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植物工場でレタスを生産!?未来の美味しいを創るメガファームの取組とは。[Vol.1]

1720年から続く農家を法人化し、全国の農家や企業とも連携しながら、「食と人と農業の未来のために 美味しい食の安心、安全、安定」を創り続けている株式会社舞台ファーム様。

最先端のテクノロジーを駆使した、食料供給システムの構築をはじめ、土壌開発を通した環境に優しい農業など、多様な視点から農業を発展・進化させる取組を追求されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの、日本の農業にイノベーションを起こす取組について紹介します。


創業300年以上の農業生産法人がチャレンジを続ける、食と農のイノベーション

家族経営の小さな経営体が主体の日本の農業において、グループで年間約40億円の売上を出している舞台ファーム様。今回は、その源泉である全国のさまざまな農家や企業、自治体などと連携し、食と農にイノベーションを起こす取組について、未来戦略部の西古 紋氏にお聞きしました。

株式会社舞台ファーム
未来戦略部
西古 紋氏

【西古氏 インタビュー内容】
私たちは300年以上続く農家を母体としており、企業DNAとして食と農を大切にする日本の伝統的価値観が脈々と根付いています。そこが一般的な食品加工会社とは異なる部分なのかなと思っています。コンビニエンスストアなどに野菜を供給しながら大きく飛躍し、2003年より農業会社として法人化しました。

大きな転機が訪れたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。当社の施設・農場にも甚大な被害が及ぶ中で、食料のサプライチェーンが寸断される中、被災者の皆様のため、約3万食もの炊き出し支援を行いました。
「今日食べるものすら無い」という極限状況となった大震災を経て、改めて「食と農」が果たす社会的役割の重要性を認識し、膨大な復旧作業というマイナスからのスタートとなりましたが、自社の新たな成長とイノベーションへの重要なパラダイムシフトとなりました。そしてそれが今の経営理念にも示されています。

それ以降は、コンビニエンスストアやスーパーなど販路を順調に拡大させており、生食用カット野菜(パッケージサラダ)や植物工場の根っこ付きで鮮度が維持できるレタス「つみたてサラダ」などを販売しています。

根っこ付きで販売している「つみたてサラダ」

舞台ファームのカルチャーとして「イノベーションを常に起こし続ける」ということが挙げられます。これは代表を始めとする経営陣の考え方でもありますが、人類の歴史の中でも食についてはなかなかイノベーションが起きにくい分野といわれていますが、それは生産者から消費者までのサプライチェーンが分断されていることが大きいと思っています。今でこそオンラインで野菜などを販売する手段が出てきましたが、一昔前まではスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店を通してしか消費者の声を聞くことができず、生産者が直接お客様に販売するという形態はほとんどありませんでした。小売店で販売されるまでにも卸売業者や物流業者といった様々なサプライチェーンを経るため、生産者の思いが消費者になかなか伝わりませんでした。

そのため当社では、自社で物流や卸しを行い、自社製品の生産、マーケティングも全て行い、消費者がどういった野菜を求めているかに耳を傾け、生産から変革をしていくといったところを全て担える会社になっています。これも、イノベーションに対しての熱い思いが会社の哲学として根付いているからこそ、実現できていることだと考えています。

舞台ファームの拡大戦略である「舞台エコシステム」

ベンチャースピリットが強い老舗農業会社の取組

300年以上が続く農家をルーツとしながらもベンチャースピリットが強く、他の農業法人にはないイノベーションを起こされてきた舞台ファーム様。これまでに舞台ファーム様が実現されている革新的な取組についてお聞きしました。

1.レタスの消費量の約5%が賄える!次世代型植物工場による持続可能な新しい農業

【西古氏 インタビュー内容】
当社のイノベーションとして最も大きな取組は、宮城県美里町で2021年にオープンした次世代の植物工場である「美里グリーンベース」です。ここでは、1日3~4万株のレタスを生産しています。これは、日本全国におけるレタスの消費量の約5%にあたります。特徴としては、最新鋭のガラスの園芸ハウスを利用し、太陽光とLEDを使い分けたり、環境にも配慮した施設となっています。

次世代型植物工場「美里グリーンベース」

この施設を作った理由として、野菜の安定生産をしていきたいということがありました。露地栽培で安定供給し続けることがどれだけ難しいことなのかは農業を続けてきた当社だからこそ、よく知っていることです。

コンビニエンスストアへの袋野菜の供給においては、全国の農家と連携をして野菜を仕入れて加工しているのですが、農家さんからは「あと10年も続けられない」という声を聞くことがあり、このままでは事業を継続できないと感じることも多くありました。農家の高齢化による人手不足は深刻であり、この問題の解決するためには人手のいらない植物工場が必要になると考えました。実際に、美里グリーンベースでは、社員40人程度でこれだけの野菜の生産をすることが可能です。

美里グリーンベースには最新のテクノロジーも取り入れており、苗の育成から栽培までの工程をコンピューターで自動管理するシステムを開発しました。これにより、露地栽培と比べて、約80倍の効率で安定的な生産が可能になっています。

