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たった5種類の小麦から数百種類の小麦粉⁉

パン、うどん、ラーメン、クッキー、ケーキ、カレールー、ぎょうざ・・・
スーパーの売り場で様々な商品の原材料欄を見てみると、私たちの身の回りにあるほとんどの食品に小麦粉が使用されていることが分かります。ところがそこにはそれぞれ違う小麦粉が使用されており、その原材料となる小麦は、政府が輸入するたった5種類の外国産小麦がベースとなっていることを、皆さんご存じでしたでしょうか?

確かに、小麦粉製品では、柔らかいパンやサクサクしたパン、モチモチした麺、いろいろな食感が味わえます。
うどんやラーメンも、細麺、太麺だけでなく、それぞれお店ごとのこだわりの麺を味わえますよね。
この小麦粉製品の多様性は、どのように生み出されているのか、製粉企業(日清製粉グループ)の方にお話を伺いましたので、ご紹介したいと思います。


日本に輸入される小麦は5種のみ!?

国内で1年間に使用されている約600万トンの小麦のうち、約100万トン(14%)は国内生産、500万トン(86%)は海外からの輸入です。海外から輸入される小麦は政府が一括で買い付けており、その原産国はアメリカ、カナダ、オーストラリアの3か国で、これらの小麦からパンや中華麺に向いた強力系、スポンジケーキ用には薄力系、うどん用にはその中間にあたる中力系などの様々な小麦が生産されています。この3か国から輸入される小麦は、日本政府が定めた厳格な品質基準に適合する小麦のみで、その主要銘柄は5種類しかないそうです。
しかし、日本国内で使用される小麦粉の用途は、昔から多岐にわたっています。そのため、国産小麦及び海外からの5種類の小麦を使って日本の食ニーズに合った多様な小麦粉製品をつくる技術が求められるようになったそうです。小麦粉製品をつくる技術は、「小麦を粉にする技術」と原料となる小麦を「ニーズに合わせてブレンドする技術」に分かれており、それらの組み合わせで数百種類以上の小麦粉製品が生み出されているそうです。

様々な用途に対応した小麦粉製品 (日清製粉グループ様提供)

一般的な「小麦を粉にする技術」

そもそも、お米と違って小麦を粉にする理由として、大きく2つあります。1つ目は、うどんのこしやパンのボリュームをだす元となるグルテンを生み出すために粉状にする必要があること。もう一つは、お米と違って、小麦の皮繊維は非常に強く、そして中身が柔らかいことに加え、外皮の一部が内側に入り込んだ形状をしていることから、お米のように皮のみ取り除くことが難しいためだそうです。

小麦内部の構造模型(製粉ミュージアム提供)

小麦を粉にする際には、まず小麦に混入している茎や砕けた粒などの夾雑物を、製粉する前に分離、除去する「精選」を行い、次に、小麦粒を製粉に最適な状態とするため、少量の水を加える「調質」を行います。そして、ロール機で粉砕し、篩機(ふるいき)でふるい分けを行います。さらにピュリファイヤーという機械を用いて小麦粉となる胚乳部と皮を風力と振動を利用して分離します。小麦粉の製造ではこれらの機械を複雑に組み合わせ、一つの小麦から十分に細かくなった粒は小麦粉となる部品(上がり粉)として採取されます。様々な小麦粉の特徴は原料の組み合わせに加え、この上がり粉を組み合わせることで生まれるそうです。

小麦を粉砕するロール機(製粉ミュージアム提供)
ロール機で粉砕した小麦片を大きさ別に選別する篩(ふるい)機
(製粉ミュージアム提供)
選別した小麦片の皮を取り除くピュリファイヤー(模型)
(製粉ミュージアム提供)

日本の「小麦を粉にする技術」のオリジナリティ

日本の製粉工場は、世界的に見てもかなり細かく上がり粉を採取していると言われています。その理由は多種多様な食文化に合わせて多品種の小麦粉を製造するためで、その機械の組み合わせと上がり粉の組み合わせは製粉会社のノウハウとして厳格に管理されています。さらに各種設備は複雑につながっており、1種類の小麦から数十種類の上がり粉が細かく段階的に採取されることも日本の製粉工場の特徴とのことです。

1種の小麦からできる上り粉の多様性(製粉ミュージアム提供)

国内産小麦や輸入された小麦の組み合わせに加え、この上り粉を多種多様なニーズに合わせてブレンドすることにより、数百種類もの小麦粉製品の製造を可能にしています。
【原料の組み合わせ】 × 【上り粉の組み合わせ】 = 数百種類の小麦粉

