので、機会があればぜひ試してみてほしいですね。

「鴨川レモン」の今後に向けた展開

宝酒造様としての今後の展望や「鴨川レモン」のこれからについてお聞きしました。

【インタビュー内容】
松岡氏(宝酒造)
宝酒造としては、大きく2つの目標があります。1つ目は、「鴨川レモン」をはじめ、多くの生産者さんが高齢化や人手不足の問題を抱えていらっしゃるので、まずは私たちのような現場を訪れる人間が収穫のお手伝いをさせていただくなど、微力ながら支えていければと思っています。最近では、収穫応援という形で社員から収穫ボランティアを募って少しでも生産者さんの負担を減らせるような取組を始めました。募集を開始するとすぐに希望者が集まり、社会課題の解決や農業の現場に興味がある人が多いのかなと感じています。一方で、我々だけでの力では根本的な問題の解決にはならないので、社内での取組をヒントに、一般の方たちにもお声掛けして、地域の農業に興味がある人と、人手が足りていない生産者さんとのマッチングみたいな仕組みをつくっていけたらいいなと考えています。
そして2つ目は、クラフトチューハイをきっかけに加工品に興味を持つ方を増やしていきたいと考えています。宝酒造1社だけの活動では根本的な産地の活性化には繋がっていかないので、様々な企業が地域の果実を使った加工品を開発していく流れを作り、果実のブランドを盛り上げていけたらいいですね。

自分自身、こういった仕事に携わる中で、チューハイづくりってもはや農業なんじゃないかと思うようになったんです。果実の栽培が入口だとすると、加工して商品化する我々は出口を担うポジションなので、生産者さんが安心して果実が生産できるのも安定的な出口があってからこそだと思います。なので、今後も沢山の人と一緒になって『寶CRAFT』という国産果実に着目した商品を育成していきたいです。

永井氏(鴨川レモン組合)
先ほども話があったようにレモンは10月~3月くらいが収穫の時期なので、収穫ができない夏場にもレモンを出せるようにしたいと考えています。例えば、寒くなると実が凍ってしまいますし、また実を付けたままにすれば木が痛みますので果実を木から落としてもそのまま放置していたんですが、それを凍る前に収穫して貯蔵できるようになればいいなって。一番は1年中レモンを出せるようになればいいんですけど、それには冷凍技術や設備投資も必要になる、しかしその設備投資に対して果実の価格はそんなに高いものには出来ません。ですからなかなか手が出せない、そこがまた難しいところですね。逆に『南房総レモン』として加工した商品を販売してもらうことで、レモンを収穫できない時期とのギャップを埋める役割を担ってくれているのは助かります。

「鴨川レモン」には、国産という優位性があると思います。例えば、輸入レモンは長い時間をかけて日本に入ってきますが、ここで栽培しているレモンは今週収穫したばかりの果実を消費者の元に届けることが可能です。それだけ鮮度の高いレモンなので、レモネードをつくってみるとか家でも簡単に加工できると思うんですよ。そういうのをつくるのもやはり新鮮なレモンを使う方が美味しくできると思うんです。
昔は国産より輸入品の方が安かったけど、最近は円安の影響もあり輸入レモンと国産レモンの価格差も少なくなっています。なので、これまであまり国産レモンを手に取ってこなかった方にも国産レモンを買って試してみてほしいです。やはり生産者としては、積極的に国産を選んで買ってもらえると嬉しいですね。
冒頭の鴨川レモン発足のコンセプトでもある「丸ごと皮まで食べられるレモン」は皮まで使うレモンだからこそのこだわりなんです。

「鴨川レモン」が栽培されている農園

【編集後記】
今回、取材をさせていただくにあたり、ニッポンフードシフト事務局の担当者も、「鴨川レモン」の収穫のお手伝いをさせていただきました。人生初めての農作業、そして初めて生産者さんと交流させていただき、普段何気なく食べている作物がどのように育てられているのかを学ぶ貴重な機会となりました。

まず現地に到着して一番初めに驚いたのは、1本の木に実っているレモンの数と、広大な敷地でした。そして、そんな木になっているのは、色々な形や色をしていて、普段お店で見るサイズよりもかなり大きいレモンたち。早速、収穫のお手伝いをさせていただくと、低い位置にあるレモンは中腰になりながら、逆に高い位置にあるレモンは腕を目一杯伸ばして収穫しなければならず、たった数時間の作業でしたが翌日は筋肉痛になるほどでした。この作業を60代~80代の生産者さんが難なく作業されている姿を見ると、いつも美味しいものが食べられているのは本当にありがたいことだなと、実感しました。やはり、どれほど大変な作業なのかは実際に体験してみないとわからないですね。
また、今回の体験で特に印象に残っているのは、生産者さんの農作物に対する思いです。「味は一緒なのにキズがあれば売れなくなってしまう」というお言葉、確かに自分が収穫したレモンとこれまで店頭で目にするレモンを比べると、色や形、そして見た目がどれだけ選ばれたものが並んでいるんだと気づかされました。
今回は、「鴨川レモン」でしたが、どの食材にもその裏側には生産者さんがいて、それぞれが様々な課題と向き合いながら消費者のために生産を続けてくれていることは、当たり前ではないということをお伝えしたいと思いました。今では買い物の際に、積極的に国産品を手に取り、そんな食材一つ一つにあるストーリーを考えている自分がいて、これまでとは違った視点で食材を見られるようになったことは、この体験を経たからこそだと思います。
このような機会を調整いただいた宝酒造様、そして快く取材と収穫体験を受け入れていただいた生産者の皆さま、どうもありがとうございました。