「美里グリーンベース」でのレタス栽培

2.アイリスオーヤマと合弁会社を設立!異業種との連携による、付加価値の向上

【西古氏 インタビュー内容】
当社ではアイリスオーヤマ様と連携し、農産物に付加価値をつける取組をしています。具体的には、日本最大級の精米工場を有する「舞台アグリイノベーション株式会社」を2013年に合弁で設立し、現在舞台ファームで生産したお米を同工場で精米しています。

アイリスオーヤマでは、その後パックライスの開発も行っており、ライフスタイルが変化していく中で、家に帰って電子レンジで温めればすぐに温かいご飯が食べられるという手軽さは、食の新しいニーズに応えていると考えます。

アイリスオーヤマとの合併会社として設立した「舞台アグリイノベーション」

3. 新しい農業の担い手を育成していくために。農業の課題解決に向けた取組

【西古氏 インタビュー内容】
当社では、農業の課題解決に向けた人材育成にも力を入れており、自治体とも連携し取組んでいます。具体的には、2017年に包括連携協定を結んだ茨城県境町とのグリーンカラー人材育成支援事業です。農業を活性化するため、農業者支援を行いながら、ビジネスに繋げられる仕組みを提案・構築しています。

茨城県境町との取組に限らず、当社が自治体連携を行う理由は「持続可能な農業の実現」が根底にあります。「持続可能な農業」を行うことで、日本全国の農家と一緒に「稼げる農業を実現しよう」といったミッションで取組んでいます。

その考えの背景には、私たち農家の課題の多くは経済的な面で解決できることもあると考えているからです。これまで全国のあらゆる農家と連携をしてきましたが、儲かっている農家には後継者がいて、適切な設備や機械投資が行われ、労働環境が改善し、持続可能な環境が整っているという特徴がありました。当社も、道半ばではありますが農家の一員として、同様の課題を抱える全国の農家と地方自治体を通して連携し、「儲かる農業=持続可能な農業」を一緒に創るために様々なアプローチをしています。

自治体との連携協定 締結式

舞台ファームが考える4つの「X」とは?今後の食と農の持続可能性に向けた展開

舞台ファーム様が考える、食と農の持続可能性に向けた将来への展望についてお聞きしました。

【西古氏 インタビュー内容】
当社として、未来の食と農の持続可能性がキーポイントだと考えています。しかし、農業を持続するには、大きな課題がまだまだ横たわっています。私たちとしては、その課題を解決しつつ前に進む会社になりたいと考え、4つの「X」をポイントとして据えています。

1つ目が、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」です。農業の生産に使うエネルギーを未来に残していくために、どう変革をしていくか、ということです。
「美里グリーンベース」はエネルギーを効率よく使い、エコで地球に優しい工場です。さらに、工場内では最大で約90万株のレタスが光合成をして、大量の二酸化炭素を吸っています。こういった形で地球のサステナビリティにも貢献できる農業を考えています。

次が、生産した農産物を運ぶ際に必要となる物流に関する「LX(ロジスティクス・トランスフォーメーション)」です。
2024年問題で物流のルールが変わり、今後は地産地消もキーポイントになると思いますが、私たちとしては物流の効率までをきちんとスコープに入れていきたいと考えています。当社だけで、できることはかなり限られますが、物流センターに必ず必要な冷蔵庫のエネルギーの効率まで視野に入れています。自動走行トラックや水素で走るトラック、電気で走るトラックなど、様々なサステナビリティを実現する技術も含め、検討を行っています。

3つ目は、「FX(フードトランスフォーメーション)」です。これは、鮮度を延長してフードロスを削減したり、植物工場で作ることで液肥の効率を良くしたり、といったことが挙げられます。他にも植物工場の特徴である機能性野菜を栽培しやすいということを活用し、例えば医食同源のような東洋医学の考えを用い、「食べたら健康になる」野菜といった可能性も広がっていきます。こういった食べるものに対しての機能のトランスフォーメーションをしていきたいと考えています。

最後に、既に様々な業界でも取組まれている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」です。栽培管理のAI化など、当社には専門的なチームがいるので農業生産者家の中ではかなり進んでいるのではないかとは思いますが、今後もさらに生産に関する部分のデジタル化が進めば、このシステム自体が世界中に売れるものになるのではないかと考えています。例えば、レタスを猛暑の時期に生産するのは極めて難しいため、業界の中でも「どうしてこんなに暑い夏でもレタスを大量に作れるのか」と聞かれますが、これは本当にDXのおかげといえます。生育に良い最適な変数をAIに解析をしてもらい、私たちの農業技術や農家としての直感も含めてデータセンシングをしているというところが一番のポイントだと思っています。

これらの技術を組み合わせ、当社の強みを活かしながら、食と農が持続していくためのイノベーションを起こしていきたいです。

食と農に関連する4つのトランスフォーメーション


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