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食や人の交流から文化を創造するフードシフトな取組[Vol.1]

総合プロデュース企業として、創業80年にわたり、豊かな自然環境づくりと、食生活への奉仕を通して、日本の美、日本の文化を世界に発信されている八芳園様。

心を込めた「OMOTENASHI」と歴史ある日本庭園を軸に、挙式披露宴などのプロデュースだけでなく、社会貢献や地域活性化を目的に自治体や学生との連携にも積極的に取組まれています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの食や人の交流から新たな文化や価値を創造する取組について紹介します。


日本の魅力を伝える事業の成り立ちと特徴

2023年で創業80周年になる八芳園様。設立から成長の経緯、注力している取組などについて、株式会社 八芳園 取締役社長の井上義則氏にお聞きしました。

株式会社 八芳園
取締役社長
井上義則氏

【井上社長 インタビュー内容】
創業当初は飲食や料亭等の事業を中心としていましたが、次第に祝祭事を扱うようになりました。人口が増加していた時代に婚姻数が増え、八芳園も結婚式に特化した交流施設として成長してきました。常に「食」を中核とした交流をコンセプトに、結婚式以外のご宴会やMICEなどの受け入れも増加しましたが、現状でもブライダルが事業の大半を占めております。一方でブライダルのマーケットは人口減ということもありますので、2020年の東京オリンピック開催時の国策でもあったインバウンド施策をきっかけに、本格的MICE参入を決めました。とはいえ、弊社のブライダルサイズの会場はMICEのサイズに合わず、MICEの「I」であるIncentive Travelに特化し、これまで培ってきたブライダルのノウハウ・機能を生かし取組んでいるところです。

Incentive Travelに特化したMICEの様子

具体的には、グローバルイベントの獲得に向けて、ビジネスイベントショールームとして告知を打ち、2018年には東京2020大会の組織の方々を約1,500名招いて、様々な「食」を新しいコンテンツとしてPRし、かなりの投資も行ってきました。「食」に関しては、例えばベジタリアンやムスリムなど様々あるため、それらに関して研究をし、東京2020大会前にはノーポーク・ノーアルコールのムスリムフレンドリー対応セントラルキッチンをオープンし、きめ細やかな表示も徹底するまでに至りました。また、世界的に知られるマラソン大会のアフターランパーティーを企画から実行まで4年間実施しており、今年は全世界から約1,200名の参加が予定されており、それに向けた準備を行っています。1,200名の立食パーティとなると通常大行列ができるため、昔あった駅弁を販売するときに首から提げているトレイを用いて、ベジタリアン等それぞれに対応した食事を升に入れて配るということを行いました。赤い升はベジタリアン向け、青い升はビーガン向けなど分かり易い表示を施し、日本の文化を織り交ぜながら、様々な食に対応する工夫をしております。

様々な食事のニーズに対応したメニュー
(左:ビーガン、右:グルテンフリー)

このような取組を推進するにあたり、1億2千万人の日本のマーケットではなく、80億人に向けて無限の可能性を思考するよう常々社員には呼び掛けています。そのためには様々な国の食文化に対応する必要があり、東京2020大会の際から、各国食文化の調査を続け、世界の食文化に対応する地域自治体の食材を使ったメニュー開発を継続しています。それら開発したメニューを食べたいという自治体の方々がいるため、カップ型にして配送をするなど、配送にもクリエイティブに拘りをもって行っています。東京2020大会の際には、海外選手向けに食事を配送するなどの対応を行ってきたところ、その対応やメニューが喜ばれ、大使館からは多くのお礼が届きました。これらの経験から、今後は80億人を見て仕事をすべきという思いが益々強くなりました。

地域自治体の食材を使用したメニュー
(左:福島GAP野菜きんつば、右:岐阜あゆ)

