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農林漁業の発展を支えるモーターサイクル企業の取組[Vol.3]

創業以来60年以上にわたり、ものづくりやサービスを通じて多様な価値を創造する「感動創造企業」として、日本だけでなく世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供されてきたヤマハ発動機株式会社様。

オートバイ等の輸送用機器にとどまらず、漁船や和船、産業用無人ヘリコプター等、農林漁業が抱える課題解決を目指し、製品の開発・製造を行い、日本の食の未来を支える取組を展開されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの、実際に農業や漁業に携わる若い社員の食に対する考え方・想いやフードシフトな取組をご紹介します。


若い世代の食や農への取組・想い

モビリティの技術を生かして様々な領域に事業を展開されているヤマハ発動機様。今回は農業や漁業の分野に携わる、クリエイティブ本部プロダクトデザイン部の武石 真里氏、マリン事業本部北海道販売(インタビュー当時)の森悠 起氏に、入社に至った経緯、現在の業務、食や農に対する想いなどについてお伺いしました。

ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部プロダクトデザイン部
武石 真里氏

【武石氏 インタビュー内容】
学生時代はデザイン学科を専攻し、その中でも家電や自動車などのプロダクトデザイン、インダストリアルデザインを勉強しておりました。ヤマハ発動機のメイン商材は二輪車のモーターサイクルが有名ですが、漁船や車いすなど人の生活を支えるスローモビリティに携わりたいという想いから、当社へ入社しました。

現在は二輪車以外の製品を担当する部署で、農業機器やマリン製品である漁船やレジャーボートなど、幅広い製品のデザイン・スタイリングに携わっています。業務で行っているデザインは、一般的にイメージされる製品の形やカラーリングを考えることに加えて、求められる製品の機能を訴求できる形状を創り上げることも主な役割です。通常の製品デザインに加えて、製品がどのような価値を持ち、どのように発信すべきかを考えることも当部署のミッションとなっています。

実際にデザインを担当した製品
(左)果樹園作業支援自動走行車のコンセプトモデル
(右)車いす用スポークカバー

初めて携わる業務が多いため、日々沢山の課題に挑戦しています。使った事が無い車いすの仕様検討や、農作業の経験がない中で農業機器に携わるなど、自分の知らない分野に携わる事が多く、製品の使い方やその仕事などをゼロベースで勉強を始める事が求められます。大変ではありますが、新たな考え方や視点が身に付き、やりがいを感じて日々を過ごしています。また、机上だけではなく、実際に現地に赴いて、ユーザーのお話を直接聞き、良い点・悪い点を肌身で感じる工夫をしております。山形の果樹園で農業機器の試作検証をした際に、製品のフィードバックをお客様から直接伺う機会がありました。現地で感じたことは、愛用されている製品は昔ながらのものが多く、技術の新しさだけではなく、使いやすさ・使い心地も重要な要素であるということでした。現地での経験を経て、想像だけではお客様にご満足いただくことは難しいと感じ、お客様に密着した製品づくりを心掛けるようになりました。

果樹園における農業機器の試験検証の様子

業務を通して、新たな食への関心も芽生えています。現地でしか作られていない果物の品種を初めて見た際に、日本にはまだまだ自分の知らない品種があることに気が付きました。山形でクイーンニーナというブドウの品種を食べた時、これまで食べたことの無い味に感動し、実家にも買って持って帰ったこともありました。このような体験を通して、日本の食をもっと知りたいと感じられたことは、農業製品に携われたことがきっかけになっています。

ヤマハ発動機株式会社
マリン事業本部北海道販売(インタビュー当時)
森 悠起氏

【森氏 インタビュー内容】
大学では教育学を専攻していました。専攻よりも行きたい大学を優先したので、教師になりたいという訳ではなく、専攻自体も現在の業務に必ずしも直結はしていませんが、結果的に希望する仕事を選択することができました。当初から、好きなことを仕事にすることで、自分の力を存分に発揮できると考えており、釣りや海に元々興味があったことが、ヤマハ発動機のマリン事業を目指すきっかけの一つでした。大学時代はバックパッカーとして世界中を旅しており、そこで自分の職を決める大きな出来事がありました。南米アマゾン川の奥地へ行った際に、現地の秘境でヤマハ発動機の船外機(船体の外側に取り付ける取り外し可能な推進用エンジン、主に小型用ボートに用いられる)を見たのです。アマゾンの奥地で日本の技術が使用されているのを見て感銘を覚えると同時に、ヤマハ発動機に入社すれば、 “またこの地に戻って来ることが出来る。新たな冒険の景色を見ることが出来る”と思い入社に至りました。東京の学生生活で満員電車が苦痛であったことも、静岡で働けるヤマハ発動機を選んだ理由の一つです。

バックパッカーとして世界中を旅した学生時代

マリン事業本部ではプレジャーボートから漁業向けの漁船まで幅広く製品を提供しております。プロである漁師の方々への営業は専門的な知識を求められ、私自身のキャリアプランに合致したこともあり、現在の北海道での漁船営業を希望しました。当社の営業は代理店を通した製品提供が基本となっておりますが、漁船の場合はオーダーメイドの必要性が出てくるため、実際に漁師さんのところへ伺い、一つ一つ仕様の打ち合わせを行います。ニューモデル開発の際には、実際に操業体験を通して要望を伺いながら、船を創り上げる長いプロセスを経て完成に至ります。

