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農林漁業の発展を支えるモーターサイクル企業の取組[Vol.2]

創業以来60年以上にわたり、ものづくりやサービスを通じて多様な価値を創造する「感動創造企業」として、日本だけでなく世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供されてきたヤマハ発動機株式会社様。

オートバイ等の輸送用機器にとどまらず、漁船や和船、産業用無人ヘリコプター等、農林漁業が抱える課題解決を目指し、製品の開発・製造を行い、日本の食の未来を支える取組を展開されています。

今回はニッポンフードシフト推進パートナーの、日本漁業の継続に向けた取組についてご紹介します。


危機に直面する日本漁業への挑戦

日本の食文化に欠かせない漁業を支える漁船・和船を製造するヤマハ発動機様。今回は、長年漁船の営業に携わってきたマリン事業本部マーケティング統括部の谷本 一志氏、漁船の開発・製造をされている製造統括部ボート製造部の唐下 仁志氏に、漁業における取組についてお聞きしました。

ヤマハ発動機株式会社
マリン事業本部マーケティング統括部 谷本 一志氏(左)
製造統括部ボート製造部 唐下 仁志氏(右)

【 インタビュー内容】
当社は、約60年前から漁船造りを開始し、メーカーとしては初めてFRP(繊維強化プラスチック)の漁船を販売しました。現在は当たり前のFRPですが、当時は木船が主流だったこともあり、新しい素材の漁船を使用してもらうまでには多くの苦労があったと聞いています。例えば、実際に木槌でFRPを叩いて強度を示したり、全国津々浦々で試乗キャンペーンを展開したりする等、様々な方法で実用性・有用性をアピールし、徐々に近代的な漁船が受け入れられてきた経緯があります。また、エンジンの高出力化が進み、スピード性能を生かした現在の船型に進化してきました。このように、FRP漁船が漁師さんに受け入れられたことで市場も木からFRPへの代替が一気に広がると同時に、当社の技術力でスピード性能や安全性の高い製品を次々と開発してきました。高品質のFRP漁船が近代設備の整った生産工場にて生産され、長期間使用しても劣化の少ない船体は他社が追随できない製品となっています。

ヤマハ発動機初の漁船「第三富士浦丸搭載艇」(左)と量産型漁船(右)

現在、当社漁船の生産工場は北海道と天草の2カ所にあり、それぞれの工場では漁種や用途、出漁する海域に適合した漁船を生産しています。しかしモデルによっては開発時期がが20~30年前の商品もあり、スピードやスタイル・使い勝手において次世代の若い方々に訴求できにくくなってきています。水産業の持続発展の為にも、最新の技術力を生かした新商品の開発は継続し今後もチャレンジしていきます。それは船のスピードや燃費の向上に加え、更には水揚げの向上へも繋がるような商品開発に挑戦することです。
少しでもお客様の漁業の役に立てるよう開発・営業・技術関係者と製販技一体となって努力してきたことが、長年当社の漁船を愛用いただいているお客様との信頼関係にも繋がっています。特に漁業に携わる方々は、人と人の信頼関係を重要視される傾向が強いと感じています。そこに、当社製品の先進性や安全性の高さも相まって、長年の信頼を得ていると感じています。

漁船の設計・製造の様子

世界の漁業を見ると、漁業・養殖業の水揚量は右肩上がりで、北欧等では漁師は多くの人が希望する高収入の職業になっています。しかし、日本では2003年に約24万人いた漁業就業者が2021年には約13万人まで減少し、水揚量も減少している現状があります。さらに、漁師の高齢化が進む中、担い手不足も年々進行しており、危機的な状況を迎えていると言えます。そのため、日本の漁業が将来にわたって継続することができるよう、当社の技術力を生かした魅力ある漁船の開発や、海の環境保全に向けた活動等、当社のできることから取組を開始しています。