戦後は世界に向けて外貨を稼ぐために各企業は事業展開していましたが、現状ほとんどの中小企業は国内マーケット向けに事業を行っています。しかし、今後は日本の中小企業もグローバルの80億人をターゲットとして、日本にある豊富な商材を使って戦っていくべきと考えています。人口減少や高齢化などは大きな問題ではなく、事業前提や市場を変え、世界を視野に戦っていく企業が増えると、これからの日本は面白くなると感じています。そして次世代の方々が世界に向けて戦える土壌をつくりたいと考えて、日々の仕事にあたっています。

人や地域に伴走した新しい価値のプロデュース

八芳園における食に関する特徴的な取組についてお聞きしました。

1.調理労働力不足の解決に向けて

【井上社長 インタビュー内容】
食に関する取組の一つとして、社内に商品開発部というセクションを立ち上げたことが挙げられます。そこでは、シェフによって味付けされた一次調理品と、温めれば食べられる二次調理品という二種類について開発を進め、観光事業者への提供をトライしようとしているところです。コロナ禍で調理労働力が失われ、インバウンドが戻ったとしても、調理する人がいないという状況が大きな背景としてあります。社内の料亭やレストランにおける状況も、従来のようにお客様のニーズに合わせた予約管理のみではなく、調理する供給側の状況にも考慮した予約管理となっており、結果として利益率は非常に上がっています。各地に行くとより労働力に問題があるため、味付けまで行った一次調理をした食材を供給することで、人材不足を補え、またどこでも八芳園クオリティを味わえるようになると考えました。

その第一号として開発したのが、鯛めしの缶詰です。瀬戸内海の地方自治体と連携し、八芳園のシェフの味付けで、海外を意識して無添加の鯛めし缶詰を作りました。二合のお米にこの缶詰を入れて炊くだけで、おいしい鯛めしがいつでもつくれます。味も大変好評ですが、常温で長期保管も可能であるため、非常食としての利用も期待しています。今後、自前の加工工場を作ることも検討していますが、これまでのお客様のオーダーに合わせた調理工程とは全く別のもので、全てが初めての挑戦です。しかし、調理労働力不足の解決に向けて皆で頑張っています。全国各地にも連携先がたくさんあるので、自前の工場ができれば、より連携も深まり、さらに一次調理品として海外への輸出もできるようになれば、日本の味をどこでも味わえるようになると考えています。

缶詰を使用して炊いた鯛めし

2.地域に伴走した地域プロデュース

【井上社長 インタビュー内容】
食を通じて、様々な地域との連携を行っており、その一つに山梨県山梨市の果実園があります。
そこでは桃、巨峰、シャインマスカット等を栽培されていますが、数割が未利用品となっているという課題があり、SDGsの観点からしても対策したい問題でした。また、甲府や勝沼と違い、山梨市の地域ブランドが弱いことも課題視されていました。そこで弊社がその未利用品を購入し、北海道江別の小麦を使った「フルーティピッツァ」を考案し、ピザ職人に開発してもらいました。生産者の中には、傷ついた未利用品を世に出したくないという考えを持つ方々もいましたが、開発したピザを試食いただき、その味に納得してもらうことができました。結果として、一つの農園で約200万円の売上につながり、加工の権利を買いたいという事業者も出てくるようになりました。この取組のように、農業の場にはSDGSの観点から様々な課題がありますが、工夫をすることで新しい価値・収益を生み出すことができることを検証できました。「フルーティピッツァの町、山梨市」というブランディングの方向性から、レストランの出口戦略までを一気通貫でワンストップに伴走できる弊社だからこそ、地域からも信頼していただき、連携協定を結べていると考えています。