お客様の要望は多岐にわたり、例えばブルーワーク(船側面の手すり)の高さを数cm単位で調整の要望がある場合は、大変なカスタマイズの一つです。また、各地域・各漁港で装備品、使用機器、呼び方などが違っているため、それらを日々勉強しながらの営業は大変な苦労を感じています。お客様の要望にできるだけ応え、社内の課題にも対応しながらものづくりを工夫しており、チャレンジングな毎日を過ごしています。

お客様の進水式に同行した際の様子

漁船関係の仕事を始めて、食に対しての変化が生じてきました。漁師さんの仕事を見ていると、捕った魚介類に付加価値を付けるために努力されていることに改めて気づきます。漁獲してから単に持って帰るのではなく、船上で鮮度を保つ処置を施すと美味しさが長持ちし、価格的にも2倍~3倍の差が生じるのです。そういった漁師さんの努力によって私達の食が支えられていることに気づけたのは大きな経験で、一人暮らしを始めたこともあり、できるだけ食事を残さないように、長持ちする食材や調理などに気を配るようになりました。

若い世代が取組むそれぞれのフードシフト

日々の業務やプライベートの生活の中で生じたフードシフトな取組についてお伺いしました。

1.業務を通して始めた旬な食材選び

【武石氏 インタビュー内容】
社会人となり一人暮らしを始め、自炊のためにスーパーで買い物をすることが増えています。今まではあまり気にしていませんでしたが、その季節の旬の食材をできるだけ使うようになり、個人的なフードシフトな取組になっています。理由の一つに、フードロスへの関心から、食材は美味しい期間になるべく食べるべきという想いが芽生えたからです。日本には四季があり、様々な旬の食材を贅沢にも楽しめる豊かな国であることに改めて気づき、是非味わうべきと感じています。業務の中で果樹園の農家さんと触れ合い、果物の仕分け、季節や状態によって細かく扱い方を変えるなど、果物一つに様々な意味が詰まっていることを肌で感じたことが、食材選びを見直すきっかけになりました。

果樹園向けの農業機器開発をするにあたり、元々は日本における自給率の低さを課題としておりましたが、より農家さんの作業効率の向上や負荷軽減に向けて取組んでいる事も、企業としてのフードシフトな取組になっていると考えています。

訪問先の果樹園で採れた果物

2.改めて感じる「食」のありがたみ

【森氏 インタビュー内容】
北海道の漁業組合では、資源保護と付加価値向上のために漁の工夫をされています。例えば北海道で一番漁獲量の多いホタテについては、オホーツク海側では5月~11月に捕り、根室方面や噴火湾側では冬季に捕るなど、場所と時期を変えて北海道で年中漁獲しつつも、資源を保護するような取組をされています。私達の食を支えるために、漁師の方々の様々な工夫・努力を身近に感じ、自身の食についても深く考え、改めてありがたみを感じるきっかけとなりました。

北海道の漁師による漁の様子

食や農に対する同世代へのメッセージ

今後の業務において取組みたいこと、また同世代の方々へ伝えたいことについてお聞きしました。

「第12回農業Week」に出展した際の様子(武石氏)

【武石氏 インタビュー内容】
農業の分野は変わらず人の生活を支えていきますが、農業人口は著しく減少しております。農業自体が成り立たなくなると、私達の生活は成り立ちません。自身が担当した製品を通して、誰かの役に立ち、人々の生活を豊かにするという点で、農業という分野の重要性を感じることができました。「食」を提供する農業に携わることで、人々の役に立っていることを実感しながら、これからも自分の業務に全力で取り組んでいきたいです。

これまで知らなかった農業に触れ、これまでの自分の常識や考え方を良い方向に変えるきっかけになったと感じています。同世代の方々にも、世界を広げるために、自分の知らない分野に目を向ける・興味を持ってみることを是非お勧めしたいです。

北海道でのプライベートの様子(森氏)

【森氏 インタビュー内容】
現状の目標は、まずは北海道で1隻でも多くの漁船を販売することです。今、北海道の漁船の6割をヤマハ発動機が占めておりますが、熟練工や造船所は年々減少しております。それらを継続させるためにも、漁師の方々の要望を満たす漁船販売を加速し、日本の食を支える漁業の継続に寄与していきたいです。また、現状のオーダーメイド形式の工程をできるだけシンプルな工程に改良して、製造効率や品質を上げていき、持続可能な漁船ビジネスの構築を目指していきます。

漁師の方々との触れ合いの中で、漁業の難しさや大切さ、また自身も現地でいただいた魚介類の美味しさを味わえ、魚や貝の貴重さを感じて食べるようになりました。業務を通じて自分自身もフードロスに気を付けるようになりましたが、同世代の方々も「食」について関心を持ち、好き嫌いなく残さず食べるきっかけをつくっていただきたいです。