安定した品質を実現する「ニーズに合わせてブレンドする技術」

最終的な小麦粉製品の安定的な品質を担保することにも活用されますし、農産物である小麦は天候等の避けられない理由により品質が異なることがあります。また、小麦粉の製造においても気温や湿度が常に同じ条件で製造することが出来ません。そのような中、安定した品質の小麦粉製造を実現していくためには、科学的な分析に加え、時には繊細な職人技も必要とのことです。日本の製粉技術は「小麦を粉にする技術」と「ニーズに合わせてブレンドする技術」によって、食品メーカーや外食店が求める新製品開発に合わせて多種多様で安定した小麦粉製品を提供することを下支えしています。

工場における複雑な設備の組み合わせの模式図
(製粉ミュージアム提供)

国産小麦粉製品への対応

最近では、国産小麦の生産も増加傾向にあり、その国産小麦を使用した国産小麦粉製品へのニーズも高まっているそうです。しかし、広大な土地で栽培され、日本向けの規格に合わせてブレンドされた海外産小麦と比べ国内産小麦は、その年の天候などにより品質にばらつきがどうしても生まれやすい環境にあります。国内の生産者が生産した食用小麦は全量、製粉会社が購入します。ここでも、海外産小麦で製造された小麦粉と同様に均一な品質の小麦粉製造の実現のため、鍛え抜かれた「小麦を粉にする技術」と「ニーズに合わせてブレンドする技術」が、国産小麦の製品化にも活かされています。

製粉メーカーの取組

日本で独自に進化した「小麦を粉にする技術」と「ニーズに合わせてブレンドする技術」によって、今日の日本の製粉技術は世界に比類のない進化を遂げています。近年、アジアを中心に日本の高品質な小麦粉を求める動きがあります。特に中国では、日本の食パン専門店が並ぶようになって、小麦粉を作る技術も上がってきていますが、未だ日本のレベルには追い付いておりません。

この日本の「小麦を粉にする技術」と「ニーズに合わせてブレンドする技術」を支えてきた製粉トップメーカーである日清製粉グループ様に、日清製粉グループにおける製粉の歴史について、製粉ミュージアムの町田館長に、お話をお聞きました。

【町田館長インタビュー内容】
ここ館林は日清製粉グループの創業の地です。世界的に見ても貴重な製粉をテーマにした文化拠点として「製粉ミュージアム」を2012年に開設しました。新館は、最新の製粉技術を楽しく、わかりやすく、体感できるミュージアムとして、小麦や小麦粉に関する様々な知識を学ぶことができます。

製粉ミュージアム

本館は、日清製粉の創業からの歩みを、時代を追って紹介しており、創業期より事務所として使われていた建築物も近代産業遺産であり、館林の日本遺産「里沼」の構成文化財のひとつにもなっています。そして、市民に憩いの場を提供するために緑あふれる中でくつろぐことができる日本庭園を設置しています。明治の機械製粉黎明期の様子から最新の製粉テクノロジーまで、製粉にまつわる幅広い知識を集約しています。

製粉ミュージアム本館の資料展示室

これまでの日本の製粉技術をけん引してきた日清製粉グループ様。その歴史や過去だけでなく、今後のさらなる製粉技術の進化に関して、お話をお伺いしました。

【 インタビュー内容】
ご覧いただいてお分かりの通り、弊社の設備で使われていた製造機器は、進化しながらもアナログな側面があり、使用に際しては職人的な判断が必要な部分もありましたが、現在はデータを駆使して製造管理を行い、安定した高品質の小麦粉を目標に製造しております。

また、市場が形成されている 国産小麦への対応も含めて、多種多様な小麦粉を製造できるよう今後も努めていきます。外国産小麦の場合は、規格に合った小麦を輸入しております。一方、国産小麦の場合は作柄によっては外国産小麦と比べると品質が安定していないことがあり、よりきめ細かい技術が求められるので、製粉会社としても腕の見せ所です。国産小麦にもしっかり対応できるノウハウに、さらにデータを活用した技術力で対応していくことが重要です。
また、現在弊社では2025年の稼働に向けてこれまでに培ってきた技術に、最新の自動化・デジタル技術を融合させた環境配慮型の新工場を水島地区に建設しております。この工場が稼働すると大型臨海工場比率は現在の83%から92%に上昇します。この施策によりコスト競争力を強化すると共に、主要食糧である小麦粉の安定供給を実現してまいります。

これからも様々な食ニーズに応えられるよう、技術力向上に努め、「健康で豊かな生活づくりに貢献する」ことを実現していきたいです。