日本の漁業を再び盛り上げる

ヤマハ発動機様の強みである技術力を活かした魅力ある漁船造りと、事業の枠を超えた海の環境保全の活動についてお聞きしました。

1.漁師が乗りたくなる、魅力ある漁船造り

【インタビュー内容】
日本の漁業の課題である担い手不足への対応として、若い世代の後継者が魅力的と感じる漁船を提供できるよう、新たな開発・製造に取組んでいます。これまでの漁師さんとの対話の中で、世代によって漁船に求めることが違うということがわかってきました。例えば、若年層は流線形の形を好み、高齢層は角ばったスタイルを好むといったことです。実際にオーナーや漁業組合の声を参考に、最も重要視されているコックピット(操舵席)のスタイリング・デザインを工夫したり、漁船の性能、デザイン、機能、安全性、コストなどのバランスを加味しながら設計を行っています。

また、現在はカスタムオーダーでの製造が主流ですが、コスト面で漁師さんの負担が大きく、なかなか購入することが難しいという問題もありました。そのため、今後は「カスタム製造」から「オプションを選択する形での製造」へ移行し、船本来の性能や安全性を担保しながら、納期の短縮、費用の削減につなげています。これにより、若い方が魅力的だと思う漁船を、安定した価格で提供できるようになり、後継者問題の解決に向けた一助になればと考えています。

異なるデザインの漁船
(左:流線形のスタイル、右:角ばったスタイル)

2.サステナブルな海洋資源の保全活動

【インタビュー内容】
海水温が高くなると魚は北上し、例えば南方で捕れていたブリが北海道でしか捕れなくなるといったことが起こり、漁師にとっては死活問題につながります。当社では、北海道の水産研究者の方々と共に、北海道の各港の水温を測定・分析して、10年後の魚種別漁獲量の予測などを行い、捕れなくなる可能性がある魚を推測する等、今後の動向を把握する取組を行っています。

また同時に、当社としてできることは限られますが、漁業に関わる事業者として、少しでも日本の漁業が継続できるよう、海の環境保全に寄与したいと考えています。その一つとして、海水温の上昇や、海洋の酸性化等によりサンゴの白化が進み深刻な状況にある沖縄県の恩納村で、15年前からサンゴの保全が保たれるようサンゴの植え付け活動を始めました。数十本の植え付けでは大きな問題解決にはならないかもしれませんが、この活動を通じて海の環境保護に対する人々の意識の変化に繋がればと考えています。15年前に1~2人で始めた取組も、今年は30名程度の社内ボランティアが集まる活動に広がり、普段はマリン事業に関わりのない社員も環境保護に関心を持って参加しています。このような意識が家族や友達に広がり、海の環境、サンゴ、海洋生物の保護につながり、水産業を継続していく一助になれば幸いです。

水産庁でも持続可能な漁業を目指して資源を守る取組が始まっており、適切な資源管理を行うための目標が設定されています。それに追随しながら、海洋環境保全に働きかけながら、当社の事業も継続していきたいです。

社内ボランティアによるサンゴの植え付け活動

漁師と共に目指す新たな日本の漁業の未来

漁船造りの継承と海洋環境の保全に向けた今後の展望をお聞きしました。

ヤマハ漁船での漁の様子

【インタビュー内容】
漁船・和船の提供に欠かせない地域との信頼関係をベースにものづくりを継続していくため、社内でも長年培った知識・スキルを伝承していく必要があると考えております。そのためにも、先輩方の経験と私達の経験をうまく社内でシェアしていくことが重要であり、当社においても大きな挑戦・課題です。

また、漁業の継続には、海洋環境を保全していくことが求められます。そのために、当社では燃料性能改善を目指した船型開発にも挑戦しています。
スマート水産などITを駆使した取組も大変な期待を感じています。このような新しい挑戦は、国と民間が連携することで、環境にも優しい次世代型の漁船開発や最新技術を活用した作業効率の改善などが期待でき、第一次産業である漁業をより豊かにすることができると考えています。高齢化や後継者不足など喫緊の課題に対しても対策が進んでいけば、地域の漁業者への強力なサポートになることは間違いありません。

大変光栄なことに、漁師の皆様からは「いつかはヤマハ漁船に乗りたい」と言っていただけるブランドとなっているようです。海外での当社への期待も高く、日本・世界に向けてヤマハブランドを更に発信し、ブランド価値を高めていきたいです。そして、日本の食文化に欠かせない魚介類を、これからも皆さんが楽しめるように、漁船・和船の提供などを通じて努力していきたいです。

ヤマハ発動機を代表する漁船・和船
(上:DW-480-OA、左:DX-53C-0C、右:W-43AF)