未利用品の桃と国産小麦を使用した「フルーティピッツァ」

3. 世界に向けた福島県産食品のPR

【井上社長 インタビュー内容】
福島県に、国際基準の認証制度「グローバルGAP」の認証を取得した岩瀬農業高校があります。この岩瀬農業高校と連携し、彼らが栽培したお米で作った糀甘酒「福島県立岩瀬農業高等学校産米 無添加糀あまざけ」を開発しました。福島県産の米、福島県の瓶、福島県のデザイナーを活用したオール福島県でのブランドをプロデュースしました。
岩瀬農業高校の生徒がオランダでグローバルGAPについて学んだ際に、福島県産の食材は危険と言われたことがあり、それを払拭するためにグローバルGAPの取得に強い思いを持って取組んでおり、先輩から後輩へ継承されています。彼らの思いを伝えるにはどのようにすればよいかを考え、「無添加糀あまざけ」を『モンドセレクション2021』に出品しました。その結果、2021年優秀品質金賞の受賞をし、EU圏でグローバルGAPを取得した福島県産の食品を大々的にPRすることができました。校長先生はじめ高校生の皆さんに大変喜んでいただけたことは今でも忘れられません。本取組に関しては、商品を沢山販売することに注力するのではなく、福島県産の食品を認知してもらうことに重きを置き、アプローチをしてきたのが、他の取組と大きな違いの一つだと感じています。

岩瀬農業高校との連携をきっかけに、様々な交流の創出につながっています。港区の児童館では屋上で稲穂をつくる試みがされていますが、スズメに食べられてしまう被害を聞いたため、岩瀬農業高校の高校生にレクチャーをお願いしたこともその一つです。オンラインでのレクチャーから始まった交流ですが、最終的には港区の児童達が福島へ稲刈りツアーへ行くまでの交流に発展し、子供達の農業に対する思いが育まれ、また高校生達も自信やモチベーションに繋がったと聞きました。このように交流によって文化や新しい価値が創造される可能性を強く感じた事例になっています。

そして、高校生との取組は、先輩から後輩へ受け継がれ、毎年継続・発展されていくため大変有意義であり、また地域社員の採用機会にも繋がるため、地域振興の一助となれば幸いです。海外に対しても、このように交流を創出することによって、交流観光や交流文化などのコンテンツとなり、新たな市場になりうると考えています。

無添加糀あまざけ

「交流文化創造市場」の土台づくりに向けて

八芳園が目指す今後の展望についてお聞きしました。

「交流文化創造市場」の様子

【井上社長 インタビュー内容】
昨今、日本全体としてDXへの対応が求められていますが、デジタルへのトランスフォーメーションを考えるのではなく、まずは事業前提を変えることが必要と考えています。社内ではデジタルツールに置き換えればなんとかなると考えがちですが、事業前提が変わらないと、効率が悪くなってしまうケースが生じます。そこで、事業前提が皆に分かりやすい形で共有され、強いリーダーシップで発信・推進されるべきですが、なかなか全社で共有して一丸となるまでには時間が掛かっています。そこで弊社では、交流しながら文化を創造する、「交流文化創造市場」をつくることを掲げています。食や人が交流しないと新しい文化や価値はクリエーションされません。従って、人が交流できる施設を持つことや、地域などとの交流を通して文化を持続可能なものにプロデュースする横串的な役割を担うことで日本の価値をより高められると考えており、弊社の目指すべき役割と考えています。そして、食と文化、婚礼と文化、祝祭と文化などの新しい価値をクリエーションしていきたいです。

この「交流文化創造市場」を推し進めるために、まずは市場自体をトランスフォーメーションする必要性を感じています。日本の中で交流文化創造市場のスタンダードができ、その中には観光もあれば、食を育むものなど、包括的な形で海外にも伝わっていく事を望んでいます。日本との交流に価値を見出したり、元々ある日本の文化や歴史に関わりあるものを磨き上げて伸ばしていき、関係人口や交流人口の接続機関として出口までを伴走する、そんな企業になりたいと考えています。これを創出し、形にして、持続していくのは今はまだ理想的なビジョンですが、我々はまずは土台をつくり、Z世代やα世代が世界と交流し、日本の文化を語り、インターネットやブロックチェーンの中で可能性がある文化やアートの分野にも貢献できるような世界に繋がるように目指していきます。

八芳園を代表する日本庭園

https://www.happo-en.com/


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